第50話 欲しい殺意だ!

藤上夕夏ふじがみゆうか目線



 教室にいると、目を引いてしまうから。

 昼休みはトイレにいることにした。


 トイレの個室でひとり、考える。


 家に居場所がない。


 そして、未来も無い。


 私の最終学歴は高卒。

 それ以上は、自分でお金を稼いで進むしかない。

 ……ちょっと調べたんだ。


 国立で200万円くらい掛かるのか。


 それだけ掛かる

 それ以外にも、生活費も掛かる。

 全部でいくら掛かるんだろう……?


 高卒の人間がそれだけ稼ぐのに、一体どのくらいの時間が掛かるのか。

 そんなの、想像もつかないよ。


 そして


 そういうことを調べて、自分のこの状況は当然だと思うようになった。


 こんな大金を、托卵されたケモノの子につぎ込めるわけが無いんだ。

 当たり前だ。むしろ高校に行かせて貰えるだけありがたいんだ。


 だから、お父さんやお兄ちゃんを責めるのは筋違い。

 他所の子に、いや、人間じゃない子にそんなお金を掛けることなんか出来るはずが無いんだよ。当然のことなんだ。


 ……そして結局。


 どう考えても最後に行きつくのは


 人を人とも思わないケモノどものせいで、私の人生はメチャクチャになったんだ。


 これだった。


 どうして私は、人間の子じゃ無いんだろうか……?


 酷い。堕胎して欲しかった。

 人間として生まれたかったよ……!


 辛い……辛いよ……

 死にたい……!


 もし、この場にタイムマシンがあったら、あのケモノたちが生まれる前におばあちゃんに「その子を堕胎して下さい」って土下座して頼んでいると思う。

 あいつらは生きていてはいけない存在。

 なんでこの国は、あんな奴らの存在を認めているの……?


 そのときだった。


「やあ」


 ここ、女子トイレなのに。

 男性の声がした。


 でも、そのときの私は、驚いてはいたけど、とても自暴自棄的な心になっていたから。


「……あなた誰?」


 あまりパニックにならず。

 その男性……個室の壁の上に身を乗り出し覗き込んでる緑色の髪の優男……に向き合ってしまう。


 彼は言った。


「僕はアビ。妖魔神帝フレアー様の忠実なる家臣」


 にこやかに。


 そして彼は


「今のキミの地獄を呼び込んだ原因……それを残らず殺してやりたいとは思わないかい?」


 そんなことを言ってきたんだ。


 ……そんなの……決まってる


「殺してやりたいよ」


 これ以外、ある?

 全く迷いなく、私は私の殺意を口にした。


 すると彼は笑い出した。


「オーケー! 欲しい殺意だ! フレアー様! お力を!」


 彼は哄笑とともに、そんなことを誰かに呼びかけ。

 彼の呼びかけに応え、その場に白い光の球が現れた。


 そして……


 その白い光のエネルギーが私の身体に入って来たとき。


 私は意識を失った。

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