第2話 ミニチュア作りの時間です♪

 家に帰ったら、マックで買ったてりやきバーガーセットを急いで食べて、自分の部屋に籠った。

 タンスや本棚の上には、今まで作ったミニチュア作品が並んでいる。並べきれない作品は、クローゼットの中だ。捨てることなんてできない。全部全部、私の魂の一部だから。

 勉強机の上に、いつもの道具を並べる。

 シャキーン、私の七つ道具!

 その1、カッターマット。

 その2、デザインカッター。

 その3、先がとがったピンセット。

 その4、ミニプレス器。

 その5、万能ばさみ。

 その6、アクリル絵の具セット。

 その7、ペーパーパレット。

 これに、今日からエンボスヒーターっていう最強の武器が加わるっ。

 イヤホンを耳に押し込んで、スマホでミューチューブを出して、音楽をかける。最近のお気に入りは阿部真央。「君の唄」「変わりたい唄」「Believe in yourself」あたりを、繰り返しかけている。 


「今日は焼きそばを作りまあす」

 お弁当屋さんで売っている、プラスチックケース入りの焼きそば。

 買って来た樹脂粘土を、使う分だけ袋から出して、使わない分はすぐにラップに包んで、ジップロックに入れる。これは粘土が硬くならないようにするための、基本。ここに後で水に湿らせたキッチンペーパーを入れておけば、しばらくは固くならずに使える。これ、豆な。

「さあ、麺から作りますよお」

 真っ白な粘土をカッターマットの上で、まずは練り練り。樹脂粘土は普通の粘土や紙粘土よりも弾力があるから、最初は練るのがちょっと大変。それに、乾燥しないようにスピードも大事。伸ばして折りたたみながら、こねこねこね。

 鼻歌を歌いながら、リズミカルにこねていく。あー、楽しい♪


 やわらかくなったら、次はアクリル絵の具で着色。

 絵の具の茶色と黄土色を、ペーパーパレットの上にちょこっとだけ出す。筆につけたら、粘土に絵の具を乗せる。絵の具を包み込むように丸めて、再び練り練り、こねこね。

 絵の具のバランスで粘土の色が変わるから、ホンモノの焼きそばっぽい色にするのは、なかなか難しいな。

「もうちょっと茶色を足すかな? ソースっぽい色って、こんな感じ? とりあえず、1回試しに、この色で作ってみよっかな」

 粘土がちょっと濃い目の小麦色になったところでカッターマットに置いて、ミニプレス器を粘土に乗せて、麺棒で体重をかけながら均等になるように伸ばしていく。1ミリぐらいの薄さにしたいけど……無理かな。2、3ミリが限界かなあ。

 粘土がいい感じに薄くなったら、デザインカッターで細長く切っていく。


「これで終わりじゃなく、麺っぽく丸めます」

 細長く切った粘土を、指先で転がしながら丸めて、さらに細長い棒を作る。この作業をしている時はいつも、幼稚園で粘土で遊んでいた時のことを思い出すなあ。粘土をコロコロ転がして細長くしたよね。

 長さ5センチ、太さ2ミリぐらいの細長―い麺のできあがり。両端を切って、整えて。これを10本ぐらい作る。

「さあ、そばを盛りますよお」

 麺をとぐろのように巻きながら重ねていく。

「あんまりキレイに巻いちゃったら、焼きそばっぽくないか。無限大の記号っぽい感じにウネウネさせて……うーん、一定方向だと、不自然だなあ。あんまり考えずに重ねてみよう」

 焼きそばの盛り方が、なかなかうまくいかない。5回ぐらいやりなおして、やっとそれっぽく重ねられた。

「3本目は乗らないかなあ。パックに入るのは2本目までかな」

 高さ1センチぐらい、横幅2センチぐらいの小さな焼きそばのかたまり、ひとまず完成。こんな感じで5つ作ってみる。


「うん、焼きそばの麺っぽくなったんじゃない? これをしばらく乾燥させて。今のところ、順調、順調♪ 次は~、キャベツ、行きますっ」

 キャベツも同じように粘土をこねて、緑のアクリル絵の具で色をつける。

 続いて、ゼリーの空き容器の内側に、濃い緑の絵の具をサッサッサと塗る。これは乾いたらペリペリとはがして、青のりにするんだ。芸細でしょ? って、動画で作り方見たんだけどね。

「うーん、あんまり緑が濃いと本物のキャベツっぽくないかなあ。どうだろう」

 緑色の粘土をプレス器で限界まで薄くしてから、デザインカッターで千切りキャベツっぽく切っていく。キレイに切りそろえるより、ふぞろいのほうが手作り感が出るよね。でも。

「うーん、やっぱ、緑じゃない気がする。黄緑で作ってみるかな」

 やり直し。

 黄緑で粘土を着色してみると、今度はいい感じにキャベツっぽくなった。

「うん、いいんじゃない? こっちで行きましょ~。さ、次は紅ショウガ。私は焼きそばの紅ショウガって好きじゃないけど、なんで紅ショウガをつけるんだろ。あれ、食べる人、いるのかな。ま、いいか。紅ショウガは赤い絵の具で」


