第89話 お風呂
私だけで戻ってもよかったが、レオンもストレスが溜まっていそうなので一緒に中座した。人目があるので、思い切り甘えたように寄り添って廊下は歩いておいた。
「では、浴槽の準備をしてまいります」
部屋に戻るとメイドがレオンの部屋の奥の湯場へ向かった。
「案外すんなり解放されましたね」
「そうですね。ただ、思ったよりも心配事が増えました」
ソレイユ公爵は必要であればレオンの妹家族を連れてこいと言っていた。あまり良い状況でないのは知っていたのだろう。だが、ここまで王族がダメダメだとは。
「これについては、明日以降に話しましょう」
盗聴はしていないそうだが、原始的な方法で聞き耳を立てている可能性がある。
「では、リラ様の湯あみをさせて頂きます。殿方はリラ様のお部屋でお待ちください」
ザクロが言う。
部屋の設備がそれぞれ男女用になっているので、部屋自体を交換と言うわけにもいかない。自分でお湯を出したら別にこっちを使わせてもらわなくてもいいのだが、水魔法禁止令が出ているので従うことにした。
入浴は基本一人でしたい派だが、クララの教育の一環である程度は任せている。今回は、ひとりで入るつもりだったが、ザクロが湯あみを手伝う用の恰好をしている。
「……一人で、大丈夫よ」
「いいえ、王妃様から、結婚式に向けて磨き上げておくように言われています」
「………石を磨いても宝石にはならないので」
「ご安心ください、ちゃんと宝石に仕上げますので」
「いえ、一人で入りたいので」
突っぱねると、残念そうな顔をされた。
「……バストアップ」
ぼそりとザクロが呟いた。
「痩身術と同じく、バストアップのマッサージも習得しています」
「………」
やたらと豊満な女性を侍らしていたマービュリアの王族が頭に浮かぶ。
残念ながら、胸はでかくない。いや、動きやすいし、何の問題もない。
「べ、別に気にしていません。一人で入れます」
「ちっ」
舌打ちをされようとも、そんなことには惑わされない。
ひとりになって、服を脱いで湯船に浸かる。浸かる前に水魔法でぱっと体を洗う癖が出そうになって、ぐっとこらえた。
人目がなくても魔法は控えるように言われている。
数日ぶりにゆっくりとお湯につかれるのはありがたい。
なんだかんだで、水の中は落ち着く。肌を晒すのが嫌というよりも、お風呂は一人でゆっくり浸かりたいのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます