第25話 この人嫌い!

「あんたたちの膀胱は破裂した。手術してもらえるまで起き上がれないわね」


 咲さんはそう言い放ち、刀を華麗に納刀する。


 私は


「あの!」


 訊かずにはいられなかった。

 阿比須族滅流って何?


「阿比須族滅流って何ですか!?」


 私の声に、咲さんが反応する。


「私、阿比須真拳の使い手なんですけど!」


 咲さんは私の言葉に


「……阿比須真拳? 阿比須族滅流から、徒手の技だけ抜き出してアレンジしただけのパクリ拳法?」


 パク……リ……だと?




「阿比須真拳奥義・前歯粉砕!」


 私は次の瞬間、咲さんの間合いに飛び込んで、前歯をへし折ることに特化した右突きを繰り出した。


 阿比須真拳をパクリ拳法と言うなんて!

 絶対に許せない!


 私がいきなり襲って来ることは予想していなかったのか、咲さんはかなり焦っていた。

 ギリギリで、右腕で払って私の突きの軌道を崩し、回避する。


「阿比須真拳奥義・肋骨崩壊!」


 だけど

 前歯粉砕を回避された場合に備え、連撃するのは当然だよ。

 左足を跳ね上げ、咲さんの肋骨を狙う。


 けれども


「阿比須族滅流奥義・鉄身五身てつみごしん!」


 瞬時に咲さんは身体を闘気で鋼鉄の強度にし、私の肋骨崩壊を受けきった。


 そこで咲さんはバックステップで距離を離し。

 私も追撃を諦めて、会話の間が出来る。


「阿比須真拳はパクリ拳法なんかじゃない! 謝れ!」


 私が指を突き付けて半泣きで言うと


「いきなり前歯を折ろうとしてくるなんて……あなたおかしいんじゃないの?」


 いきなりの人格攻撃。

 酷い!


 すると、咲さんは面倒くさそうに頭を掻いて


「……分かった分かったわ。パクリは言い過ぎ。謝ります」


 謝ってくれた。


 で


「……でも、阿比須真拳は、阿比須族滅流の徒手の技を改良したものなのは事実。だから……」


 阿比須族滅流は、阿比須真拳の源流よ。


 ……衝撃的な言葉だった。




 咲さんが言うには、阿比須族滅流はその発祥は鎌倉時代に遡るとのこと。

 鎌倉末期、元寇で多大な被害を受けたと考えた鎌倉幕府は、武術の達人の女傑「阿比須夕子前」に命じ、単身で族滅……罪人自身のみならずその一族にも死罪を及ぼさせること……を達成できる武術の開発をさせた。

 それが阿比須族滅流。

 元々、罪人を一族郎党皆殺しにする、処刑のための武術だったんだ。


 それを江戸時代に、私の御先祖が「平和のための拳法・阿比須真拳」に改良。

 そしてそれを、私の家が今に伝えている……


「そういうことなの。分かった?」


 全部説明した咲さんは、本当に面倒そうにそう言って来た。

 言葉は悪いけど、本当の事を言っただけで襲われた……


 咲さんにしてみれば、そんな感覚なんだろうか?


 ……でもパクリは酷いよ。

 偉大な何かがあったら、それに影響されて何か別のことを始めるのが人間ってもんでしょ。


 ……だから


 この人、嫌い!


 それが私の咲さんへの気持ち。

 ムカついた!


 そんな風に、私が他人への評価で憤慨していると。


「……美味しい殺意の臭いがするぜ」


 その場の空間が歪み。


 ……金髪短髪の、ボディビルダーみたいな男性が現れた。

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