第24話 阿比須族滅流

「……何の用? 今日はトモくんの晴れ舞台なのに。返答次第ではただでは置かないよ?」


 ギラリ。

 抜刀した打刀を右手に引っ提げながら。


 拳銃を持ってる人。


 突撃小銃を持っている人。


 サブマシンガンを持っている人。


 ショットガンを持っている人。


 咲さんはそんな人たちを睨み据えていた。


 ……こいつら、テロリスト!


 いきなり銃器が出て来たので、観客が悲鳴をあげて逃げ出した。


「人殺しだー!」


「キチ〇イだー!」


 逃げる人が波のようになり、将棋倒しが発生しそうな危険な状態になってる。


 ……マズイ!


 私は肺腑に大量の空気を取り込み。


 発声。


「落ち着け!」


 ビリリリッ!


 アビス真拳奥義・竜王咆哮。


 限界まで取り込んだ空気を、一気に声帯に通して音波兵器とも言える大声とする。


 お父さんだったら聞いた人間を気絶させることができるんだけど、私は落ち着かせるのが精一杯。

 恐慌状態だった人たちが我に返り、将棋倒しの悪夢だけはなんとか避けられた。


 急いで慌てず、整然と。


 退避のお手本を守りながら、人が去って行く。


 後に残るのは、銃器を持った4人の人影。


 おっさん、おばさん、おっさん、おっさん。


 それぞれ、歯があったり無かったり。

 目付きがおかしかったり。


 着ている服が季節感無かったり。


 そんな人たち。


 彼らは日本刀JKである咲さんを睨み据えていた。


 そして


「お前は町役場の手先になり、人里に下りて来た可愛い鬼熊さんを斬り殺しただろう」


 おっさんAの言葉に


「……は?」


 咲さんは理解不能、という表情を浮かべた。

 そこに


「誤魔化さないで! なんて残酷なの!」


 おばさんの声が飛ぶ。

 まるで叱責みたいな。


 そんなおばさんに


「熊鬼を斬るのがそんなに悪いの? 皆、あいつらが山から下りてきたら困るんだよ?」


「それは人間の理屈だろう!」


「大いなる自然の調和を考えられないのか!?」


 ……何を言ってるのかな?

 

 鬼熊は賢いから、山から下りてくるってのは不幸な偶然じゃ無いんだよ?

 100パー、人間を食べるつもりで下りてきてるんだよ?


 そんなの、殺すしかないじゃん。


「町役場の犬め!」


「命を育む女として、可愛い鬼熊さんを殺して何にも感じないの!? このクズ!」


「あばずれ!」


売女バイタ!」


 ……咲さんが対応に戸惑っているのを良いことに、4人は言いたい放題。

 咲さんの顔色がみるみる変わっていく。


 いや、目つきがどんどん変わっていく。

 怒りでどんどん釣り上がっていったんだ。


 そしてその次の瞬間だ。


 ザッ、と咲さんの腰が居合腰の形に落ち。

 そのまま縮地の動きで、彼らの中心に瞬時に踏み込んだ。


 そして


阿比須あびす族滅ぞくめつ流奥義・膀胱破裂闘気!」


 鋭すぎる気合の声


 その声が発せられた次の瞬間


「あぎゃああああ!」


「ぐっはああああ!」


「ぐええええ!」


「うげええええ!」


 ……4人が倒れ伏す。

 多分咲さんの発した闘気を浴びて、膀胱が破裂したのだ。


 だが、そんなことより。


 私は彼女が発した言葉が気になっていた。


 彼女は今……


 阿比須族滅流……って言ったよね?

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