 ふと、人の視線を感じて振り向くと、お父さんがドアをうっすらと開けて覗いていた。珍しいものを見るような目つきで見ている。

 私が「なな何!?」と驚くと、苦笑しながら部屋に入って来た。私は慌ててイヤホンを外す。

「ごめんごめん。話し声がしてるから、何かと思って。電話じゃなさそうだしさ」

「あ~……」

 大きな声で独り言を言ってるの、モロに聞かれた……。

「うるさかった?」

「ううん、いや、大丈夫。理沙から連絡が来て、今日は早く帰るって」

「そうなんだ」

「ジャマしたね」

 お父さんはドアを閉めかけて、ふと、

「そういえば、夏休みにおばあちゃんの家を作ってた時も、独り言を言いながら作ってたよな」

と、懐かしそうな表情になる。

「えっ、そうだったっけ?」

「うん。楽しそうだなあって思って。やっぱ、自分が好きなことをするのはいいよね、うんうん」

 お父さんは、なぜか最後は一人でうなずいて、ドアをパタンと閉めた。

 親に独り言を聞かれるのって、ちょ~恥ずい。小声で話すようにしよ……。


 紅ショウガも同じように粘土で作って、材料は完成。

 材料を乾燥させている間に、焼きそばを入れるプラスチックのフードパックを作りま~す。そこで登場するのが、

「ジャジャーン。エンボスヒーター!」

 小声で、「ペカペカペカ~」と効果音も入れる。

 まずは、透明な塩ビ板を万能バサミで四角形にカット。

 カッターマットにあらかじめ厚紙で作っておいた型を置く。真ん中に凹っと二つの山が盛り上がっている、四角い型。そこに塩ビ板を乗せて、エンボスヒーターの熱風を当てる。

「おお~、塩ビ板がどんどんやわらかくなってく!」

 充分やわらかくなったところで、もう1つの型を上からかぶせて、塩ビ板をギュッとプレスする。塩ビ板が硬くなったところで、おそるおそる型を外してみると……。

「おおお~、できてる、できてる!」

 塩ビ板が四角く二つ凹んでいる。

「エンボスヒーター、優秀!」

 後は、まわりの余分な塩ビ板をカットして、真ん中で折り曲げると、蓋と容器に分かれている、ミニチュアサイズのフードパックが完成!

「すごいすごい、ホンモノっぽい~!」

 今までは、駄菓子屋さんに売ってる小さなお餅の入れ物を切って、フードパックにしてたんだけど、あれだと形がイマイチだったんだよね。これなら

「いくらでも作れる~。楽しすぎる~」


 あっという間に5パックできた。

「さあ、ここから、焼きそばの仕上げに入ります!」

 最初に作った麺は、いい具合に固まっている。

 ペーパーパレットに透明な接着剤を出して、ピンセットでキャベツに接着剤をつけてから、麺に貼っていく。バランスよく、見栄えよく。

「紅ショウガは、上に乗せるか、端に置くか……うーん、やっぱ端かな」

 焼きそばの端に紅ショウガをちょこちょこと張りつける。

 さらに、プリンの容器に塗ったアクリル絵の具をペリペリとはがして細かくして、青のりにする。ちょこちょこと焼きそばに接着剤を塗って、青のりを上からパラパラッとかける。

「……できたっ」

 うんうん、ソース焼きそばっぽいじゃない?

 そのかたまりをフードパックに入れると。

「ジャジャーン、お弁当屋の焼きそばのできあがり!」

 本物の焼きそばは作れないけど。カップ焼きそばしか作ったことないけど。

 ミニチュアの焼きそばは作れますっ。

 私は嬉しくて、上から、横から、底から眺めた。


 それを、お弁当屋さんの店頭に置いてみる。

 私がバイトしているお弁当屋さんを再現したミニチュアハウス。といっても、一軒家じゃなくて、壁を2面張り合わせただけの簡単なつくりでお弁当コーナーを再現した。建物部分は100円ショップで売ってる材料で作った。

 壁の向こう側は厨房なので、一か所だけアクリル板を入れて窓を作ってある。窓越しに厨房の中を覗けるようにしたいところだけど、それは思案中。

 店先にお弁当を並べるショーケースを作って、今はそこに並べるお弁当を一種類ずつ作っているところ。おにぎりセットから始めて、のりまき、鮭弁、幕の内弁当まで作って、麺類にチャレンジしたんだ。

 これから作るのは、そばセット、からあげ弁当、牛丼や天丼。焼肉弁当はどうするかなあ。色味がきれいじゃないし。お弁当が終わったら、総菜を作ろう。

 順調に行ったら、夏休み前には完成できるかも。そうしたら、厨房も作ろうかな。そっか。厨房は別につくって、この窓から覗けるようにすればいいんだ。2つのハウスを合体させればいいんだ。

 想像するだけで、ワクワクする。

 ああ、まだまだ、私には作りたいものが山ほどある!



*葵’S MEMO:一般的にミニチュアは実物の12分の1の大きさで作ります。といっても、厳密なルールではないので、24分の1や10分の1で作る人もいます。

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