第41話 高校生コンビニ店長・シンヤ

天野信也あまのしんや目線




「売れると思ったんだけどなぁ……ヤマザキのフルボトル」


 夕食後の自室。

 自分のデスクに向かいつつ。


 僕はノーパソから紙に印刷したデータを見ていた。

 自分が経営しているコンビニエンスストアの売り上げ表だ。


 自分が売れると見込んで投入した商品……国産ウイスキーのフルボトルがあまり売れて無いのに気づき、僕は溜息をついた。

 お酒の好きな社会人が微笑む店舗を、って思って仕入れを拘ってみたんだけど……ダメだなぁ。


 ウイスキーは人気ドラマのせいで、国産が売れているって報道あったから、そのニーズに応えたつもりだったのに。

 上手く行かない。


 うーん……。


 鉛筆で頭をトントンしながら、売れない原因を思いつくまま書き出して。

 その原因について、自分なりに調査。


「ちょっと撤退するのは悔しいのもあるし……そんなに大きく外してない予感もあるんだよな」


 だって、ミニボトルはかなりの売り上げなのに。

 ミニボトルを複数回買うより、フルボトルの1本買った方が経済的でしょう?


 ……何故売れない?


 うーん。


 僕は椅子に背中を預けながら、売れない理由をぐるぐる考える。


 ひょっとしたら店の商品陳列が悪いのかもしれないし。

 やっぱ、視察に行った方が良いのかな?


 データだけ見比べてても真実はやっぱり見えないしね。


 ……行くか。明日。


 僕の愛しいコンビニ店舗3つに。

 何か分かるといいなぁ……


 よし。


 気分転換に学校の勉強でもするか。

 今は数学と語学をやりたい気分だ。




 ……昨日はちょっと気分転換のつもりの勉強に集中し過ぎて、寝るのが少し遅くなった。

 少し、眠い。


「こんにちはー」


 そして自分のコンビニであるアマノストア1号店を訪問した。


「あ、店長。ご苦労様です」


 すると、僕がこの店の店長として雇っている女性・今夏津子こんかつこさんが僕に挨拶を返してくれる。

 彼女は50才を過ぎている高齢女性で、僕が雇い店長を募集していたときに、一番やる気がありそうだったから採用した。


 さて、見るか……


 僕のイチオシ、ヤマザキのフルボトル……


 んん?


 少し、見つけにくかった。

 なんというか……棚の奥の方に置いてある。


 これは……良く無いだろ。

 修正する。


 でも……これだけじゃ無いんだろうなぁ……




「夜中によく不良少年がたくさんお客で来るんですよぉ。私怖くってぇ」


 ……その後。

 バイトの子に仕事の一部を任せて。


 僕は別室でその雇われ店長から話を聞いていた。

 彼女の書いた報告書を確認しつつ。


「……なるほど。ところでお酒が売れ始めるのは何時からくらいですかね?」


「それはですね、だいたい……」




(……売れない原因……何なのかなぁ?)


 行きつけのオープンカフェのテラス席で、3店舗回って集めて来たデータと、昨日まとめたデータを合わせて、自分なりの仮説とその検証。

 だが……なかなか分からない。


 まぁ、経営はそんなに楽じゃないからね。だから面白いんだけど。


(とりあえず、仮説から対策を複数立てて、それを実行してみるか)


 そして自分の思う対策を書き出していた。


 そのときだった。


「天野店長」


 同じ言葉が3つの声で聞こえて来た。

 自分のことかなと思ったので、そちらを見る。


 するとそこには


 ニコニコ笑顔を浮かべた、女が3人、並んでいた。

 全員、見覚えがある……というより……


 全員、僕がコンビニの雇い店長として雇用している女性たち。


 50代、50代、40代。


 それぞれ、やる気があったり、辞めなさそうだったり、あと少しは社会貢献意識で。

 僕は彼女らを雇うことが、社会貢献になると考えていた。

 だって普通、雇われにくいでしょ? 傾向として。


 すると


 彼女らは言った。


「天野店長、結婚しましょう」


 そう言って、自分の欄を埋めた婚姻届を差し出して来たのだった。


 ……は?

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