第20話 鬼熊の歴史

 鬼熊。


 昔から、妖怪として語り継がれていた生物クリーチャー

 体長2メートル超。

 体色赤。

 そして頭部に生やした牛の様な2本の角。


 ここから、鬼熊、と呼ばれているの。

 まるで鬼のようなので。


 長らくただの伝説だと思われていたんだけど。

 戦後、GHQが入って来たときに、白人の手により「鬼熊は実在の生物である」と明らかになるに至ったんだ。


 連合軍に占領されていた時代、日本国民は栄養状態が良くなかったので。

 もっぱら白人が鬼熊の餌食になった。


 普通の熊は仕留めやすくて食いでがあるから、人間を襲うんだけど。

 鬼熊は本当に人肉の味が好きなので人間を襲う。


 加えて、鬼熊は賢い。

 味のえり好みをするんだ。


 だから好んで襲うのは「子供」か「裕福な人間」

 老人や貧困層は襲わない。

 子供は肉が柔らかいし、裕福な人間は栄養状態が良く、運動量も適切なので、自然彼らにとってとても美味しいご馳走になるんだよね。


 だからGHQは鬼熊を徹底的に狩った。

 軍人が襲われるからだ。

 一時期は爆撃計画も立ったらしいんだけど


 さすがにそれはまずいだろうとなって。


 日本各地に存在した、一流の格闘士グラップラーたちに懸賞金を出して狩らせたらしい。

 ひいお爺ちゃんの時代の話だ。


 お父さんが昔、思い出話で当時は鬼熊1頭で500円貰えたらしいって言ってた。


 今の500円と違うんだよ?

 戦後の500円だよ?

 今の25万円くらいだったはずだよ。


 格闘士は鬼熊を狩ることで戦闘欲求と金銭欲を満たすことができる。

 みんなやるよね。そりゃ。


 ……そのせいで鬼熊はガンガン数を減らして。

 今は、この阿比須町に存在する阿比須山に存在するのみだ。

 他は全滅した。

 狩られ尽くしたんだ。


 ……で、ね。

 さっきも言ったけど、鬼熊たちは賢いんだよね。


 こういう状況で、現在自分たちの生息領域が阿比須山しか残ってない事実をキチンと重く受け止めていて。


 無暗矢鱈に人間を襲うのをやめてしまった。


 人間を食べたいけど、人間を食べると絶滅する。

 それを自覚しているんだね。


 だから基本、彼らは阿比須山から出てこない。

 すみ分けをしてるんだ。

 

 ……じゃあ、彼らは安全なの?

 それが、違うんだな。


 ……たまーに、山から下りてくる個体がいるんだよね。

 人肉食べたさに。


 食欲に支配され、自制心が効かないんだ。

 そう言う個体、熊鬼って言われるんだよね。


 もう熊ではない、鬼なんだ、という意味合いを込めて。


 なので……人里に下りて来た時点で、市役所が雇っている剣豪や格闘士が出向いて、熊鬼を駆除するんだけど。


 それをすると、熊愛護団体が文句を言うんだよ。


「賢くて可愛い鬼熊さんを殺すなんて酷い! 麻酔銃で眠らせて、阿比須山に帰らせるべきだ」って。


 頭おかしいとしか言えないよね。


 鬼熊に夢を見過ぎなんだよ……。


 ……ああいう人たちは、自分の大切な人が、鬼熊に殺されても同じことが言えるの?


 ……なんだかムカムカしてきた。


「国生さん、行こう!」


 私はそう言って、国生さんの手を引いて図書館の入口に向かった。

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