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 飼いならされた無力な子羊は、大人になって自由を得たいつの日にか、反骨の狼煙のろしを上げ、後藤先生に類する悪行三昧の絶対君主どもを抑え込まんと誓いを立てた。だが、結局、悪ばかりが蔓延はびこることなどこの世では日常茶飯事だった。本当の大人は他者を決して苛めない。未成熟な子供だけが見せる幼稚な行為なのだ、と考えるに至った。あの担任の仕業さえ、些細なこと。子供じみたはけ口を弱者に向けるしか鬱憤を晴らせぬ可哀そうな成長し切れぬ人間の証。そんな人間など周りには五万といる。そう悟ったぼくは、復讐など最早どうでもよくなった。彼らに代わって、自分自身が絶対的立場に躍り出る必要もないだろう。穏便に済ませられればこの世は平和なのだから。彼らの存在意義なんて、反面教師としてのみ。それでしか、面目躍如を果たし得ないのだ。

 人は皆、未熟な者同士、こんな未発達な世界で生きている。ぼくたちは、それぞれ誰かに飼いならされた従順を纏って生きるほかないのかも知れない。ただ、ぼくに身についた劣等生のわきまえにて抗う精神は、密やかな武器だ。唯一の武器を取って建設的人間関係を構築することが最優先と心得る。

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