第51話 やれるもんならやってみろ

 それは、お昼休みが終わろうとしたときだった。


「ウワー! 怪物だー!」


「逃げろー!」


 ご飯を終えて国生さんとお話していたら、そんな叫び声が聞こえて来たんだ。


 ……これは妖魔獣の気配!?


 国生さんもそこに気づいたのか、私たちは頷き合った後、六道ホンを取り出して、飛び出した。

 パカと六道ホンを開けながら。


 ……新学期早々、この学校からヤリチン学生を大量退学で一掃したから。

 私たちは問題なく廊下で変身できる。


 躊躇い無くキー入力する私たち。


『Standing by』


 電子音声が流れる。


「変身! 六道シックスプリンセス!」


 私たち2つの叫びに応じる電子音声。


『Complete』


 そしてヘルプリンセス、ビーストプリンセスに変身した私たちは、悲鳴の中心……校庭に飛び出していった。




 校庭に出ると、身長5メートルに達しようとする、黒い長ズボンを穿いた上半身裸の巨人が暴れ回っていた。


 その巨人は筋骨隆々で、緑色の髪。

 顔がその筋肉と体格に似合わず優男……


 って……!


「アビ!」


 妖魔神三人衆の1人……!


 幹部じゃない……!


 とうとう、幹部が攻めて来たってこと……?

 でも、そんなの破れかぶれ。

 いつもみたいに、秒殺して終わりだよ!


 そう思い、ビーストプリンセスとの連携による浄化を思い描いていた。


 そんな私たちに、アビは哄笑で応える。


「何がおかしいの!?」


「……いやー……いつもと同じだと思うなよ? この他責を爆散できるもんならやってみな。六道プリンセス」


 戸惑う私たちに、アビは自分の胸を指し示した。


 そこにいたのは……


 髪の毛を黒いリボンで後ろでくくってる、真面目そうで可愛い女の子。

 同級生の、藤上さん。


 彼女が、肩から上の部分でアビの胸に埋まっていた。


 こんなことを言いながら


「ケモノに人権を認めているこの国が憎い!」


「ケモノは殺せ! 嬲り殺しにしろ!」


「ケモノの子供は残らず堕胎しろ!」


 ……目を血走らせながら。


 どういうことなの……?


 そんな、混乱する私たちに、アビは言ったんだ。


「この子、托卵の子で、人生に行き詰ってしまったんだよ。可哀想にね」


 ……え?


 アビは続けた。


「この子の他責は、托卵を働いた自分の母親の存在を許したこの国の法律……この他責を、爆散できるかなぁ? ……やれるか……? やれるかぁ?」


 そこまで言い切って。


 アビは私たちに、とても厭らしい、下種の極みの笑みを浮かべたんだ。




 なんですって……!?


 私はこの目の前で巻き起こっている事実に、混乱と焦りを感じて思考停止に追い込まれつつあった。


 どうすればいいの……?


 そんな他責、爆散出来ないよ……!


 だって、本当に悪いの周りじゃん!

 責任があるのは社会じゃん!


 藤上さん、完全に被害者じゃん!


 そんな他責を爆散したら、藤上さんは明らかに自分のせいでないことを自分の責任として捉える、未来の無い自責人間になってしまう!

 そんなの許されるわけがない!


「それそれ! 阿比須真拳とやらを振るってみろよ! やれるもんならなぁ!」


 言って、アビは私にその巨体で前蹴りを繰り出して来た。

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