第6話
翌朝、僕たちは朝ご飯を買いにコンビニに出かけた。そのあともリョウジと遊ぶ約束だったから、どうせなら公園で食べて、そのまま遊ぶのもいいね、と話していた。
あと信号一つでコンビニ、というところで、信号が赤になった。信号待ちをしている。その、反対側の歩道に、見慣れた顔を見た。
「あ、リョウジ……」
どきん、と、僕の心臓が鳴った。リョウジはパジャマ姿だった。足元も裸足だった。どう見ても普通じゃない。泣きはらした顔をしている。そして、彼は駆け出した。信号は、変わっていない。
タカヤが悲鳴を上げた。
ほかの大人も。
クラクション。
ブレーキ音。
いろんな音の洪水の中で。
僕は
何も考えずに走っていた。
突っ込んできた車を見つめる、リョウジの小さな体めがけて。
そう、あの日。
小さな、あの日。
ボクが、心底そうしたいと望んだように。
ああ、でも。
結果は伴わなかっただろうなと、僕はぼんやり思った。
起こってしまったことは変えられないのだ。
どうやっても。
何もない空間で、目を開くと、目の前にタカヤがいた。泣いている。僕はその頬にそっと触れた。タカヤは濡れた瞳で僕を見上げた。そして、ぽつり、と、言った。
「何も……できなかった」
リョウジが悩んでいたの、知っていたのに、と、言って泣く。僕は首を静かに横に振った。
「そんなことないよ。大丈夫だ」
(そうだ、大丈夫なんだ)
僕は、知ってる。
君はこの後、意識の戻らないリョウジ君を前にひどく落ち込んでしまって、心配した両親が遠くへ引っ越すことを決めてしまう。だから、しばらくリョウジ君と会えなくなる。それは一時君を余計に苦しめるけれど、やがて穏やかな気持ちになれるよ。
そして、君がずっと大人になって、知るんだ。あの後、リョウジ君が回復したってことを。
事故のせいで足が動かなくなって、昔のようにバスケをすることはできなくなったけれど、親を説得して、車いすバスケを始めて、元気にしてるってことを。
そして、ずっと君に会いたがっていたということも、ずっと後になって知る。会わずにいた、多くの時間を、二人とも後悔してしまうんだ。
でも、大丈夫。 二人の友情は決して、失われないんだよ。
そう
ずっと
そう思うと、僕らは大きな光に包まれた。最後に見た、小さなタカヤは、笑っているように見えた。
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