第42話 3人のおばさん
★
「えっと、何の冗談ですか?」
まず最初に、僕が発した言葉はそれだった。
えっと、どういうことだろう?
何で僕の母親と言い張ってもおかしくないような人が、僕に求婚しているのだろうか?
ありえないから。
だから、その言葉が自然と出た。
すると
「店長の私への熱い想い、ミーティングのときの優しい気遣いの出来た会話で受け止めていますから。あれは遠回しのプロポーズだったんですよね?」
……僕のコンビニ1号店の雇われ店長の今夏さん。
確か今年で56才。
見た目は多分昔は告白されることが日常だったのかもしれないな、と。
想像できないこともない。
そういう人だった。
「店長に荷物を運んでいただいたとき、そのとき愛を感じました。店長の想い、嬉しいです。……天野家の御嫁に行く覚悟を決めました」
……2号店の雇われ店長の古秋さん。
今年52才の人。
あまりパッとしない人で、口下手な印象だった。
まあ、その分真面目で熱意はあるので、雇う側としては好ましいと思ってたんだけど。
「店長……今どき年の差婚なんて珍しくありませんよ。……私は20代前半の見た目してるから釣り合いも取れますし……」
……3号店の雇われ店長の新春さん。
42才の人。
かなり太めの女性だった。
20代前半というか……多分、20代から見た目変わってないんだ。ある意味。
いや、もっと前からかも……
そんな3人が、僕に求婚して来たんだ。
僕としては……
ごめんなさい。
こう言うしかない。
だからそう言おうとしたんだけど……
「今夏さんと古秋さんは何を言ってるんですか? 還暦間近の老婆のくせに、店長に求婚するなんて」
……新春さんが他の2人を罵りはじめたんだ。
他の2人がそれに反応。
「はぁ? このブタ女、何を言ってるの? あなただって40代のくせして!」
「邪悪な奴はこの場から消えて!」
「ぎゃあぎゃあ喚くなババア! 私は実質20代なんだよ! だから店長と結婚できるの!」
そして……
つかみ合いの喧嘩をはじめて……
「ひっこめブタ!」
今夏さんがナイフを持ち出した。
……持って来てたんだ。
僕の顏から血の気が引いていく。
そして今夏さんは、新春さんの腹を薙ぎ払った。
今夏さんのナイフが、新春さんの分厚い脂肪層を斬り裂く。
「ぎゃあああ!」
悲鳴。
だが、それは致命傷には至らなくて。
「や、やりやがったなクソババア……」
新春さんも千枚通しを持ち出した。
「キモいアバズレブス2匹を駆除してやる……」
古秋さんは金槌。
睨み合う3名の女性。
僕が雇っていた人たち。
そこに……
空間が歪んで、人影が現れた。
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