第92話 ミモザ
私の兄、レオン・ソレイユは王太子が好きなのではないかとか、熟女か幼女が好きではないかと言う噂が出ていたことがあります。
女性ばかりのお茶会では、情報収集と牽制、そして完璧な公爵家の弱みや妬みとしてそんなことを耳にしてきました。
そんな女っ気がないお兄様が婚約をしたというお手紙はいただいています。
リラ・ライラック準男爵。元男爵令嬢らしいけれど、お兄様と婚約する前はマリウス殿下の婚約者であったと言われれば、表立って批判できるものはいないでしょう。
王太子にどのような人物か確認のお手紙を出したところ、なぜかまだお会いしたことのない聖女様からお手紙が返ってきました。
女性が女性に送る手紙は、嫌味や嫉み苦言が誉め言葉というオブラートに包まれていることがある。後、私に来るあまり親しくない学友からの手紙はほぼすべて兄を紹介しろと言うものです。
聖女様の手紙を多角的に検証した結果、聖女様は婚約破棄させる原因になったことを気に病んでいるか、リラ・ライラックに何かしらの弱みを握られているということが分かりました。
「お兄様の目を覚ます必要があると思うのですよ」
「いやぁ、手紙を読むに、とても優しいお嬢さんで、レオン殿との関係も応援していると取れたけれど……」
「いいえ、女性が女性への手紙で女性それも婚約者の前の婚約者を褒めるなどあり得ません」
「そうかなぁ」
夫のアクアリオス・サーレンが暢気に首を傾げます。
本来であれば昨晩に到着予定の兄たちは、予定を変更し本日の夕刻に着きます。
「そもそも、お兄様に言い寄る女は碌な女がいないのです。いっそそういう呪いにでもかかっているのではないかと思うくらいに」
正式な公爵家の跡取りと認められていて、顔もよくて文武両道、領地運営まで完璧で、妹思いの素敵なお兄様です。女性が寄ってくるのは仕方ないことだと思いましょう。けれど、兄を支え、時に癒しを与えられる。そんな母達のような女性は出てこなかったのです。
お友達に素敵な女性がいれば紹介することもやぶさかではございませんでした。尽力した結果、お父様の趣味も納得してしまう程に女性の闇を知ることとなりました。
「城のものから、第二王子と第一王子の息子と夕食を共にしたと報告がきたよ。帰路の際には、私たちと共に登城するようにと王陛下から命令が届きそうだと」
公爵家の飛行船がこちらに近づくのを見ながらアクアリオスが言います。
「……領地を離れられないとおっしゃってみては?」
兄たちはルビアナ宝国へ向かう経由地として我が領によります。ここからであれば馬車を使えば数日で済みます。今後、交易をする場合、ルビアナ国が飛行船の航路を許可しない場合は、今回使うルートで貿易品を運ぶことになるでしょう。
現在、色々と揉めているルビアナ国と私たちの領地は国境を接しています。戦争までには発展していないものの、新国王の動向は読み切れず、害なしてくる可能性は否定できないのです。
今回、お兄様がルビアナ国へ行くことで、私たちの領地運営にも大きな影響が出ます。
「ミモザ、君のおかげでこの領地も安定した。けれど、私の立場はまだ微妙なままだ。新しい王がどちらになるにしろ、迎合するという姿勢は示さなくてはならない。だから、もしレオン殿たちが向かえない場合は、ここには寄らずに帰路についてもらわなくてはならない」
「……わかっています」
今回の結婚は私の我が儘。それでも両親は支援してくれました。けれど、祖国のように自由はできません。
「今は、お兄様の目を覚まさせることに専念いたしますわ」
無理に引き留めなかったのは公爵家の予定を変更させられなかったからではなく、準備期間が必要だったからでしょう。ここで飛行船を停泊させる以上、兄たちは国に帰る際にもここを通る必要があります。他国を通る以上、申し出を無碍にもできません。今後この航路を使うならばなおのことです。
違う道となれば、海路でも陸路でも、かなりの準備が必要となります。
こちらも情報収集とすべきことに専念しましょう。
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