第5話

後片付けをしていると、タカヤがトイレに行くのを見計らってリョウジがやってきた。

「あいつの母さん、父さんと喧嘩して実家に帰ってるんだ。あいつを置いていったのは学校があるからだろうけど、あいつ、それで結構落ち込んでて……優しくしてやってくれよ」

リョウジがそこまで言うと、ちょうどタカやが戻って来た。リョウジはタカヤに駆け寄ると、何事も無かったかのようにゲームを始めた。僕はそんな二人を静かに見守った。子供ながらに、いろいろ抱えているのだろう。

 僕の時は、どうだったろうか。今はそんなことも思い出せない。いつのなったら思い出せるのかと、ふと、不安が頭をよぎった。


「あのね。おじさん」

「どうした?」

その日、また僕はタカヤの家に泊まった。

 正直、迷った。お金は少しばかりある。ビジネスホテルくらいには泊まれそうだと思った。しかし、タカヤを一人で家に残していくのもどうかと思ったのだ。週一でお手伝いさんが来て、掃除はしてくれるのだという。しかし、まだその日は先だった。せめて、その日以外は僕がいた方がいいのかもしれない。少なくとも、僕は大人なのだから。

「リョウジ、悩んでるんだ。本当は、バスケがしたいのに、勉強させられて、ちょっとイライラしてる。何かあったら爆発しそうなくらい」

僕が見た限りは普通に見えたけれど、子供同士、何か感じているのだろう。そういうリョウジはタカヤを心配していた。お互いに、お互いを思いあっている。子供らしい素直な友情がそこにあった。今の大人の僕には眩しいくらいだ。

「そっか。リョウジ君も大変だな」

「ね。おじさんが子供の時はどうだったの?やっぱり親と考えが違ったりした?」

「うーん。ごめん。記憶がないから……」

「そっか……」

「ご、ごめんね。役に立たなくて」

「ううん。ごはん、おいしかったし」

そういって、タカヤはまた泣きそうになっていた。母親のことを思い出したのだろう。

「気に入ってくれたなら、また、作るよ」

「うん」

そんな会話をしながら、僕は心の中で謝罪した。タカヤにも、リョウジにも。何もできなくて、ごめん。と。

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