10_メッセージ

「大将、おはようございます」


「おはよう。佑ファンの大島さん、休みだったから寂しがってたぞ」


 店に入るなり、大将は笑いながら言った。大島さんとは、『佑くん、佑くん』と僕を可愛がってくれる常連のおばさんだ。そう言えばいつからか、大将は僕の事を『佑』と呼ぶようになっていた。


「そうですか、すみません……昨日はやっぱり、忙しかったですか?」


「ああ、金曜日だしな。そっちはどうだった、久しぶりに会った友達は?」


「え、ええ……まあ、相変わらずって感じでした」


「そりゃ、そうか。まだ越してきてすぐだしな! ハハハ」


 僕の嘘を、大将は笑ってくれた。



 居酒屋こだまの定休日は日曜日のみ。僕は先週こそ全ての日に入ったが、今後は水曜日も休んでいいとの事。あと、土曜日だけは通常より3時間早い、14時からのオープンとなる。今日は、その土曜日だ。


「ごめんごめん、遅くなっちゃった。あ、佑おはよう。昨日は楽しかった?」


「ええ、まあ……皆、相変わらずって感じでしたけど」


「そりゃそうだろうね、こないだ卒業したとこだし! ハハハ!」


 響は大将と同じようなセリフを言って笑った。そして、響も『佑』と呼ぶようになっていた。


「そうだそうだ。お前たちさ、来週の日曜日フレンチ行ってくれないか? 母ちゃんとの結婚記念日に予約してたんだけど、体調まだ完全でもないしさ。同業者からすると、キャンセルってあんまりしたくないのよ」


「それって、お父さんがお金出してくれるの?」


「当然だ。そうじゃなきゃ頼みにくいだろう、こんな事」


「やった! 行く行く!! 佑はどう!?」


「ええ、僕も用事無いんで大丈夫です、行ってみたいです!」


「そりゃ、良かった。佑、そこまでかしこまった店でもないけど、せめて襟付きのシャツくらいは着ていけよ。一応、フレンチだし」


 8日後の日曜日、僕は響とフレンチレストランへ行くこととなった。18歳になって出てきたこの街の生活は、初めての経験で溢れている。


 そして今日も、居酒屋こだまは客が途切れる事が無いまま閉店を迎えた。



***


 

 週末は天気の良い日が続いたが、月曜日は朝から雨だった。僅かしか残っていなかった桜の花びらは、今日で全て散ってしまうだろう。


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佑くんおはよう。秀利、23時頃に帰ってきたんだけど、明らかに変で可笑しくて仕方なかった・笑

いつもなら酔った勢いで甘えてきたりするクセに、その日はすぐ自分の部屋に入っちゃうしさ。「今日は疲れた」なんて言っちゃってんの・笑

多分、部屋でこっそり見てたんだよ、あのサイト。佑くんの事思い出したりしてたんだろうね。あれから、秀利からメッセージあった?

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 香奈からメッセージが届いた。先週金曜日に秀利と別れた後の話だ。


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おはようございます。秀利さんからは何もありません。金曜日に転送した内容が最後です。次は何をすればいいですか? 一応、ゴールの予定時期はありますか?

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今はじっとしてようか。出来たら秀利からのメッセージを待ちたい。あとは時間を掛けて落としていこうと思う。ゴールの予定ねえ……今はまだ、見えないかな。

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分かりました。それではとりあえず、秀利さんからのメッセージを待つことにします。

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そうしてちょうだい。

秀利さ、今までは平気でテーブルなんかにスマホ置きっぱなしだったのに、トイレにも持ち歩くようになってるの。きっと、佑くんとのメッセージは消してないって事だと思う。順調よ私たち。秀利からメッセージが来たら、すぐに連絡してね。

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 僕からのメッセージ……


 お礼と共に、楽しかったと気持ちを伝えただけのものだ。秀利は、そんなメッセージを大事に残しているのだろうか。

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