第15話 閻魔さんと一緒に戦いたい!

国生春香こくしょうはるか目線


「オイ国生。閻魔の昼飯の邪魔してこい」


 そして今日、五味山くんにそんなことをまた言われた。

 心臓を掴まれるような恐怖があった。


 だけど……


「え、閻魔さんに言うよッ!」


 頑張って、勇気を出してそう言った。

 それが、私の精一杯。


 すると五味山くんはニヤリと笑い


「……言えば良いだろ。ただ、お前の弟が足の骨を折るかもしれねえよな。事故ってどこでも起きるものだし」


 ……血の気が引いた。

 私には弟がいる。


 小6の弟が。


 大切だった。弟だもの。当然だ。


 ……これは脅迫罪が成立する。

 それはそうなんだろうね。きっと。


 だけど……


 例え罪が成立しても、弟の足がこいつらにへし折られたら、それは元に戻らないんだ。

 有罪になれば受けた被害も完全回復するなら、私も勇気を出せたかもしれない。


 でも、そうじゃない……


 そして私は……


 とても卑怯なことを考えた。

 閻魔さんは普段はとても優しくて、さっぱりした女の子だ。

 お昼ご飯の邪魔をしても、すぐに謝ればきっと許してくれる。


 だから、大丈夫。

 それに……弟を守るためには、こうするしかない……


 そして私は、閻魔さんの食事を邪魔した。

 急に突っ伏す振りをして、バナナを床に落としたんだ。


 ……その際に、演出で私も半分だけ食べたお母さんが作ってくれた自分のお弁当箱もひっくり返した。

 自分にダメージがあれば、閻魔さんも私を許しやすいかもしれない。

 そういう計算。


 ……小説を書いているから、そういう小賢しい計算ができてしまう卑怯な私。


 そして実行した。

 目論見通り、全て成功した。


 ……やった瞬間。

 自己嫌悪で死にそうになったけど。




「……こ、国生はお前がお茶汲みから助けてやったやつだぞ……? そんな奴が、その恩を忘れてお前に攻撃したのはいいのかよ?」


 でも閻魔さんは五味山くんの目論見を見抜いていて。

 私の計画が成功した後、まっすぐ行って五味山くんたちを叩いたんだ。

 一方的に。


 で、追い込まれた五味山くんが言った。

 一番言われたくないことを。


 ……ひょっとしたら、閻魔さんは気づいていなかったのかもしれない。

 いや、きっとそうだ。


 恩を仇で返すような真似をした人間を、いくらなんでも許してなんてくれないよ……!

 そう思い、恐怖した。


 私は閻魔さんに嫌悪された。

 これからは、私も閻魔さんの嫌悪感を覚える人間のひとり……


 自業自得だけど、怖かった。


 私の人生、終わった。

 そう思った。


 だけど……


「知ってるよ!」


 そう言ったんだ。

 耳を疑った。


 ……知ってて、助けてくれたの?


 私が何か仕掛けようとしているって、最初から知ってたんだよね……?


 それなのに……!

 私の立場を想像して、敢えて嵌ってくれたの?


 そういえば……

 閻魔さん、自分のバナナを床に落とされたことは一言も怒っていなかった。

 五味山くんを叩いたのは、私のお弁当箱を、私にひっくり返させたことだけが原因だ。


 私に、自分のお弁当箱をダメにさせたことが許せないって。


 ……神様に会った気がした。




 そして。


 閻魔さんが目の前で魔法少女に変身して、妖魔獣っていう怪物に変身した五味山くんたち3人と戦い始めて。

 3人の内、2人は戦いながら彼らの主張を完全論破。

 

 そして最後の1人になったとき。


 最後の1人……汚礼くんは彫刻が趣味だったらしく。

 自分の作品が誰の評価も受けられないことが不満で、不良になったらしい。

 そんなことを口にした。


 ……汚礼くんの主張……


 周りが色眼鏡で見ているから俺は評価されない。


 それは、表現者として絶対に言ってはいけないことだ。

 自分の作品が理解されないのは周りの頭が悪いから、見る目が無いから。


 これはダメなんだ。

 それを私はすでに知っていた。


 私の最初に書いた作品。


 ……誰の感想も貰えなかった。

 そして無理を言って添削して貰った。

 書き慣れている人に。


 そしたら


「……これ、人間が読むことを想定して書いてるのかな?」


「ハッキリ言って、こんなもの小説じゃない」


 ……胸に穴が開くような辛さがあった。

 でも、今思うとその通りだった。


 当時の私は、読者の想定が無かった。

 本当のことを言われただけだったんだ。


 だから……


 私は勇気を出して言ったんだ。


 他人任せで、自分にも出来ることをやらず、嵐が過ぎ去るのをただ待っているような生き方はもう嫌だ!


 言ってやった。


 あなたの作品が理解されないのは、あなたの作品に価値が無いからだ!


 って。


 その直後、激高した汚礼くんが私を殺そうとしてきたけど。

 それを閻魔さんは庇ってくれた。


 ……また、助けてくれた。

 私は終始、閻魔さんが輝いて見えていた。


 ……私も閻魔さんと一緒に戦いたい……


 そう思った。


 そのときだった。


「……キミは畜生道の力を受け継いだ六道シックスプリンセス……ビーストプリンセスだ」


 ギョッとした。

 いきなり、馬面の妖精が話し掛けて来たからだ。


 ……何なの? この不気味な生き物……?

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