第14話 誕生! ビーストプリンセス!

国生春香こくしょうはるか目線


 変身……できた。


 私は六道シックスプリンセスに変身した自分の姿を確認する。

 私の衣装は……白に限りなく近い灰色。


 少しフリルっぽいデザインはあるけど、動きやすさを重視したデザイン。

 魔法少女のイメージからは逸れない仕様。

 グローブもブーツもある。


 そして両手の甲の部分に狼と馬、腰のベルトのバックルに蜘蛛、両足の膝に鶴と蛇のデザインがある。


 ……良かった。


 最初、妖精バキに「キミは畜生道の力を受け継いだ六道シックスプリンセス……ビーストプリンセスだ」って言われたときは、もっと酷いのを想像していたから。


 でも実際に変身してみると、狼・馬・蜘蛛・鶴・蛇。

 全然普通。

 最悪、牛・豚・鶏・鯖・ゴキブリなんてのを想像してたし。

 そうじゃなくて本当に良かった。


 安心した私は、反動で爆上がりした変身後のテンションで、名乗ってしまった。

 変身後も変わらない眼鏡の位置を直して、腕を見得きりで振るって決めポーズ。

 続けて高いテンションのまま


「私は畜生の化身! ビーストプリンセスよ!」


 ……そう言ってしまってから、少し恥ずかしくなって後悔した。


 そして後悔しつつも、ここに至った経緯を思い返す……




 ……私は、イジメられていた。

 中学2年生に上がってから、不良生徒に目を付けられてしまったんだ。


 普通、男子は女子をイジメたりしない。

 いや、外見をあげつらって意地悪することはあるかもしれないけど、暴力で脅して女の子を小間使いにしたりはしない。

 少なくとも、私が経験した人生ではそうだった。

 女子をイジメるのは常に同じ女子。それが私の中の常識だった。


 だけど、この人たちは違ってて。


 ある日、私に「国生、ジュース買ってこい」と言って来たんだ。

 最初理解できなくて


 なんで? と思わず訊き返したら


「文句あんのか?」


 と凄まれた。

 ……そこまでされたらもう、逆らえない。


 その後も、パシリもだけど、お昼のときのお茶汲み、宿題の答えの開示、お母さんが飲み物を買うために私に持たせてくれた小銭を巻き上げるということもされた。


 ……性的なことは要求されなかったけど。それもいつか来るんじゃないかと怖くてたまらなかった。


 そして……


 クラスの誰も、私を助けようとはしてくれなかった。

 他の男子も、この3人を誰も非難しなかったんだ。


 ……恨みを買うのが怖いから。


 だって……


「俺たちを訴えても無駄だぜ。おじさんが警察の偉いさんだから揉み消してくれるからな」


 こんなことを平気で言っちゃう人だから。


 あり得ないって思っても、もし本当だったらどうしよう。

 そんな気持ちが働くから、躊躇しちゃうよ、そりゃ。


 私は中1で創作に目覚め、小説を書いてるんだけど。

 そういうの、嫌だけど分かっちゃった。

 彼らの気持ちが想像できるから。


 だから、彼らを勇気がない最低の人間だって私は言えなかった。

 私だって、立場が違ったら黙ってるかもしれない。


 だけどあの日


「自分のお茶くらい自分で汲みなよ」


 私がいつものように、彼らのお茶汲みをしようとしていたら。


 この学校の有名人で、影の実力者「閻魔花蓮」さん。

 閻魔さんが私を救ってくれたんだ。


 閻魔さん……

 この街の影の支配者と言われてる、閻魔一族のひとり娘。

 お母さんは裁判官。

 そしてお父さんが……地上最強の生物。


 曰く、単身素手で暴力団を壊滅させたことがある。

 曰く、米国と条約を結んでいる。

 曰く、時速4キロ以上で動くと世界中のカーナビが暴走する。


 そんな、恐ろしい家の女の子。

 見た目は元気で可愛いショートカットの活発少女なのに。


 ……最初、どんな怖い人なのかと思っていたけど。

 1年のときも同じクラスだったから、そのときに分かってしまった。


 この人、こっちから攻撃を仕掛けない限り、無害な人なんだ。


 そこを理解できた人は、彼女を恐れなくなった。

 私もそのひとり。


 そんな人が……私を助けてくれた。

 嬉しかった。


 ……閻魔さんには私を助ける義理なんて無い。

 だから、こんなこと、全く期待して無かったの。


 そして流石の3人も、閻魔さんに注意されたら、もう私に手を出すことができなかった。

 だって、閻魔さんの後ろには最強のお父さんと、裁判官のお母さんがついている。


 逆らえないよ。


 それで私は解放されたんだ。


 されたんだけど……

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