第30話 僕は餓鬼道のグラトニープリンセス

萬田智まんだとも目線



 僕の受け持っていた妖魔獣のうち、1体を眼鏡の六道プリンセスのお姉さんが持って行った。

 僕はこいつを浄化すればいいのかな。


「鬼熊さんのような善良な生き物を殺すなんて信じられない! 万物の霊長として恥ずかしく無いの!」


 ……この鳴き声をあげる妖魔獣を浄化すればいいのね。

 分かったよ。


「善良ね……何を持って善良って言ってるのかな?」


 とりあえず、ジャブを打つ。


 浄化作業は手順が大事だからね。

 妖魔獣は突撃小銃で武装していたから、その銃撃には警戒しながら。


 ……当たると痛いからね。

 愛する咲の前で、痛みに我慢できず涙を流すような無様。


 僕は晒すことが出来ないよ。


 妖魔獣は僕の言葉に反応した。


「鬼熊さんは仲間を大切にする! 人間みたいに互いに蔑み合い、傷つけあったりしない!」


 ……なるほど。

 そういうタイプね。


 僕はその言葉に、こう返す。


「……鬼熊は、同性同士が遭遇すると基本殺し合いになる生物だって知らないの?」


 そう。


 鬼熊は、縄張り意識が強い生き物で。

 自分の縄張りには異性しか招き入れない。


 で、同性同士が出会うと、異性を求めるライバルになるから、殺し合う。


 鬼熊は知能が高い。

 高いけどね……


 やっぱ連中は動物なんだよね。


 そういうわけで、連中は同族殺し上等の生き物で。

 最悪なことに、この大量消費に追いつく形で、大量生産するんだよ。


 つまり具体的に言うと、1回の出産で約10頭の仔を産むんだよね。

 そして妊娠期間は約2カ月。


 だからいくら死んでも大丈夫!


 ……いるよね。

 動物に夢を見て、現実を見ない人。


 そんなに鬼熊さんが好きなら、調べなよ。

 自分が好きなものを知り尽くそうとしないとか、何なの?


 すると


「う……嘘を吐くなー!!」


 鬼熊妖魔獣は、テンパって銃を乱射し始めた。

 僕は必死で躱す。


 当たると痛いし。


 ……咲みたいに華麗に躱せるようになりたいね。

 恋人として情けないよ。全く。


 必死で躱しながら、言った。


「……事実だよ。夢を見るのは勝手だけど、自分の人間関係の残念さを、人間と言う種に他責するのはやめたらどうかな? オバサン」


 それが、どうもクリティカルだったみたいで。


「アアアアアーッ! このクソガキーッ!」


 ライフル銃の狙いと発射頻度がどんどん出鱈目になっていった。


 ……よし。

 今なら浄化できる。


 飛んだり跳ねたり。

 咲と比較してあまりにも必死な回避で銃弾を避けながら、僕は覚悟を固めた。


 ……浄化のために、痛みに耐える覚悟を。


 僕は突進する。

 鬼熊妖魔獣に。


 突撃小銃の銃撃が容赦なく飛んでくる。

 僕は六道プリンセス標準装備の「死に際の集中力」で、必死で躱すんだけど。

 何発かは、貰ってしまう。


 痛い。


 痛すぎて、思わず涙が出る。

 ……情けない。


 その情けなさを誤魔化すために、僕はさらに目的に専念した。


 ……これは僕の特殊技能プリンセススキル「オーカスハートボディ」の効果。

 豚悪魔オーカスの能力だ。物理攻撃への超耐性。僕を物理攻撃で殺したいなら、対戦車ライフルかパイルバンカーでも持ってくるんだね。

 ライフルの銃弾なんて、痛いだけで効かないんだ。


 ……まあ、それで泣いてしまうんだけど。


 くっ、よくもやったな!


 僕は敵に接敵し、その腹部に掌底をぶち当てる。

 だけど


「効かんワクソガキィ!」


 妖魔獣は、大上段から熊爪攻撃を繰り出してきた。

 それが僕の顔を思い切り叩いた。

 痛い!


 僕は吹っ飛んだ。

 ダメージは受けて無いけど、涙が止まらない。


 吹っ飛んでゴロゴロ転がって、起き上がる。

 妖魔獣は、銃で撃つより殴った方が快感だと思ったのか。

 僕に向かって突っ込んで来た。


 だけど


 優勢なのはここまでだね。


孵れバースト


 その一言。

 その一言がトリガーだった。


 僕が触れた個所から、大量の蛆が湧き、妖魔獣の腹肉を食い尽くし成虫に変化。

 飛び立って、消えていく。


「アアアアアアーッ!!?」


 妖魔獣は悲鳴をあげた。


「これがプリンセスベルゼブブチャイルド……」


 プリンセスベルゼブブチャイルド……。

 魔王ベルゼブブのチカラが乗った技。


 僕が触れた個所に蠅の卵を産み付け、触れた個所の肉を残らず蛆に喰わせて消失させる特殊技能プリンセススキル……!


 腹部の肉を蛆に喰われて、内臓剥き出しになる妖魔獣。

 ヤツは内臓が零れるのを手で押さえて止めようとしている。


 チャンスだ。


 僕は距離を詰め、もう1つの特殊技能プリンセススキルを繰り出した。

 

「プリンセスアバドーンレッグクラッシュ!」


 力いっぱい僕は妖魔獣の足に横蹴りを入れた。

 愛する咲に指導して貰っている必殺の蹴り。


 蝗の悪魔・アバドーンのチカラが乗った必殺技。


 妖魔獣の足がへし折れる。


「ウギャアアアア!」


 立てなくなった妖魔獣。

 ぶざまに地面に転がる。


 痛みと不自由な体に暴れまくる妖魔獣。


 ……これでキメる。


 僕は自分の両手をたまを抱えるように構え、そして腰だめのポーズを取った。


 そこに発生する、輝く球体。


 妖魔獣はそれに気づき、悲鳴をあげる。


「タ……タスケテーッ!」


「浄化してあげるよ……オバサン」


 これはヒデリガミの特殊技能プリンセススキル……。

 

 僕は気合の声と共に解き放つ!


「プリンセスヒデリガミサンレーザー!」


 僕の両手から放射される6000度の熱線。

 それが妖魔獣の身体を焼き尽くす!


 太陽の表面温度と同じ熱線を浴び、妖魔獣は炭化を通り越して消滅する!


「ヒイイイイイイ!」


 そして悲鳴を残し。

 妖魔獣は爆散して消え去った。


「……浄化完了……だよ」


 僕は役目を終えたので。

 涙を拭い、咲の方を伺った。

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