第21話 テストと大食い大会

 涼しい図書館の自習スペースで、社会科と理科の授業のノートをまとめていると。


「あのね」


 向かいで、勉強している国生さんが、ノートから目を離さないで私に話し掛けて来た。


「何? 国生さん」


「ちょっとだけ愚痴っていい?」


 ……うん。

 これは良い傾向なのかも。


 六道シックスプリンセスの仲間として距離を詰める、という意味では。

 だから


「いいよ」


 そう、答えた。

 すると


「……さっき、表でデモ行進してた熊保護団体。お役所に抗議の電話をさ、してくるんだ」


 私のお父さん、お役所で職員してるんだよね。

 そう、言ってから。


「あの人たちのせいで、電話回線が占領されて、相手をするので他の仕事が回らないって言ってて」


 ……国生さんの声には静かに怒りが籠っていた。

 お父さんの仕事をメチャクチャにしているあの人たちに。


 国生さんは大人しくて優しい女の子だ。

 その国生さんも、やっぱり家族を苦しめられたら怒るんだね……


 そういう国生さんの一面を見られて、私は少し嬉しかった。


 私は


「そういうの、警察に言っちゃダメなの?」


 そう、無難に返した。

 続けて


「威力業務妨害取られそうな気がするんだよね」


 そう、解決策の示したんだ。




「よーし、テスト終了。後ろから集めてー」


 そして、1学期の中間テストが終了した。

 手応えは充分。

 お小遣いが500円アップするかもしれない。


 2500円になったら、どう使おうか……


 ……驚くほど、使い道がない。


 読む本は借りるか、買ってもらうかだし。


 服はいつもお母さんと一緒に買いに行くから、全額親持ちだし。


 間食しないし。


 私、ゲームしないし。


 ……しょうがない。

 私に恋人が出来たときに備えて、貯金しておくしかないかな。


 そんなことを考えていたら。


「テスト終わったー!」


「何する? ゲームするか?」


「本屋巡りしよーぜー!」


 男子がテスト後の開放気分をどう満喫するかで会話していた。

 やれゲームするとか。

 カラオケ行くとか。

 どこかに自転車で遠出するとか。


「なぁ! こいつに出てみねぇか?」


「……たい焼き、肉まん、牛丼、それにジャム塗りトースト、どれだけ多く食べられるか? 阿比須町・超大食い大会だって……?」


 大食い大会に参加するとか……


 今週末、駅前のショッピングセンターで、大食い大会が開催されるらしい。

 優勝賞金は100万円。

 私もちょっとだけアビス真拳を学んだ者として、たくさん食べることには自信がある。


 だから、出てみたい。


 100万円は大金だ。

 今は使い道無いけど。

 将来のために、是非欲しい。

 こういう方法で無いと、私みたいな普通のJCはお金を稼ぐなんて無理だ。


 ……私の週末の行動予定は決まった。

 町主催の大食い大会に、私は出場することにした。

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