第12話
悶々としたままの一日だった。放課後の教室で僕は、一日を乗り切って安堵のため息をつく。
改めて考えると、この世界には誘惑が多い。
「今日なんか暑くね? まだ五月だよね?」
「イジョウキショーらしいよ。二十五度だって」
「はー? もう夏じゃん。うざっ。扇ご」
「あーアタシも―。今日マジ蒸れるんだよね」
スカートをバサバサして下半身に空気を送り始める女子の姿を見てしまい、僕は急いで視線を外す。耳が熱くなる。やばいやばい。早く収まれ。
男子が圧倒的少数者であるせいか、女子は基本的にガードが緩い。平気でスカートをパタパタしてパンツはまろび出すし、ブラウスが透けて下着の形がくっきりしていることなんてざらにある。僕はその度に反応する下半身に四苦八苦するのだけど、見られている側の女子はどこ吹く風といった様相だ。一度、あまりに見かねて注意したことがあるのだけど、
「あー、王子って結構初心なんだ、カワイー」
「私のだったらいくらでも見せるけど、どう?」
なんて揶揄われてしまったくらいだ。それ以来僕は、藪蛇にならないように黙って視線を逸らすことにしている。
「この世界の男子ってさ、苦労が多いよね」
「なにが?」
教室の掃除当番の役目をこなしながら片山くんに話しかける。片山くんは熱心に箒で教室の隅の埃をこそぎ取っていたせいで、スカートをパタパタしている女子に気付いていない。僕が控えめにそちらを指し示す。が、
「……なにが?」
視界に収めてもなお訊き返される始末だ。
「あれだよ。……パンツ、見えちゃってるよね?」
「そうだな。だから?」
「え、いやだからさ、あの、恥ずかしくなってこない?」
「……ああ、大氏はそういう世界だったのな。生憎だが、アイツらの下着を見たところでなんとも思わねーよ。はしたない奴ら、くらいだな」
「興奮したりしないの?」
「するわけねーだろ。あんな見慣れたもん」
「あ、そう……」
なんとも贅沢な話だ。秘すれば花、秘せずは花なるべからず、か。僕もやがては見慣れてなんとも思わなくなったりするのだろうか。冷めた目で偶然のパンチラを見届ける未来の自分を夢想する。寂しいね。いつまでもパンチラにときめく男の子でありたい。
「よし、こんなもんか。終わりにしようぜ」
姦しい放課後の一幕には目もくれず掃除当番を勤め上げた片山くんが、満足そうに鞄を担ぎ上げる。片山くんはわりと根が真面目で、課せられた仕事はきっちりこなさないと気の済まないタイプだ。最近、だんだんとクラスのみんなのことが分かってきた。
「あ、掃除終わったみたい!」
「ねえねえ、大氏くん、片山くん」
女子三人がこちらめがけてやってくる。クラスの中でも目立つ女子のグループだ。三人のうちの一人は、カーストトップの川上さんだ。「なにかあった?」と僕が尋ねると、期待半分、不安半分の口ぶりで続ける。
「この後、もし時間あるならカラオケでもどうかなーって」
「あ、ほんと暇だったらでいいんだけどさ! ただの思いつきだし!」
「カラオケ?」
片山くんは露骨に警戒を声色に滲ませる。眉間に皺まで寄っていた。。
「俺はパス。閉所に女子と一緒なんて正気じゃねえよ」
片山くんらしい回答だ。取り付く島もない。女子は徹底的に信用しないというのが彼のスタンスだ。
「王子はどう? ほら、つまんなかったらすぐ帰ってくれてもいいし」
川上さんがめげずに誘ってくれる。僕は……そこまで邪険にする理由もないんだよなあ。クラスのみんなとは出来るだけ仲良くしていたいし、放課後にカラオケなんて、すごく普通の高校生っぽくていいよね。
「せっかくだし行こうかな」
「やった!」
川上さんの横ではやった、やったと他の二人がぴょんぴょん飛び跳ねていた。川上さんも嬉しそうにしているし、こんなことで喜んでくれるなら毎日行ってもいいくらいだ。
「行くも行かないも大氏の自由だが、十分注意しろよ」
「うん、気を付けるよ」
忠告を有難く受け取ると、「じゃあな」と片山くんは姿を消した。本音を言えば、片山くんとももっと仲良くなりたいし、一緒に行けたらよかったんだけどな。でもそれは欲張りすぎかな。今度、片山くんを遊びに誘ってみよう。もちろん、女子抜きで。
「じゃ、行こ!」
女子に連れられて校舎を出る。敷地内にある駐車場を通り過ぎてカラオケ店へ……その前に、僕はほんの少しだけ時間を貰って、坂島さんとリカさんのもとへと駆け寄る。当初の予定では、そのまま帰宅することになっていたのだ。
