25_雨の中

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佑くん、連絡が遅くなってごめん。秀利のスマホ、やっと盗み見る事が出来た。探偵への依頼も完了。予定通り、明後日の水曜日にホテルお願いね。

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 月曜日の午後、香奈からメッセージが届いた。


 週末に秀利のスマホを盗み見る事に成功し、全てのメッセージを香奈のスマホで撮影したという。僕も早くこの計画を終わらせたいが、香奈も急いでいるように思う。何か理由でもあるのだろうか。


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分かりました。次が一番の山場ですね、頑張ります。秀利さんにも確認しておきます。

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気合い入ってるじゃん。秀利の件、お願いね。

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 香奈に対して、中途半端な態度は命取りになる。自分を偽ってでも、乗り切った方が利口なはずだ。



 別のアプリに切り替え、今度は秀利にメッセージを送った。


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秀利さん、ギリギリになってすみません! 水曜日大丈夫になりました!

秀利さんの方も、大丈夫でしょうか?

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俺はOK! 良かった、先週会えなかった分、嬉しいよ!

今回も大山田駅で会いましょう。お店はまた連絡するね。

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 秀利には、次の水曜日は出勤になってしまうかもしれない、と予め連絡を入れてあった。香奈の準備が間に合わなかった時のためだ。


 香奈へも、秀利が問題無かったとメッセージを送った。


 もう少し……もう少し頑張れば、僕は解放される。



***



 運命の水曜日になった。そろそろ、家を出る時間になる。


 空は雨模様。今年は雨が多いように思う。


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佑くん、何か確認しておくこと無い? 大丈夫?

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大丈夫です。ありがとうございます。

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 香奈からのメッセージだ。今日は探偵も動いている。香奈は待つだけで何も出来ない分、落ち着かないのかもしれない。



 雨の中、僕は大山田駅へ向かう電車に乗り込んだ。大山田駅までは、鈍行で4駅。この時間帯、車内は比較的空いている。僕は座席に座り、ガラス窓を伝う水滴をぼんやりと目で追っていた。


 1つ目の停車駅。タイ料理屋とバーに行った後、響と電車を待った駅だ。反対側のホームに、響と2人で腰掛けたベンチが見える。胸が疼いた。出来るなら、今からでも引き返したい。そんな衝動に駆られる。再び電車が動き出すと、そのベンチは僕の視界から消え去っていった。



 あと1駅で大山田駅というタイミングで、秀利からメッセージが届いた。


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僕はもう、レストランに入ってるから。清水という名前を伝えてください。

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 今回は、駅ビルの高層階にあるレストランだ。いつもと違って、待ち合わせ場所を前日に知らせてきた。ネットで調べてみたが、今までと違い、高級感溢れるレストランだった。


 そして秀利は、『清水』という偽名を使った。やはり、自分が『松本秀利』とバレるのは色々と都合が悪いのだろう。実際、本名で検索をかけると、本人画像がいくつも出てくる。


 これまでも、秀利は自分の事を話さなかったし、僕から聞くことも無かった。秀利に何も聞かないのは不自然かと思ったが、香奈はそれで問題無いと言った。



「こんにちは、秀利さん。……うわあ、凄い景色ですね」


 眼下には、雨に濡れた大山田駅周辺の街並みが広がっていた。


「雨なのが残念だけどね。ああ、今日の服装も良い感じだね、佑くん」


 秀利から、今日は少しだけ上品な格好してきて。とメッセージが来ていた。仕方なく、フレンチレストランへ行ったときと同じシャツを着ている。


「こんな所に来たの、初めてです……なんか、高そうなお店ですね……」


「俺もここは初めてだよ。まあ、たまには大人っぽい店もいいかなって。佑くんは何を食べる?」


 今日も秀利は既に飲んでいた。僕はランチのコースと、ジントニックを注文した。



 いつものように、たわいも無い会話をする。雨は止むどころか、どんどん強くなっていた。まだ昼過ぎなのに、空はどんよりと暗い。


 秀利のジョッキは、そろそろ空になりそうだった。僕が来てからでも、もう3杯目だ。そんな僕のジントニックも、氷が残っているだけだった。


「佑くん、今日は……大丈夫かな? こないだ言ってた、話」


「……二人きりになるって話ですか?」


「そ、そう……雨の中、少しだけ移動しないとダメだけど」


「……大丈夫です……今日はそのつもりで来ましたから」


 頬を紅潮させた秀利は、子供のような笑みをこぼした。

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