第2話 自衛隊
国会議場の空気は厳かで、質問タイムに入ったとたんに緊張が走る。多くの議員や記者が、左派政党の小松代表が総理へ向ける質問に耳を傾けていた。
小松代表は、眼鏡をかけ直す仕草をした後、きっぱりと言葉を紡ぎだす。「総理、防衛費を増額すると、東アジアの軍事バランスが変わります。それが緊張を引き起こし、結果として紛争に巻き込まれるリスクが増してしまうのではないでしょうか?」
総理は少しの間を置きながら、冷静に返答する。「私たちは紛争を、何があっても回避する方針です。そのためには、隣国が武力行使を躊躇するような抑止力が必要だと感じています」
小松代表は総理の目を直視して、さらに詰め寄る。「総理は、小さな紛争からの参戦を口実に、日本をかつてのような戦争をする国へと導こうとしているのでは? そして、我が国の子どもたちに、将来、銃を持たせるつもりではないですか?」
総理は、しっかりとした表情で答える。「私は、武器や戦争は大嫌いです。平和主義者としての立場は、変わりません。小松代表は銃を持つことを語られますが、銃は民間人にとって、そう簡単に扱えるものではありません。それを理解していただきたい」
その言葉に、与党の議員たちからは、大きな拍手が湧き上がり、議場内は一時の高揚感に包まれるのだった。
総理官邸の執務室。大きなデスクの前には、複数のモニターが配置されており、中央のモニターで国会のVTRが流れている。総理と彼の秘書の二人で、その映像を見つめている。
小松代表の悔しそうな顔がアップで映し出されると、総理の顔には満足そうな微笑が浮かぶ。
「小松代表の、あの顔。傑作ですね」と秘書が笑いながら言う。
総理は一瞬、その言葉に笑顔を見せた後、考え込むように表情を変える。「次は、機関銃を撃ってみたい。防衛省と電話を繋げてくれ」
秘書は一瞬、驚きの表情を見せるが、すぐに慣れた手つきで内線の電話を取る。「はい、総理。ただ、機関銃の射撃訓練は、少し環境も異なりますので……」
総理は手を振って、秘書の言葉を遮る。「それがいい。最近、少しストレスが溜まっているのだ」
秘書は、少し苦笑しながら応じる。「了解しました、総理。ただ、総理の政治的なお立場を最優先に考えますので、その点だけはご了承ください」
総理は、にっこりと笑い、「もちろんだ」と返す。
陸上自衛隊の射撃訓練場は、静寂に包まれていた。遠くの鳥の鳴き声や風の音だけが聞こえる。この広大な場所は、特別な許可を得て総理専用として、他の者の立ち入りが制限されている。
迷彩服に身を包んだ総理は、ヘルメットとマスクを着け、その姿は一般の自衛隊員と変わらない。彼の前には機関銃が置かれており、自衛隊の教官が、その扱い方を丁寧に指導している。
「弾を撃つ時は、しっかりと両手で支えて、肩にしっかりと当ててください。反動が強いので、心してください」と教官は言う。
総理は機関銃を構え、しっかりと肩に押し当てる。一瞬の緊張が走った後、彼は機関銃のトリガーを引く。瞬時に銃からは連射音が鳴り響き、遠くの的には弾丸が次々と命中する。
弾切れになると、総理は機関銃を下ろし、秘書に向かって語りかける。
「私は有事のときには、最高司令官になる男だ。自衛隊員の気持ちを知らなくてはな。この銃の重さ。反動。響き。これが戦場の現実だ」
秘書は総理の真剣な眼差しを受け止め、「総理のお気持ち、痛いほど理解いたしました」とうなずく。総理は再び機関銃を構え、次の弾丸を待つ。
砂埃を巻き上げながら、重々しい轟音を伴って、一台の戦車が訓練場を駆けてきた。その大きな車体は、どんな地形にも負けない強靭さを感じさせる。急に戦車はブレーキをかけ、滑るようにして停止した。静寂が、訓練場に広がる。
ゆっくりと戦車の砲塔が回転し始め、遠くに立つ、大きな標的を狙う。目を細めて狙いを定める。そして、その瞬間、一発の閃光とともに大砲が轟音を立てて発射される。空気が震え、地響きのような音が響く中、遠くの標的が一瞬で粉砕された。爆風と煙が立ち上る。
しばらくの沈黙の後、戦車の上部のハッチが、ゆっくりと開き、中から総理の頭部が姿を現す。顔には汗と煤煙で黒ずみが見られるものの、彼の瞳は明るく、標的の残骸を見ながら満足そうに微笑んでいた。彼の眼差しは、力と自信、そして新たな体験の喜びに満ちていた。
自動車の後部座席で、窓の外の景色に目を向ける総理の表情は、今の彼の興奮を隠しきれないものだった。そして、突如、低い声で「人を撃ってみたい」と総理がつぶやいた。その一言は、車内の静寂を切り裂いた。
隣に座っていた秘書は、一瞬、何を言うべきか戸惑う様子を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。「総理、それは危険な思考です。ただ、もし、シミュレーションで、その感覚を試してみたいのであれば……」と言いかけ、総理の目を見つめた。
「シミュレーション?」総理は興味津々とした表情で、秘書を見つめる。
秘書は少し躊躇いつつ、「サバイバルゲームというスポーツがあります。非常にリアルな戦闘をシミュレートするもので、実際の銃とは異なり、ペイント弾を使用します。そこで、戦術や銃の使い方、チームワークを学べるかと思います」と提案した。
総理の目には、興味の光が輝いていた。「それは面白そうだな。だが私が、そんな場所に行ったら、注目の的になるだろうね」と微笑む。
秘書は、うっすらとうなずきながら言った。「完全に秘密裏に、特別な場所を確保します。総理の政治的な安全を最優先とし、楽しんでいただけるように準備させていただきます」
総理は、しばらく考え込んだ後、にっこりと微笑み「それなら、やってみよう」と答えた。
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