06_居酒屋こだま
朝一番にメールチェックをすると、香奈から返事が来ていた。
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佑くん、スマホ送付の連絡ありがとう。
でもね、送ってからじゃ無くて、送る前に連絡してくれなきゃ。早ければいいってものじゃないの。とりあえず、スマホが届いたらアプリに送信するから。ちゃんとチェックしておいてね。
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早くにスマホを送った事を褒められると思ったが、逆に
それと併せて、香奈から指定のあったメッセージアプリをスマホにインストールしておく。少なくとも僕は聞いた事が無いアプリだった。他の人に見られる事がないよう、通知も切っておくようにとの事だ。スマホ慣れしていない僕にとっては、一つ一つが新鮮な作業だった。
昼食を終えスマホを確認すると、香奈から指定されたアプリにメッセージが届いていた。
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ありがとう、スマホ届いた。なんで50万も渡したのに中古スマホなのよ。新品買えなかったの?
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そうか……僕がチェックしていたサイトは、『いかに安くスマホを持つか』という趣旨のサイトだった。そのため、深く考えずにリサイクルショップで購入してしまったのだ。とりあえず、スマホを送付後にメールしてしまった事と、この件に関して謝っておいた。
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まあ、メッセージアプリを使うだけだから、これでも問題無いんだけどね。早速本題に入るけど、秀利の飲み会が来週の金曜日にある。多分、20時頃にこの店を出てくると思う。いつも一軒目が終われば真っ直ぐ帰ってくるから、その途中で捕まえて。
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そのメッセージと共に、店の位置情報が送られてきた。どうやら洋風居酒屋のようだ。
秀利は普段は酒を飲まないという。終業後も真っ直ぐ帰宅するし、家で飲むことも希だそうだ。ただ、一月に一度、ミーティング後の打ち上げで多少たしなむとの事。秀利は気が進まないながらも、社長という立場上、仕方なく顔を出しているようだ。
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普段は大人しいくせに、飲み会があった日は私の事誘ってきたりするのよ。お酒が入って、ちょっと強気になってるんでしょうね。だから、佑くんが何かしらのモーションを起こせば、声を掛けてくる可能性がある。秀利がこっそり見てるサイトのURL送っておくから、彼の好みとか把握しておいて。
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香奈が送ってきたURLを開くと、僕の知らない世界がそこにあった。
なるほど、香奈が僕に声を掛けてきたのも分かった気がする。でも、流石に同じような格好は出来ない。僕に出来るギリギリの線で考えてみようと思う。
***
今日はリサイクルショップで冷蔵庫と電子レンジを買った。明日には、自宅に届けてくれるという。マンションに戻ると、居酒屋こだまを訪問するちょうどいい時間になっていた。
「し、失礼します……」
僕は静かに、店の引き戸を開けた。まだ開店前のようで客はいない。
「ああ、いらっしゃい! 昨日はごめんね! てっきり、女の子かと思っちゃって。そこの椅子掛けて貰える? おーい、
カウンターに入っていた男性は、作業していた手を止めてそう言った。響? 昨日の女性の事だろうか。
「もう! そんな大きな声出さなくても聞こえるから! こんにちは、改めまして宮崎響といいます。何度も来て頂いて、本当にすみません」
「いえいえ、全然大丈夫です……僕は、伊藤佑といいます」
僕が腰を掛けると、目の前に響、少し遅れて左斜め前に男性が座った。
「居酒屋こだまをやってる、宮崎
そうか。響が男性に対して、馴れ馴れしかった理由が分かった。よく見れば顔も似ている気がする。
「18歳です。高校は先月卒業しました。今は……引っ越してきたばかりで何もしていません」
「じゃあ、ウチにはビッシリ入って貰える感じ?」
「ええ、それは全然大丈夫です。ただ、僕はバイト経験とか無いんですが、それは問題無いでしょうか……」
「そんな事言ったら、誰も何も始められないじゃないか。問題無い、問題無い。響も良さそうな人って言ってたし」
男性が言うと、響は「もう!」と言って父の肩を叩いた。
「ハハハ、叩くなよ。で、いつから入れそう? ウチは今日からでも明日からでも、いつでも構わんよ」
「そ、そうですか……じゃあ、今日からでもいいでしょうか?」
「おお、いいね! もちろん大歓迎だ。大抵の事は響が教えてくれると思うから、何でも聞いてやって。それと、俺の事は大将って呼んでくれたらいいから」
「わ、分かりました、大将」
「伊藤くん、雰囲気も優しげで物腰も柔らかい所は満点。だけど、もうちょっとだけ、大きい声出していこうか。ウチの店騒がしいから、注文とか聞こえないと困るから。ハハハ!」
そう言うと大将は立ち上がり、響に「後は頼むよ」と告げ、カウンターに戻っていった。
「なんかごめんなさいね、乱暴な面接で。ちなみに、ご自宅はどこですか? 交通費の件もありますし」
自宅はすぐ上だと言うと、響は驚いた。その後、時給の話やちょっとした説明があった。
「実はね、先日母が体調を崩しちゃって。親子3人で店が回ってたから、2人じゃなかなか厳しかったんです。今日からお願いします」
響は笑顔で頭を下げた。
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