11_サングリア
秀利から、新しいメッセージが届いたのは、水曜日の朝だった。今日も届かない場合は、僕からメッセージを送る予定にしていた。
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佑くん、久しぶり。元気?
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短く、素っ気ないメッセージだった。
香奈からは秀利からメッセージが来たら、僕が返事をする前に連絡を入れるように言われていた。取り急ぎ転送をしたが、香奈へのメッセージに既読が付かない。とりあえず、当たり障りの無い返信を入れておいた。
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おはようございます、元気ですよ。どうかされましたか?
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返事貰えて良かった! メッセージ来ないし、嫌われてるのかなって思っちゃったよ・苦笑 近々、街に出てくる事とかあるのかなって思って。
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秀利からの返信は早かった。これは流石に香奈の判断を仰いだ方が良さそうだ。転送して、しばらく香奈の返事を待った。
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おはよう。お、いい感じね。佑くんに時間あるなら、会いに行って。今回はまだ泳がせる。探偵を付けるのは、まだ先。
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香奈から返事が届いた。今日は水曜日で終日休みだ。ちょうどいいかもしれない。僕は、香奈の指示通りにメッセージを送る。
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今日、出る用事があります。お昼頃だと思います。急すぎますかね・汗
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今度はなかなか返信が来なかった。秀利にだって仕事がある、当然と言えば当然かもしれない。
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ごめんね、返事が遅くなっちゃって。なんとかスケジュール調整出来たよ。先日の、バーの下辺りに13時って大丈夫?
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返信が届いたのは、15分後の事だった。僕は「大丈夫です」と返信を入れる。
香奈にその旨を伝えたところ、順調に進んでいる事が嬉しくて仕方がないようだった。
***
待ち合わせ場所に到着すると、すぐに秀利も現れた。
「ごめんね、食事の時間を遅らせてもらって。イタリアンに行こうと思ってるんだけど、佑くんは大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
高級店にでも連れて行かれるのかと思ったが、僕でも入れそうなカジュアルなお店だった。
「ちょうど良かったよ、佑くんが用事ある日に声を掛けて。元々の用事は何時からなの?」
「いや、時間はこれといって決めてなかったんです。久しぶりに映画でも観ようかなって思って」
「へー、映画好きなんだね。……それは一人で?」
「ええ、一人です。特に映画好きってわけじゃないんですけど、休日は何かしないと勿体ないなって感じで」
「ああ、佑くんは水曜日が休みなんだ。また、時間がある時は教えてよ」
店員がオーダーを取りに来ると、僕が食べたいと言っていたパスタを注文してくれた。秀利は何も食べないようだ。
「……あと、ビールをお願い出来ますか。佑くんは?」
「じゃ……何か適当なものを」
僕が答えると、秀利はサングリアを注文した。
「サングリアってね、ワインにフルーツとかドカドカ入ってる飲み物なの。気に入らなかったら僕が飲むから。まあ、サングリアにしても、アヒージョにしても元々はスペイン料理なんだけどね」
秀利はそう言って笑った。あまり意味は分からなかったが、僕は適当に相づちを打っておいた。
「ところでさ、佑くん。……佑くんって普段はどんな格好してるの? こないだ会った時と、随分雰囲気が違うなって思って」
昼間からあの格好をする勇気が出ず、僕は香奈に相談をしていた。すると香奈は、「そうだろうと思って、シナリオは考えておいた」とメッセージをくれた。僕はそのシナリオに沿って、会話を進めていく。
「普段はこんな感じなんです。この間の服装は、会う予定だった人の趣味っていうか……」
そう言った瞬間、秀利の顔が強ばった。
「そ、そうだったんだ。……ちなみに、相手は男の人?」
僕は無言で、コクリと頷いた。
「ドタキャンされたって言ってた人だよね? その人とはまだ会ってるの?」
「いえ、会ってないです。……もう、会わないかもしれません」
「ど、どうして?」
「ま、まあ……色々あって……」
「そっ、そうか、ごめんごめん。変なところまで踏み込んじゃって。申し訳ない、佑くん」
頭を掻きながら、秀利は頭を下げた。
香奈はこのやりとりをする事で、僕が男性相手でもOKというアピールになるだろうと言った。その上、秀利は架空の人物に嫉妬し、今以上に僕を追いたくなるだろうとも。
「いえいえ、そんな気を使わないでください。サングリア飲みやすい……美味しいです」
「それは良かった。こんなので良ければいつでもご馳走するよ。あ、ちょっと待って、そのまま動かないで」
僕はサングリアのグラスを持ったまま、動きを止めた。そんな僕を秀利はスマホで撮影した。
「なんか、ワイングラスが凄く似合ってたから。この間の佑くんも素敵だったけど、今日の佑くんも凄く良いよ。うん、凄く良い」
秀利はそう言うと、1/3程残っていたグラスビールを飲み干した。
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