第93話 羨ましい兄妹


 レオンの妹、ミモザ・サーレンはオレンジに近い髪を結い上げた少女のような女性だった。母親はレオンと同じ第二夫人だが、背がそれほど高くはない。どちらかというと第一夫人と似た雰囲気を持っていた。


 その横にいるのは眼鏡をかけた細身の中年で、少し野暮ったいと言っては失礼だが、レオンやレオンの父親のような妙なオーラのない人だった。それに一回りは年上だろう。


 レオンの妹が押しかけたと聞いていたのでどんな美青年が出てくるのかと思っていただけに、なんとも判断がしにくい。


 レオンの家族はみなちょっと変なのだろう。


 レオンから婚約者だと紹介をされ、挨拶を交わす。


「レオン殿が婚約されたとは聞いております。ミモザの夫のアクアリオス・サーレンです」


 お人好しを絵に描いたような雰囲気が滲み出ている。なんというか、貴族では滅多にみないほわんとした雰囲気がある。あの王族と血の近い親戚だと言うのに、無雰囲気が全く似ていない。顔は、やや近い系統だが、並んでも親戚だと当てられない自信がある。


「お兄様は、本当にお父様に似てきましたわね」


 実の兄が、準男爵と結婚すると言い出せば妹としては苦言も出るだろう。


「ああ、リラ殿はビオラ母上にも負けない美貌と知性を兼ね備えている」


 どやっと胸を張ってレオンが返す。


「確かに、お父様のご趣味はとてもいいですけれどっ……けれど」


 自分で言っておきながら、実母ではない方も評価しているようだ。第一夫人を悪し様には言えないだけか。


「ビオラ母様ほどの女性などそうそうおりませんわ。果たして、そちらの方が本当に、お母様のような公爵夫人となれるでしょうか」


 ふさわしいわけがないじゃないですかと言いたいのを飲みこんだ。後、妹君も第一夫人が大好きなのだろうと言うことはわかった。多分、この妹含めて家族仲は良好だろう。


「リラさん、妻はレオン殿のことが大好きなので、大好きな兄を取られたようで嫉妬しているだけですから、あまり気になさらないでください」


 のほほんと夫さんがフォローを入れた。


 私とて、別に気にしていない。


「立ち話もなんですから、お部屋に案内を。後で息子の紹介もさせてください」


「ああ、そういえば、無事に出産したとは聞いたが、孫の顔を見れていないと母達が嘆いていたぞ」


「赤子に長距離を移動させるわけにはいきません。それに、領地の管理などで忙しかったのです。五つくらいになってから、里帰りをしますとお手紙は書きましたわ」


 仲のいい兄妹の会話を聞きながら、滞在する部屋へ向かう。


「最近財政がようやく落ち着いてきたのですが、お恥ずかしながらまだそれほど余裕がありません。公爵邸に比べれば質素に思われるかもしれませんが、一番いい客室を用意させてもらいました」


「今は領主の屋敷よりも、領民の生活向上が急務なのです。お兄様たちを蔑ろにしているわけではございませんからね」


 案内された部屋は金の食器や彫刻が飾られているわけではない。素朴な作りだ。屋敷自体、少し古いと思っていいたが、上手に改築しているのだろう。


「状況は妹から伺っています。無理を言って滞在をさせて頂くのですから、お気遣いはなさらずに」


 どこかバツが悪そうに妹君がこちらを見た。


「こちらは、かなり歴史のある建物とお見受けします。その良さを残しつつ、丁寧に改築されているのですね」


 建て直してもいいのだろうが、古いものには古いものの価値がある。


 褒めたつもりだが、なんとも不服そうな顔を返された。元は公爵家の令嬢、こんなに顔に出て大丈夫だろうか。


 後程と言い、妹君夫婦が去る。


 部屋は城と同じで続き部屋だ。間に使用人部屋はあるが、互いの行き来にはベッド近くの扉で直接向かえる。


 調度品は木製で、アンティーク品だろう。


「妹が失礼を……注意をしておきますので」


「? 失礼とは思いませんでしたが。実際、大事な兄がどこの馬とも知れない女を連れてきたら警戒もするでしょう」


 ふと、私にも兄がいたが、婚約もしないままに兄ですらなくなったなと思い出す。誰と婚約、結婚しても嫉妬はしなかっただろう。一緒になっていびられたら嫌だからまともな人であればいいが、まともな人では離婚になるか苦労するだろうから同情してしまっただろう。


「兄の婚約者に嫉妬するなんて、可愛いじゃないですか」


「あれでも一応リラ殿とは歳が変わりませんよ……産まれ月はミモザの方が早いくらいです」


「随分、童顔なのですね」


「気にしているので、本人には言わないでやってください」


 二十歳を超えているとは正直見えないし、子供がいるとも思えない。公爵夫人たちも若く見えるので家系だろうか。




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