「あの、すみません。実はこれから、クラスメイトと遊びに行くことになったんです」
「お、イイじゃないスか。青春スねえ」
「わかった。だが、私たちの仕事は君の護衛だからな。悪いがお店までの道中は一緒に行かせてもらうよ。もちろん、邪魔にならない程度に距離を取るつもりだから安心してほしい」
「迷惑かけてすみません。本当なら、このまま僕を送り届けて仕事が終わりになるはずでしたよね」
「義也くん、変なところに気を遣うんスねえ。こんなの護衛の仕事のうちじゃないスか。それにウチ、最近は仕事終わっても閉店までパチスロ打つくらいしかやることないスから」
「だそうだ。ギャンブル中毒のコイツには遠慮しなくていいぞ」
それは、えーと、なんと言えばいいんだろう。笑ってごまかしつつ、僕は頭を下げて川上さんたちに再合流した。
学校から十分も歩けば、馴染みにしているカラオケ店があるということで四人で道路を歩く。時折後ろを振り返ってみたけれど、坂島さんとリカさんのすがたは見えなかった。本当に邪魔にならないようにしてくれているらしい。プロってすごい。
道中、話はそこそこ弾んでいた。学校のこととか、最近近くにできた喫茶店のこと。クラスメイトの恋愛事情に至るまで、興味深く聞くことができた。
潮目が変わったのは、誰かの発言だった。
「でもさ、王子も災難だよね。隣の席が綾芽なんてさ」
「ほんとそれ。アタシだったら耐えらんないし」
「どういうこと?」
「どういうこと、って、ねえ?」
くすくすと笑いあう女子たち。見覚えのあるその意地の悪い笑みに、背筋が冷たくなる。
「これだけクラスメイトがいるのに隣がアレだと、損した気分になるでしょ」
「ねー。綾芽は王子の隣でいい思いしてるかもしれないけどさー。王子はかわいそうだよねって話してるんだよ。どうしても視界にあのブスが入っちゃうもん」
「早めに席替えしてもらえるように先生に頼もうかな。あ、クラス全員の署名集めるのとかどう? だって王子が困ってんだし!」
どこか冗談めかして笑うみんなの姿が、前の学校のクラスメイトとダブる。
廊下の曲がり角。教室の窓際。下校途中の通学路。
いろんなところで僕は笑いものにされていた。それを耳にした。口調が陰キャそのものでキモいと笑われたなら、普段から意識してそれを改めた。容姿が悪けりゃ頭も悪いと馬鹿にされたなら、勉強を頑張った。それでも、僕は馬鹿にされた。「あの顔はもはやバケモンだよ」。
言い返す度胸もなかった僕は、誰もいないところで毒づいた。
「人のことけなしてそんなに楽しいのかよ」
「え?」
川上さんたち三人が僕を見た。
マズイ。思わず口に出してしまっていたみたいだ。幸い、なんと言ったのかまでは聞き取れなかったらしい。「なになに? やっぱ署名活動しちゃう?」なんて、イベントを企画するような口ぶりをしている。
僕は……。
「あんまり、そういうの好きじゃないかなあ」
「あ、やっぱりそこまではやり過ぎかな?」
「そうじゃなくって、人のことを悪し様に言うの、好きじゃないんだ。僕は綾芽さんが隣で損したなんて思ったことないよ。ブスだと思ったこともない。そういうの、やめてくれないかな」
この場の空気に迎合するか、それとも声を上げるか。
どちらの選択肢もあったけれど、僕にしかできないことは、後者だけだった。いじめられる側だった僕が、いじめる側に迎合してしまえば、クラス内に彼女の味方はいよいよいなくなる。いじめに拍車がかかることさえあるはずだ。でも、そんなの望んでない。
綾芽さんには、笑っていてほしい。その方が絶対にかわいいからだ。
「あー……」
こんなことを言ってしまえば、もちろん、楽しい雰囲気はぶち壊しだ。気まずそうに顔を見合わせる川上さんたち。僕がどれだけ空気の読めないことをしでかしたか、それはわかってる。総スカンで明日から僕が標的にされたって仕方のないくらいだ。それでも、僕はこうすることが正しいことだったと、そう信じている。
「ごめんね、こんなこと言って。でもさ、せっかくクラスメイトになったからには、みんなと仲良くいたいんだ」
優等生すぎる僕の答えに、とりわけ川上さんはシラケた態度を隠さずにいる。直接的に彼女が綾芽さんをイジメている現場を見たわけではないけれど、よく思っていないのはその表情で十分にわかった。
「……だよねー! 冗談だよー! 王子の隣が羨ましいなってさ! それだけのこと!」
「そうそう! ほんとそれだけ!」
