第84話 我、見つかる。

閻魔優子えんまゆうこ目線



「ムエタイと小林流は平伏せよ! 我と共にこの国のために働くが良い!」


 バン、とドアを開けながら。


 我は企業間のいざこざを双方格闘士を立てて、代理の格闘仕合で決着をつけるという、日本古来の伝統的賭け仕合に乗り込んで、そう宣言した。


「閻魔優子!」


「腕力家!」


 観客共がざわめきよる。

 賭け仕合の会場は、建設中の高層ビルの最上階ホール。


 まだ壁紙を貼っておらんので、コンクリートが剥き出し。


 そこの中央スペースでは、黒いパンツ1枚の大男と、相撲取りが果し合いをしており。

 我の乱入で、その手が止まっておった。


 なので我は


「あ、そなたらは存分に仕合うが良い。我はそなたらをどうこうしようとは思っておらぬ」


 そう、安心させるために一言いうと。


 なんかメッチャキレられた。


「てめえ! 腕力家認定されたからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」


「プロレスを舐めるな!」


 自分の力を低く見られたから激昂。

 闘士にはありえる反応よな。


 我を囲み、にじり寄って来る。


 そんな、我に挑んでくる格闘士たち。

 ……困った。


 我は格闘士とは戦ったことが無い。

 戦えば高確率で勝つだろうが……


 帝からのふみの内容に反しないか?


 この2人、ムエタイでも小林流でも無いみたいだし。


 そして。

 おそらく彼らとしても、自分と我の立ち位置がまだ理解できておらんのだろう。

 だからこんな選択肢をとる。


 まずい……これは詰みかもしれぬ。


 そのときだった。


「止めんかおぬしら!」


 その場にいた和服の白髪老人が、我らを一喝したのだ。

 紋付き袴を着たその老人は続けた。年齢を感じさせないとても力強い声で。


「我々は、今次世代のライドウをSE〇Aで出すかS〇NYで出すかで死合っておる! このことの重要性が分からんのかぁっ!」


 老人の言葉には、逆らえぬものがあった。


 


 ライドウ……とは何じゃ?

 分からぬ……!


 我が理解できぬ話に恐れおののいていると。


 我と仕合おうとしていた格闘士2名が、自分たちの仕合に戻って行く。


「帰れ」


 そこに。

 あの老人の言葉が我を貫く。


 老人は我を全く恐れておらなんだ。


「ここには、ヌシの青臭い理想に付き合うガキはひとりもおらぬ。去れ」


 背中を向けながら。


 ……屈辱じゃった。


 けれど……


 我は何も言えんかった。


 そして敗北感に打ちひしがれながら、その建設中の高層ビルを出たとき。


「……見つけた」


 我の前に、厳しい表情を浮かべた女子がいた。

 以前見たことがある女子じゃった。


 美しい長い黒髪。背中に届くほど。

 凛とした気高い顔つき。

 そして引き締まった美しい体躯。


 そして腰には一振りの打ち刀を吊るしておる。


 で、おそらく女子高生。

 ブレザーの制服を着ておるからの。

 つまり花蓮お姉ちゃんより年上の女。


 名前は確か……阿修羅咲。


「何用じゃ? 我は今、虫の居所が悪い。手加減できぬぞ」


 そう、我が問うと


「私の恋人が……僕のことで自分らしくいられない咲なんて咲じゃないって言うのよ。だから初代様……私はあなたを止める!」


 咲はそう宣言し。

 懐から黒いガラケー……六道ホンを取り出して


 パカと開け、キーで変身コードを打ち込む。


『Standing by』


 変身前の電子音声が響き。

 咲はその、六道ホンを高く掲げて、こう叫んだ。


「変身! 六道シックスプリンセス!」


 すると再び電子音声。


『Complete』


 同時に、咲は光に包まれ。

 その光が消えた後には。


 赤い六道プリンセス。

 その姿があった。


 その姿の名は……


「阿修羅道の実行者! 殺戮の女神! バーサーカープリンセス!」


 名乗りを挙げ、バーサーカープリンセスと化した咲は、その腰から打ち刀を抜き放ち。

 それを八相に構えよった。

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