第82話 我、裸族をやめる。

閻魔優子えんまゆうこ目線



 デウスプリンセス、ヒューマンプリンセス。

 元々、花蓮お姉ちゃんの仲間だった女たち。

 ちなみに六道プリンセスに変身後の名前なので、本名は知らぬ。


 コヤツらは我が自衛隊を殴り倒した後やってきて


「あなたが殺した人間を全員蘇生しました」


「ウチらを家臣として傍に置いてくれへんか?」


 そう言って、傅いて来た。


 最初、我が制裁を加えた人間を蘇生させたと聞き


 余計な真似をしおって! ヌシらは我の敵なのか!?


 と、憤慨したが。


 その後


 蘇生時に


「同じことをしてもう一度殺されたら、今度は蘇生しない」


 そう釘を刺しましたと言ってきたので。

 許した。


 聞けば、あの後議事堂前で我が手を下した人間たち。

 自立に向けて全力で動き出したらしい。

 ならばよし。

 何も考えずに借金を重ね、その後始末を他者に押し付ける。

 それを是とする、その醜き精神性。


 それが我慢ならんかったから、我はやってやったのじゃ。


 別に殺すのが目的では無い。殺す以外方法が無いからしただけであるからな。


 それで我は大変気分が良くなり、ふんぞり返り


「良いぞ。存分に我に仕えるが良い」


「ははっ」


 2人はそう言い


 色々してくれた。


 まず、すっぽんぽんはマズいのでとりあえずはこれを、と。

 セーラー服を貸してくれた。


 我は別に裸でも不都合は無いのだが、今の社会ではそれは罪らしく。

 しぶしぶ、袖を通した。


 ……本当はちょっとだけ嬉しい部分もあるにはあったが。


 花蓮お姉ちゃんと同じ制服だったから。


 で、記念写真を撮った。

 ヒューマンプリンセスに太刀が欲しいと要求したら「プリンセス武具錬成」で刀を一振り創り出してくれた。

 そしてぴーすさいんをし、その写真を政府に提出した。




 で、その後。

 金子が欲しい。

 自分が真に所有するセーラー服が欲しい。

 そう思ったので、我に出来る仕事は無いかと訊ねたら


「優子様の身体能力ならば、力仕事がよろしいのではないかと愚考致します」


 そうデウスプリンセスに言われて、いくつか紹介された仕事。

 そこから選んだのが今の職場じゃ。

 日雇いで、給料は1日の仕事の最後に必ずくれるから、我としてはありがたい。

 それに作業着も貸して貰えたしな。


 家臣たちに貸与されたセーラー服を返却し、我はそちらに着替える。


 そして今日まで労働して来たのであるが。


「何用じゃ?」


 控えている家臣2名にそう訊ねる。

 すると


「……姉君が腕力家として名乗りを挙げました」


「優子様と同じ存在やな」


 何じゃと!?


 花蓮お姉ちゃんが!?

 我がワカらせるために、左腕をへし折った、あのお姉ちゃんが!?

 そこから立ち上がり、最強の武芸者の称号「腕力家」を得たじゃと!?


 ……面白いではないか。


 いずれ、再度我に挑んでくるかもしれぬな。

 フフ……面白い。


「いかが致しますか?」


「捨て置け」


「ハハッ」


 家臣たちはそう言い、頭を下げる。




 今日の給料で十分な金子が溜まった。

 この金子で必要なものを揃え、我は次の目標へと飛翔するのじゃ。


 まずは自分の金子で自分のセーラー服を得る。

 あと、下着類も。


 これこそ、本当の自立じゃ!


 本当は新品が良い。

 だが、贅沢は言ってはおれぬ。


 古着じゃ。

 古着で構わぬ。


 ……噂によれば、セーラー服の古着を販売する見世棚だながあるらしい。

 ぶるせらしょっぷ、とかいうらしいが。


 場所自体は前に同僚に聞いて調べておったので、我は今まで貯めた大量の金子を持ち、訪れた。


「セーラー服と下着を一式我に売ってくれ!」


 訪れて、店主に宣言。

 すると


「え、閻魔優子!」


 禿頭の店主が真っ青になった。

 ……別に怯えんでも良かろうに。


 我は真面目に働く民草を害したことはただの一度も無いぞ?


 ひとしきり怯えた後、店主は


「ははっ、優子様。ではサイズを教えていただけますか?」


 そう、青い顔で我の身長とすりーさいずを訊ねて来おった。

 まあ確かに、我の身体の大きさが分からぬなら、探しようが無かろうな。


 とはいえ、測ったことも無いので「分からぬ」と答えると。

 その場でなんとか調べて、それを頼りに調べてくれたわ。


 そしたら


「おお……ぴったりではないか」


 我はあつらえたようにピッタリの、セーラー服と下着一式を見つけるに至る。

 我は鏡の前でくるり、くるりと身体を動かす。


 これにしよう。

 我は店主に


「これをくれ。いくらじゃ?」


「お代は結構です」


 ……それはまずい。

 嫌じゃ。


 それじゃまるで、我が力で奪ったようではないか!

 我は盗賊ではない!


 なので


「相場を教えろ! 新品のセーラー服は2万5000円くらいじゃったから……売値で1万2500円じゃな」


 確か、げーむというものが趣味の、重機使いの同僚の斎藤殿がそう言っておった。

 店売りするとき、定価の半額が常識だと。


 そこから考えると……1万8000円くらいか?

 売値に儲けをプラスするわけじゃしな。


 そこに下着の代金をプラスして……2万円くらいで足りると思うんじゃが……。

 何せ下着の古着じゃしな。値段はグッと落ちるじゃろう。


 我の予想……仕入れの値段1万2500円について、店主は否定せんかった。

 なので正しいと判断する。


「よし。ならば全部合わせて2万円でどうじゃ!?」


 言って、諭吉を2枚差し出した。

 店主は


「ありがとうございます……」


 震えながら、我の差し出した金子を受け取った。


 こうして。

 我は自分の金子で自分の所有する衣服を手に入れた。

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