第26話 ノロジー登場

 その場に現れた金髪男性。

 すごい筋肉の人。マッチョマン。

 その肉体を、白いタンクトップ衣装と、同色のブーメランパンツで見せつけている。


 この出現方法は……


「あなた……妖魔神の手の者ね?」


 私の問いに


「いかにも。俺様はノロジー……」


「阿比須族滅流奥義・達磨山河転倒だるまさんがころんだ!」


 瞬時に間合いを詰めて、咲さんの抜刀術による斬撃が飛んだ。

 本来なら、今の斬撃で一瞬にしてノロジーの両手両足が切断され、達磨トルソーになっていたはずだ。


 だけど


「……!」


「無駄だ。俺様たちには実体はねぇ」


 ニヤリ、いやギタリという感じでノロジーは嗤った。


 ノロジーには物理攻撃が効かない。

 これはアビのときと同じ。


 咲さんも攻め手に悩み、間合いを離して思考を開始した。


 物理攻撃が効かない。

 これは私たちにとっては最大級の問題なんだよね。


 どう攻めれば良いのか分かんないよ……!


「うう……」


 そのとき。

 膀胱が破裂して動けなくなっている熊さん信者たちが、苦し気な声をあげた。


 そこに


「そこのオマエ! こんなガキどもに一方的にやられて悔しくないのか!?」


 ノロジーの声が飛ぶ。

 まずい、と思った。


 このままでは妖魔獣が生まれてしまう!


 私は地を蹴った。


「阿比須真拳奥義・臨死体験!」


 対象の頭部を全力で殴り飛ばして気絶させるための必殺拳……!

 必殺の闘気を込めた私の拳。

 それを振り上げ。


 そして危険な言葉を言わせないために、全力でその頭部を……!


 だけど


「悔しい! 殺したい!」


「ぶっ殺す!」


「殺してやる!」


「死ねえ政府のイヌ!」


 一斉に、その呪詛の声を吐き出す。

 ノロジーはそれに満足げに頷き。


「オーケー! オーダーだ陛下! こいつらに殺戮のパワーを!」


 ノロジーの叫びに反応し、白く輝く球体が発生。

 それは瞬く間に膨張し……


 破裂!


 そのエネルギーを4つに分散し、倒れている熊さん信者たちの口の中に飛び込んで行った。

 それと同時だった。


「あがあああああ!」


「ぽぎいいい!」


「るぎぃぃぃ!」


「うげええええ!」


 4人の姿が変わっていく。


 全員が全員、身体が膨張。

 全身赤い毛むくじゃらの生物になっていき。

 口は耳まで裂け、せり出し。

 そして頭部に2本の角が生えてくる。

 まるで牛のような。


 私も変身の余波で足が止まり、跳び去る。

 もう、手遅れだ。


 ……これ、鬼熊だ……!


 彼ら熊さん信者たちは、自身の信仰を捧げる生物……鬼熊になったのだ。


 変身完了した彼らは……

 胸に、人間の顔があること。

 そしてそこから、2本の人間の腕が生えていること。

 これを除けば、完全な鬼熊だった。


「鬼熊様の苦しみを教えてやりたい!」


「人間なんて億単位でいるのに!」


「我々こそ真の正義!」


「ひれ伏せ愚民ども!」


 それぞれ、勝手な鳴き声をあげながら、人間だったときの得物……拳銃、ショットガン、突撃小銃、サブマシンガン……を人間の手で構えている。

 熊の爪攻撃と、人間の手での人間の攻撃……!

 ある意味、熊人共存の妖魔獣……!


 そう、私がその厄介さに戦慄しているときだった。


「ザギ、ドモ、ヘンジンスルンドゥア!」


 ……その場に、蝶の羽根と狼犬の顔を持つ妖精が現れたんだ。

 ただ、活舌がすごく悪くて何を言ってるのか分からなかったけど。

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