第23話 鬼畜ショタ?

「閻魔さん!」


 決勝進出を決めたので、応援に来てくれた国生さんが駆け寄ってきてくれた。

 国生さん、私同様、今日は休みなのに制服姿。

 檜舞台なので、私はそうしたんだけど、国生さんも合わせてくれたみたい。


「決勝おめでとう!」


 祝ってくれる。

 ……嬉しい。


 優勝賞金の100万円。

 一部を貯金以外に、国生さんと何かカロリーの無い、白い美味しいものを食べに行くのに使うのも良いかもしれない。

 アイスクリームなんかいいかもしれないね。


 楽しみ。


 ……その前に、彼を倒さないといけないんだけど。


 あの小学生男子を……


 私は、たった今対戦相手に決定した小学生男子に目を向けた。


 ……彼も、応援に来てくれた人が居たみたいで。

 女子高生だった。

 しかも結構美人。


 着ているそのブレザーの制服……阿比須高校の制服かな?

 ベルトを使ってそのスカートの横に、日本刀を一振り下げていた。


 わりと背が高い人で、髪が超長い。

 背中に余裕で届くほどのロングヘア。

 顔つきは凛とした感じで、刀を提げるだけあるな、みたいな顔だった。


 ……この人もお役所で武芸者のバイト?


 そんな妙な女子高生の彼女は


「トモくん決勝おめでとう!」


 ……何やら甘えた感じの声で小学生にそう話しかけていた。

 最初、彼女は小学生のお姉さんなのかな、って思ったんだけど


「咲、ありがとう。キミのために、僕は頑張るから」


「嬉しい……」


 ……えーと。

 明らかに、対等って空気を出してる。


 どういうことなの?

 私たちみたいな、一般的なJCは知らなくていい世界?


「……やあ、お姉さん。僕の名前は萬田智まんだとも。決勝戦は正々堂々戦おうじゃ無いか」


 私たちに気づいたのか。

 その小学生の男の子、萬田くんは私に手を出してくる。

 なんかマセてる感じするなぁ。

 笑みを浮かべているし。


 そんなとき


(え、閻魔さん!)


 国生さんの耳打ち。

 なんだか焦っていた。


(どしたの?)


 なので私も小声で答える。

 国生さんは


(あれは鬼畜ショタだと思う。エロガキの上位種族……! 気をつけて!)


 国生さんは小説を書くことが趣味なだけあって、色々なことを知ってる。

 これもそのひとつなのか。


 私は


(うん。分かったよ。ありがとう)


 彼女に礼を言い


「私は閻魔花蓮。よろしく。どっちが勝っても恨みっこナシね」


 そう萬田少年に返して、その手をとって握手した。




「さーではいよいよ決勝戦! ここからがある意味本番! これまでは実質早食い競争でした!」


 司会してる赤タキシードのおじさんが、マイクで盛り上げる。


「決勝戦のテーマは、ジャム! こちらで用意したオリジナルのジャムです!」


 そう言って、ガラガラと台車に乗せられて運ばれてきたのは。

 オレンジ色のジャム。


 運んできた人、何だか緊張している。


 赤いタキシードのおじさんは、マイクパフォーマンスを続けている。


「さぁ、こちらのジャムを食パンに塗り付けて、1瓶食べ切って下さい! 先に瓶を空にした方が勝者です!」


「もし、双方瓶を空に出来ない場合は、双方失格になり、賞金は来年に持ち越されることになります!」


 ……それで毎年賞金額が積み重なって、今や100万円、なんだよね。

 知ってる。


 だから今が狙い目なんだよ。

 だけど


「そして双方共に失格の場合、食べられもしないのに出場して、食べ物を無駄にした罪を反省していただくため……」


 ここから先は知らなかった。


「町役場の方で、2人とも来年の大会まで、下働きのボランティアをしていただくことになります」


 えっと……

 そんなシステムだったの?


 この大食い大会。


「ちょっと待った! そんな話聞いてない!」


 ……向こうの、萬田君が怒ってる。

 うん。当然だよね。


 すると


「……参加申込書に、本大会の試合形式について、一切クレームはつけませんと、サインをしていただいているはずですが?」


 ……そういえば、あったな。

 あれはてっきり「私の食べにくいものをテーマに持ってくるなんて卑怯よ! これは差別!」とか「早食いは身体に悪い。別の方式に変えろ」とか

 そういうモンスタークレーマー対策だと思ったんだけど……


 こういう意味だったのか。

 私はそれで、ある意味納得してしまった。


 この大会の参加者に、若年層が多いってことと、なんだか一般常識に疎そうな子が多いなってこと。


 ようは決勝戦でこんなことを突き付けられるってことを知らない子が、お金に釣られて集まって来てたんだね……!

 困った……どうしよう……!


 あれはエイプリルフールでしたって言い逃れるには、時期が遅すぎるし。

 結構詰んでるかも……


 私はちょっと青くなってしまった。

 多分、町役場が想定してるボランティアは、鬼熊駆除時の剣豪や格闘士のサポートだ。

 それぐらいしか、町役場がボランティアを投入しそうな種類の仕事は無いもの。

 多分、囮役なんかをさせられるに違いない。


 ……私、鬼熊を素手で倒したことはまだ無いんだよねぇ……。


 困ったなぁ……


 そうやって、悩む私を他所に。

 決勝戦のテーマである、オレンジ色のジャムが運ばれてきた。


 私たちの席の真ん前に。


「これをパンに塗って食べて下さい。塗り方は自由です」


 おじさんは続ける。


「パンは欲しいだけこちらで用意します。食パン、フランスパン、ナン。何でもありです。欲しい種類のパンを言ってください」


 最後の情けです。

 そう言って、赤いおじさんはマイク芸を終えた。


 ……よし。

 私も腹を括ろう。


 そうじゃないと、閻魔一族の娘として恥ずかしいよね。


 そう思い直し、この目の前に降って来た戦いから逃げない覚悟を決めた瞬間だ。


「阿修羅咲! 鬼熊さんを殺害した罪を償わせてやる!」


 パン! と。

 会場観客席から銃声が轟き。


 それに素早く反応した、萬田くんを応援している女子高生のお姉さん。

 ええと……確か咲さん。


 咲さんが。


 腰の刀を抜刀し、何かを……おそらく銃弾を弾き返していた。


 これは……!

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