取り繕って場を取り持とうとしてくれる優しさに救われる。その優しさを、少しでも綾芽さんにも分けてくれてもいいのに。そんなことを言いたくなっても、さすがに自重する。
「ね、華もそうだよね?」
振られた川上さんは、「まあ、そうだね」と気のない返事をして、踵を返した。
「ごめん、やっぱ今日私パスする。急用思い出したから。じゃあまた明日」
僕らの答えを待たずにさっさと歩きだしてしまう。僕はそれを呼び止められない。
女子二人は、僕と川上さんを交互に見ながら、どちらを取るかしばらく悩んでいた。
「じゃあ……今日はやめにしとこっか。また次回、ってことで!」
「え、なんで? このまま三人で行けば、むぐっ」
「いいから! ……王子、それじゃまた明日ね! リベンジ、絶対誘うから!」
「うん、本当にごめんね」
口を塞がれながら連れていかれる者と連れていく者、二つの人影を見送る。
とにかく、僕は一人になった。帰ろう。明日からはめっちゃ空気読めないヤツというレッテルが貼られてること請け合いだ。覚悟して登校しなきゃな。
学校への道を戻る途中で、坂島さんとリカさんが姿を現した。
「予定変更スか? 帰ります?」
「あ、はい。女子が一人、急用を思い出したとかで解散になりました」
「そうか。じゃあ駐車場まで戻ろう」
「あの、ところでその、小脇に抱えているのは……」
リカさんの片腕には、なぜか沖串さんが抱えられていた。抵抗する様子もなく、ぬいぐるみみたいに大人しい。もしかして本当にぬいぐるみ? と顔を覗き込むと、目が合う。黒目がちな瞳は人形チックだけど、ちゃんと人間だ。
「あ、これスか? 義也くんをストーキングしてるみたいだったのでさっき捕まえたんスよ。警察に突き出しますから、ご安心を」
「絵凜、前科者になる!? ご、ご勘弁を!」
「あの、下ろしてあげてください、一応知り合いなんです」
「知り合いがストーカーになる事例なんてごまんとあるが、本当に大丈夫か?」
「……おそらく」
解放されて自立した沖串さんは、立ち去る様子もなく、僕を見ている。なにか話したいことでもあるのかな。渋る坂島さんとリカさんに頼み込んで、少しだけ外してもらう。二人きりになると、沖串さんは口を開いた。
「さっきの、どういうつもり?」
「さっきのって?」
「瑠奈をかばったこと。あれ、クラスで一番力の強い川上とかいう女子でしょ? どうしてあんなことしたの? 自分の立場が危うくなるかもしれないのに」
「聞いてたなら、聞いたとおりだよ。僕はみんな仲良くしたいんだ」
「綺麗ごとでしょ。美人はちやほやされて、ブスは虐げられる。そうして世界は回ってる。みんな仲良くなんてできない。絵凜は……絵凜たちは、今までそうして生きてきた。そう生きることを強制されてきたんだ」
「わかるよ。理不尽だよね」
「わかる?」
怒髪天を突く沖串さんは、拳を握りしめた。
「わかるなんて言わないでよ! 男子ってだけでちやほやされるくせに……今すぐ世界遺産認定されてレッドデータブックの保護対象に選ばれてもおかしくないくらいの顔面まで持ち合わせて生まれてきたアンタに、なにがわかるって言うの!」
どこからどう突っ込めばいいのかわからないな……。それに、僕が不細工でいじめられていたってことを、どう説明すべきかもわからない。きっと、信じてもくれないだろう。むしろ、理解してくれた片山くんの物分かりがよすぎるとも言える。
「大氏義也、アンタやっぱり適当なことばっかり言う! そうやって都合の悪いことは煙に巻いて、瑠奈が勘違いしている様子を高みの見物で楽しんでるんでしょ! クラスの中心人物に歯向かってまで、瑠奈を……私たちブスをイジるのがそんなに楽しい?」
それでも理解してほしい。僕はただ、本当に、みんな仲良くしたいだけなんだ。クラスで一丸になって学校行事を楽しみたい。年度末に、このクラスになれて良かった、離れても友達だよって、集合写真を撮ったりしたいだけなんだ。そのどちらも、僕には経験がないから。仲間外れにされ続けてきたから。
悩む。僕は悩む。悩み続ける。うーん……。
「一つだけ、言えることがあるとしたら、」
僕は悩みながら続ける。
「綾芽さんも沖串さんもブスじゃないってことは確かだね」
「はあ?」
「二人ともすごく魅力的だよ。そこだけは譲れないかな」
「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!」
沖串さんは遮二無二なって僕に歩み寄る。その瞳が濡れている。
