16_後悔

 月曜日の朝。時計は9時を差している。


 楽しかった響との食事を思い出しては、自然とため息が漏れた。


 本当にこのまま、香奈との計画を進めていいのだろうか。本音を言えば、今すぐにでもこの計画から降りたかった。預かった50万円だって全額返金する。香奈に伝えるべきだろうか、僕は悩んでいた。


 もし響にバレるような事があったら、僕は確実に嫌われるだろう。店だって辞めさせられるはずだ。何かボロが出てしまってからでは遅い。今だって、大将や響に隠し事をしている自体、心苦しいのだ。


 一度辞めたいという気持ちが膨らみ始めると、それはドンドンと大きくなっていった。そして、悩みに悩んだ挙げ句、僕は香奈にメッセージを送っていた。


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香奈さん、おはようございます。とても言いづらいのですが、今から計画を降りることは出来るでしょうか。絶対に口外はしません。もちろん、預かっていたお金も全額返します。秀利さんにも、上手く忘れて貰うようにします。今更、こんな事を言い出して、申し訳なく思っています。本当にすみません。

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 メッセージには、すぐに既読が付いた。だが、香奈から返事があったのは10分も後のことだ。


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最近のやりとりで薄々は気付いていた。そりゃ、一人の大人を陥れるんだから、気持ちの良いものじゃないよね。分かるよ。でもね、悪いけどもう後戻りは出来ないの。

どうしたの? 響ちゃんって子に惚れたりでもした?

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 心臓がドクンと、大きな音を立てた。


 香奈には響の事はもちろん、僕が居酒屋こだまで働いている事も教えていない。


 僕の名前だけで、実家も探り当てた香奈の事だ。僕の現状を、調べていないはずが無かった。


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言いたくなかったけどさ、佑くんが可愛い格好して、秀利と並んで歩いてる写真も押さえてあるのよ。これも黙ってたけど、既に他にも何人か動いてくれてる。この意味、分かるよね? そういうこと言い出すとさ、ギスギスしてくるじゃん? 正直、今イラついてる、私。

だけど、佑くんが今すぐ撤回するなら、私もこれ以上は何も言わない。どうする?

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 この計画は、僕と香奈しか知らないと香奈は言っていた。だが、それは嘘だった。しかも、こんな計画に加担している人なんて、普通の人では無いはずだ。人物像を想像するうち、スマホを持つ僕の手が震えはじめた。


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すみませんでした、香奈さん。もう二度とこんな事は言いません。今日にでも秀利さんに、水曜の件でメッセージ入れます。

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分かってくれたら、それでいい。私も佑くんの事、困らせたくないから。その代わり、二度と言わないでね。約束だよ。

秀利との件、転送待ってる。

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 僕はもう、香奈に逆らう事は無いだろう。いや、逆らえないと言っていい。何かあれば僕だけじゃなく、大将や響、実家の父にも被害が及ぶかもしれない。


 僕は、とんでもないものに手を出してしまっていたのだ。



***



 香奈とのやりとりの後、少し時間を空けて秀利にメッセージを送った。


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秀利さん、明後日の水曜日も新都駅に行こうと思ってます。お忙しいですか?

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佑くん、おはよう! 大丈夫、調整するよ! 新都駅には何か用事あるの?

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いえ、これと言って用事は……その日もずっと一人なので、秀利さんが暇だったらいいなと思って……

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嬉しいよ、ありがとう! もし、新都駅に用事が無いなら、二つ隣の大山田駅でもいい? 新都駅は仕事仲間がウロウロしてて、ゆっくり出来ないんだよね・笑

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僕はどちらでも大丈夫です。では、都合の良い時間が分かったら教えてください。

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 「分かり次第返信するね」と、秀利は返してきた。そして僕は、約束通り香奈にこのやりとりを転送した。


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大山田駅って、シティホテルが多いとこじゃん・笑 なに、企んでんだか。私には奥手のくせに、佑くんにはガンガン行くんだもん不思議・笑 まあ、今回はランチだけで大丈夫だから。

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 香奈は、いつもの香奈に戻っていた。


 僕にとっては、それが逆に怖かった。

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