33_告白

 僕は響を部屋に招き入れ、小さなテーブルを挟んで向かい合った。


 何から話し始めればいいのだろう。今の思いは一つ、これ以上響に嘘は付きたくない。それだけだった。だが、僕はなかなか話し出せずにいた。


「……佑。お水貰っていい?」


「は、はい」


 僕は立ち上がって、冷蔵庫まで冷えたボトルを取りに行った。グラスに水を注いで渡すと、響は「ありがとう」と消え入りそうな声で言った。


「響さん……色々とすみませんでした……」


「それは……何に対して謝ってるの? 佑が男とホテルに行ったって事? 佑が嘘を付いてたって事?」


 響は、僕が誰とホテルにいたかを知っているようだ。


「嘘を付いてたって事です。……あと、黙ってる事があるって事です」


「……じゃ、男性との事は本当なんだね。夜な夜な、男あさりをしてたってのも?」


「男あさりですか……? いえ、それは違います。そもそも、僕は男性に興味はありません。……それは、誰が言ってたんですか?」


 グラスをじっと見つめていた響が僕を見た。まだ嘘を付くのかと、訴えるような眼差しだった。


「さあ……誰だか分からない。私のSNSにメッセージを送ってきた人。月曜日に、佑の事を色々と送ってきた。ビックリするような事ばかり」


 昨日、一昨日と、響の様子がおかしかったのは、そのせいなのだろう。


「……何て書かれていたんですか?」


「佑は男が好きだって。夜は新都駅周辺で男あさり、昼はお小遣いを貰ってホテル通いって」


 僕は首を横に振ったが、響は話を続けた。


「放っておけばいいのに、返事をしたのよ私。佑が新都駅に行ったのは、この間が初めてだし、ホテルの事も信じられないって。……じゃあ、『何時何時いついつにホテルから出てくるから確かめてみろよ』って」


「……それで、ホテルの前で待ってたんですね」


 響は返事の代わりに、大きなため息をついた。



「……さっきまで、『レスト』にいたの。もちろん、覚えてるよね?」


 僕が初めて行ったバーだ。最初は秀利と。そして、響とも。


「こんな顔でお店行ったから、マスターが心配して話しかけてくれたの。私言ったわ、佑の事で悩んでるって。そしたらたマスター、『黙ってようと思ってたけど、彼と男性との事?』って。佑、レストに行ったの初めてじゃ無かったんだよね? あれもこれも、全部嘘だったって……私、バカみたいじゃない……」


 響の口元は、小さく震えていた。


「……ごめんなさい……僕が嘘を付いていたのは、あることを隠すためだったんです。ずっと隠して生きていこうって思ってたけど、今から話します、全部……多分、僕の事もっと嫌いになると思いますけど。……でも、もう響さんに嘘を付きたくないから」


 響は泣きはらした赤い目で、僕を見据えた。



「アルバイト募集で、こだまに顔を出した前日の事です。僕は香奈って人に声を掛けられました」


 僕は香奈と出会った日の事から話し始めた。


 偶然、香奈という人物に声を掛けられた事。


 その提案に乗った事。


 相手は松本ホールディングスの社長だって事。


 そして、彼に近づき、ホテルへ行った事。


 その計画を進める上で、響たちに嘘を付いていかなくてはいけなかった事を。

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