第12話 尊い勇気

「閻魔死ねえ!」


 九相が変じた、刀を持った妖魔獣の斬撃をミリ単位の動きで躱しながら、私は言った。


「何が死ねだ! アンタは他人にそんな発言が出来るほど偉いのかッ!」


 すると


「俺は剣道部で一番強かったッ! なのに、部長に立候補しても誰も支持しなかったッ! 顧問のセンコーも俺を無視したッ!」


 今の私は、死に際の集中力を任意で発動できるので、回避はお手の物。

 だから回避しつつも、妖魔獣の鳴き声を聞き取ることができる。


「絶対に俺の家が貧乏だからだッ! 貧乏人を見下しやがってッ! 許さねえッ!」


 袈裟、逆袈裟、胴薙ぎ、そして袈裟。


「私たち中2でしょ! それで部長なんて普通無いでしょ! それに、部長を何だと考えてるの!? 皆をまとめて何か問題起きたら責任の一端を担うんだって分かんないかな!?」


 責任を担う、という言葉を言ったとき。

 少し、九相の剣が鈍った。しかし


「責任なんて誰も果たしてねえ! その地位をカサに着て、女を漁ったり、ナイシンショを良くしているだけだッ」


 力任せの大上段。野太刀示現流を思い出す。

 それを半身で躱しながら


「責任果たさず威張ってるだけだなの? その証拠は!? 俺がそう思ったんだっていうのは無しだよッ!?」


 そしてあまりにもタイミングが良かったので


「それに、もしあなたの他の部長候補が、あなたより遥かに頼りない人間だったら、あなたが選ばれてるはずだよねッ!? そう思えないのは、あなた、他の人を馬鹿にしてるんだよッ!」


 地面を蹴り、大回しの浴びせ蹴り。

 それをカウンター気味に九相の後頭部に叩き込む。


「だったらやっぱり、アンタに部長の資格は無いッ!」


 九相は床に蹴り飛ばされ、床を陥没させた。




「閻魔殺すッ!」


 五味山が多腕で掴みかかってくる。

 ……こいつは素人だね。

 獣と一緒だ。


「アンタは何で私に殺意持ってんのッ!?」


 かなり余裕をもって避けていく。

 我武者羅だ。

 攻撃で相手を追い込んでいくという思想が無い。


 すると


「お前は俺に惚れなかった! お前の前で良いことをやったのに! 何故俺に惚れないッ!?」


 ……そういえば、合ったかな。

 去年の校内の年末大掃除で、校外のゴミ拾いで。

 やたらコイツ、張り切ってゴミ拾いしてた。


 別に、それはいい。

 何かそれを馬鹿にするとかは無い。

 良いことだと思う。


 でもさ……


「良いことをやったら、必ず好きにならないといけないっておかしいでしょ」


 誰を好きになる、ならないって自由じゃん。

 何でそれで恨まれないといけないの?


 そしたら


「それはお前が相手のツラや成績や、金で見ている証拠だッ! 正当評価できるなら必ず俺を選ぶはずだぁぁっ!」


 ……は?


「アンタが正当評価されたら必ず女の子が選ぶほどの男の子なら、何でアンタには嫌われ者の九相と汚礼しか友達が居ないんだッ!」


 腕による攻撃で、足がお留守なので、私は下段を薙ぎ払う蹴りで足払いを掛けた。

 もんどりうって転倒する五味山。




「閻魔ぁぁぁっっ!」


 ハリネズミのように身体から生やした彫刻刀のようなものを、まるで毛針のように発射してくる妖魔獣・汚礼。

 私は周囲を確認する。


 ……周りに人は居ない。

 避難完了状態。


「プリンセス黒縄地獄!」


 私は両手から黒い縄を出現させ、それを触手のように、鞭のように振るい、飛来する彫刻刀ミサイルを残らず叩き落す。


「アンタは何が不満なワケ!?」


 私の問いに


「俺の彫刻を誰も褒めない! 俺の彫刻は世界一なのに! クソみたいな他の作品は皆褒めるのに!」


 そう、叫びながら吼える。

 そして撃ち出す彫刻刀ミサイルの数と勢いに激しさを増していく。


「どいつもこいつも色眼鏡で見やがって! 俺の芸術をくだらねえ理由で理解しようとしないゴミどもがあああ!」


 ……クッ!


 創作者の不満か……


 私、本は読むけど何か創作したことは無いんだよね。

 それで的確な返しが出来るか……


 そのときだ


「評価されないのはそれがあなたの実力なんだよッ!」


 ……教室の隅っこの方から、声が上がったんだ。

 反射的にそちらを見る。


 ……国生さんだった。

 見落としてた……!




「私だって折角書いた小説を『他人が読むことを考えてない』『こんなもの誰が読むんだ』って言われたこと何回もあるッ! でも、それがその人の私の作品への評価なんだッ! 受け取る側に文句をつけるのは下の下! そしてそんな評価しか貰えないなら、それがあなたの実力なんだよッ!」


 ……国生さん。

 ずっとこいつらにお茶汲みをやらされていたのに。

 必死で、啖呵を切っていた。


 どんだけ……怖いのを耐えて……


 私は感動に震えていた。


「あなたの彫刻が評価されないのは周りが色眼鏡で見てるんじゃないッ! あなたの彫刻に価値が無いだけよッ!」


「ダマレー!!!」


 国生さん目掛けて、無数の彫刻刀が飛ぶ。

 私は彼女を庇うために、その射線を切る位置に飛び込み、その背中で受けた。


 衝撃。


(クッ……!)


 アビス真拳奥義・鉄身五身てつみごしん


 闘気を身体の表面に凝縮させ、防御能力を瞬間的に上昇させる技……!


 この技、本格的に習得するなら、千尋の谷から飛び降りる特訓を受けなきゃいけないんだけど……

 私は女の子だから、やってないんだ。


 ……だから……ダメージはある。


 だけど……


 弱い人が、勇気を出した。

 その尊い勇気は、守らないと。


「ウルサイウルサイウルサイ……」


「全部お前ガ悪イ……」


「世の中が全部悪イ……」


 ……3体の妖魔獣は、他責思考が最大値に達したみたいだ。

 揺ら揺らと立ち上がり、私を狙って迫って来る。


 ……私は笑みを浮かべた。


 ありがとう。国生さん。

 これで私は、彼らを浄化できるよ!

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