第5話 苦いマカロン⑤(最終話)

「うーん……」


 わたしが再びうなりはじめたそのとき。


 ノックの音が鳴り、ドアを開けて誰かが部屋に入ってきた。


「お疲れさま。今日はみんな勢ぞろいなのね」


 のほほんとした声で言ったのは、生徒会顧問の愛ちゃん先生だった。


 その姿を認めた瞬間、「あっ」という声が四つ重なった。


「愛ちゃん先生、その手に持ってるのって――」


「ああ、これのこと?」


 そう言った先生の手には、小さなプラスティックのパックがにぎられていた。


 まぎれもなく、わたしが今朝コンビニで買ったマカロンだ。


「おいおい、それじゃあそいつを盗んだ犯人は先生だったってのか?」


「盗んだなんて、人聞きが悪いわねぇ。先生はちょっと預かってただけよ」


 愛ちゃん先生は大二の言葉を訂正する。


「でも、どうして……?」


 思わず尋ねると、先生は呆れた顔をして、


「だって、生徒会室にお菓子が置いてあるのを他の生徒や先生方に見られたら、生徒会の威信いしんに関わるでしょう? だから一時的に没収したの」


 なるほど……謎は全て解けた。


 流生くんもトリちゃんも嘘は言っていなかった。流生くんが一度目に聞いた物音を発した人物――それこそが愛ちゃん先生であり、マカロンはその時に彼女によって持ち去られたのだ。だから、そのあとに来た風紀委員長に見つかることも、さらにそのあとに来た大二に目撃されることもなかった。それが今回の事件の真相だ。


 考えてみれば、もっと早くから愛ちゃん先生を疑ってみるべきだったのだ。生徒会顧問である先生なら、いつ生徒会室に入ってきてもおかしくはない。それに、愛ちゃん先生なら当然のようにわたしの席の位置も知っている。したがって、マカロンが誰のものかということもひと目で知りえたはずだ。


 まさか先生が生徒のものを盗むはずはないだろう――という先入観がわたしたちの目をくもらせていたのだ。


「平乃さん」


 たしなめるような声に、わたしは慌てて居住いずまいを正す。


「先生も鬼じゃないから、厳密にいえば校則違反だからといって、絶対にお菓子を持ってきちゃいけないとは言わないわ。でも、生徒会役員は全生徒の代表なんだから、他の生徒や先生方に見られる可能性のある場所での行動はつつしむこと。いいわね?」


 厳しくも優しい、愛ちゃん先生のお叱りだった。


「はい……」


 かくして事件は解決し、マカロンはわたしの手に戻ってきた。


 だが、その味はほんの少し苦いものとなったのだった……。

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事件は生徒会で起きている ぶらいあん @ateru1

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