第31話 この生ごみがッ!

国生春香こくしょうはるか目線



「人間なんて世界中に数えきれないほど居るッ! 対して鬼熊は阿比須山にしかいないッ! 喰われたからなんだって言うんだッ!」


 拳銃を撃ちまくりながら、私に鳴き声をあげる鬼熊妖魔獣。

 拳銃は射程距離短いって聞いてるけど、結構な狙いで撃って来る。


 私はプリンセスクレインウイングを発動させて、飛行状態で避けた。


「数えきれないほど居るッ!? 人間を数の問題で評価してるんですかッ!? そんなの絶対に間違ってるでしょッ!」


 私には弟がいるッ!

 弟は1人だッ!


 でももしッ!


 もうひとり弟が居たとしてもッ!


 2人いるから1人居なくなっても良いなんて、なるわけがないッ!


「数の問題で評価できないのはお前が愚かだからだッ! 馬鹿は黙れッ!」


 銃弾が飛んでくる。

 ……回避が何気に辛いよ。


「あなたに大切な人は居ないんですか!」


「自分の大切なものも犠牲に出来るのが人の上に立つ者の器なんだよッ!」


 嗤い交じりの鳴き声。

 私はその鳴き声に激昂した。


「プリンセス・スネークポイズンブレス!」


 怒りと共に口腔内部に畜生のチカラを集中させ。

 私は酸の息を鬼熊妖魔獣の顔面に浴びせた。


 私の吐き出した酸の息は、鬼熊妖魔獣の目と肺を焼く!


「うっぎゃああああああ!」


「他人を犠牲に出来るのが上級の人間ですって!? ふざけないで!」


 顔面を押さえて転がり回る鬼熊妖魔獣を見下ろして。

 私は言い放った。


 今の鳴き声、絶対に許せない!


 私は自分の世界を守りたくて、閻魔さんに恩を受けておきながら、その恩を仇で返した。

 閻魔さんはそれを許してくれたかもしれないけど、私は私を許していない!


 こいつの鳴き声を認めることは、過去の私の罪を正当化することになる!


 だから私は……


「他人を犠牲にする前に、あなたが鬼熊に食べられろ! 自分は安全なところで勝手なことほざくなこの生ごみがッ!」


 思いのたけを口にしたんだ。

 すると


「俺はこの世で一番大切なんだー! 俺はひとりしかいないんだー!」


 ……返って来た言葉がこれだった。

 だったら!


「プリンセス・スネークポイズンブレス!」


「うぎいいいいい!」


 私はもう一度、酸の息を鬼熊妖魔獣に浴びせ、悶え苦しませ。

 ……奥の手を出す。


 それは


「プリンセスケンタウロスモード!」


 私の下半身が黒王号ばりの巨馬になる。


 鬼熊妖魔獣の悲鳴の鳴き声が、止まった。


「ひッ……!」


 酸の苦しみも忘れて、倒れたまま後退る。


 そんな妖魔獣に


 私は眼鏡の位置を直しながら


「プリンセスホースキック……」


「やめええええ!」


 グシャッ!


 容赦のない、蹄での蹴りを叩き込む。

 悲鳴は長く響き渡り。


 鬼熊妖魔獣は熊の形を失っていき。


 そして悲鳴が途絶えたとき。


 鬼熊妖魔獣は爆散した。


「……浄化完了したよッ! ヘルプリンセス!」


 私は大切な人に、自分の成果を心で報告した。

 少し、声に出てしまったけど。

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