第29話 私は阿修羅道のバーサーカープリンセス

阿修羅咲あしゅらさき目線



 さて。

 妖魔獣。


「阿修羅咲め! よくも心が痛まないな! 鬼熊さんを斬って食べる飯は美味いか?」


 言いながら、ショットガンを撃ってくる。

 大きな発砲音で撃ち出される、無数の散弾。


 私はそれを走って躱しながら


「美味しいに決まってるでしょ。バイトの給料で彼氏と食事して何が悪いの?」


 私は阿比須町役場で、鬼熊駆除のバイトしてる。

 1頭仕留めると5万円貰える。

 他のバイトをしないで、専属だとただ所属しているだけで「待機費」として常に月5万円貰える。


 ……つまり、鬼熊が人里に下りて来た月は、少なくとも10万円貰える。


 嬉しいよね。そりゃ。


「良いことをしてお金を貰う。私、自分のお金に何の負い目も無い」


「クズがッ!」


 またドンドンッ! ってショットガンを撃たれた。

 先読みされないようにしないとなぁ。


 変化を付けて、回避を継続。


「何がクズなの? 言ってるでしょ? 良いことだって」


「鬼熊さんの命の重さがッ!」


 ショットガンの薬莢の排出をしながらそう続けてくるけど、弾込めをしている様子はない。

 自動装填してるのかな?


「そんなことより、人間を食べる気満々で、普通の熊の数倍危険な人喰い熊が下りてくることに対処する方が大事でしょ」


「麻酔銃で眠らせて山に帰れせればッ!」


 ……来たよ。これ。


 うんざりする。


「……それをやっても、目覚めたらまた下りてくるよね? 食人衝動に耐えられなくなってるんだから」


「だったらまた麻酔銃でッ!」


 ……イライラを押さえながら


「そうこうしているうちに、誰かが食べられたらどうするの?」


「それを防ぐのがお前らの仕事だろうがッ!」


 ……あーあ。


 この返答と同時に、またショットガンが発射されたけど、私はそれが全部見えているので。

 普通に躱した。

 

 躱しながら


「……何で面倒事は俺が全部対処する、って言葉が出ないかな?」


 これを言うと、鬼熊妖魔獣は


「何で俺がそんなことをッ!」


 またショットガンで私を狙って来る。


 だから私は言ってやった。


「文句言う場合はね、代案を用意するのが大人の態度なの。……分かったかな? 今までの人生、何も良いことが無かったことを他責してる子供おじさん」


 すると


「ダ……ダマレーッ!」


 私の言葉でこの反応。


 ……頃合いかもしれない。

 私は、今度は撃ち出されたショットガンの弾丸を、全部その身で受けた。


 弾丸が私に命中したのを見て、鬼熊妖魔獣は


「ザマアアアアア!! 生意気なガキ!! ザマアアアア!!」


 ……うむ。腕の肉は結構ズタズタかもしれない。

 私は腕をクロスして、目だけは死守する姿勢で受けたんだけど。

 結構重いかも。


「ち、ちくしょー!」


 なので、私は叫んでみた。


「ハハハハハハーッ!」


 嬉しそうに笑う妖魔獣。


 それに対し、私は


「……なんちゃって」


 そう言ってやった。

 妖魔獣の笑いが、止まった。


 私は腕を再生する。

 これが私の六道プリンセスとしての特殊技能プリンセススキル

 再生能力。

 私は脳が破壊されない限り、身体のどの部位も無限に再生できる。


 ……再生の過程で、ポロポロ散弾の丸い弾が、散らばって行く。


 そして踏み込む。


 今度は……


 私の特殊技能プリンセススキルはまだある。

 これは……潜在能力解放!


 所謂外しとかいうやつだ。

 そのせいで、私の踏み込みは瞬間移動と呼べるレベルに到達した。


 鬼熊妖魔獣に近接し、こいつの持っていたショットガンを奪い取り。


 撃った。


 連続で。


 弾込めもせずに。


「グアアアアアッ!」


 鬼熊妖魔獣は、痛みに悶えた。

 これが「使用武器無限使用」

 私の使用する武器は刃毀れ、弾切れが絶対に起きなくなる。

 いくらでも敵を斬れるし、何回でも撃てるんだ。


 死ぬほどのダメージでなくても、よっぽど痛いんだろうね。

 悶えてる。


 ……私は「痛覚遮断」があるので、絶対にこうはならないんだけど。


 さて……


 真の頃合いか。


 私はショットガンを捨て、腰の刀の束に手を掛けた。

 居合腰……


 撃たれた痛みに悶えている鬼熊妖魔獣……

 そこから回復するのに約2秒……


 充分……!


 私は滑るように動き出し、そして。


 鬼熊妖魔獣の間合いに踏み込み、抜刀。

 抜き付け。


 胴薙ぎ。


「阿比須族滅流・腰斬!」


 私の一刀は、妖魔獣の骨盤で、妖魔獣の胴体を真一文字に、上下バラバラに切り離した。


「アガアアアッ!」


 最期の、叫び。

 次の瞬間、妖魔獣は爆散する。


 そして私は


「……浄化完了」


 そう呟き、私は納刀した。

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