「絵凜に期待させないでよ! 気があるふりをして騙そうとしないでよ! 期待を裏切られることなんか、もう、イヤだ! 嘘なら嘘って言って――ッ!」
僕の胸板を叩こうと振り上げた、沖串さんの小さな左手が中空で止まる。
沖串さんのすぐ後ろに、リカさんが立っていた。振り上げられた左手を、黒いグローブを着けた右手で掴んでいる。沖串さんを見る目が冷たい。
「盛り上がってるところ悪いスけど、さすがに護衛対象への危害は見過ごせないスね」
「さ、二人とも、もう帰ろうか。キミも、頭を冷やしたほうがいい」
「やめてよ! 絵凜はこの男の本性を暴かなきゃいけないんだ!」
坂島さんが僕と沖串さんとの間に壁を作るようにして誘導する。
僕は、沖串さんともっと話したい。僕らはきっと分かり合える。そのはずなんだ。
「放してよ!」
「ちょっ! あんまり暴れないでほしいんスけど!」
沖串さんの抵抗が予想以上に凄まじい。僕の知り合いということもあり、乱暴にするわけにもいかずリカさんが手をこまねいている。坂島さんがそこに応援に行く。それでも、沖串さんの抵抗は収まらない。
そして、いざこざが続くうち。
沖串さんは飛んだ。
「……え?」
断じて、特殊能力を持っているとか、美醜逆転の世界は重力まで反転しているとか、そういうことではない。ただ、女子三人がもみくちゃになって押し合いへし合いしている最中に、小柄な沖串さんが弾き飛ばされたのだ。そのさまはピンボールじみていた。
目が点になる沖串さん。無防備に宙を舞っている姿は、天界から舞い降りてくる天使だ。だけど悲しいかな、羽が生えていないので、このままだと上空二メートルから地面に叩きつけられるだけだ。
「沖串さんっ!」
駆けだした。リカさんと坂島さんは忽然と姿が消えた沖串さんのことを探している。その頭上で、天使は重力加速度gの後押しを受けて緩やかに放物線を描く。
落下予測地点は、すぐそこだ。
でも間一髪、間に合いそうもない。
沖串さんが目を瞑る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
足から滑り込む。僕の体はヒョロガリ故に骨ばっているけれど、アスファルトよりはよっぽど柔らかいはずだ。クッションになってくれ!
「うぐっ!」
確かな衝撃が腹部を襲って、息が詰まる。でも、予想してたほどじゃない。僕はお腹に落下してきた天使を抱えながら、アスファルトを滑る。太もものあたりが摩擦で熱い。でも、抱えたものは放さなかった。
「……あれ?」
胸の中の沖串さんが、戸惑いの声を上げる。きょろきょろして、辺りを確かめた。抱えられていることに気付く。誰に? 視線が、間近にある僕の顔で止まる。
「大丈夫?」
「大氏、義也……」沖串さんはうわ言のように呟いた。「なんで」
「なんでって、女の子の顔に傷を付けるわけにはいかないからさ」
「え――――」
天使の顔を傷物にしたら神罰が下りそうだ。
「それよりも、これ、お姫様抱っこ……にはならないよね? なるんだったら、ごめん。僕なんかが叶えちゃって」
沖串さんの肩とひざ裏に手をまわして、いわゆるお姫様抱っこの形で抱えることになっていた。イケメンにしてもらいたいことランキング第四位だかの、お姫様抱っこ。弁解させてもらえるなら、しようと思ってこうなったわけじゃないということかな。酌むべき事情があることを考慮して、僕の命を奪ることは止めてほしいなあ。
僕が沖串さんの甘い香りにもじもじしていると、沖串さんは震え始めた。
「きゅ」
「きゅ?」
「きゅうううううううううううううううううううううん♡」
沖串さんの瞳にハートが浮かぶ。……そんなはずはないんだけど、でも、そう見える。なぜだろう。それはもはや恋する乙女のように熱をもち、一心にこちらを見つめている。ガチ恋距離でこれだけかわいい子に見つめられると、僕も照れる。
「もう、絵凜、騙されてもいい……♡ ううん、むしろ騙されたい♡ だって、もう絵凜の心は囚われてしまったから♡ 巡り合えた絵凜の王子様に……♡」
「お、沖串さん……?」
「絵凜の王子様……♡ なんでも言って♡ あなたの声が聞きたいの♡」
「ええ……」
なんか怖いよ……。うまく受け止められたと思ったんだけど、やっぱり頭を打ってしまったのかもしれない。荒い鼻息が首元にかかる。こそばゆい。
「大丈夫か、義也くん!」
駆け寄ってくる坂島さんとリカさん。僕は太ももを擦る。
「少し擦りむいたくらいで、全然大丈夫です」
「なに!? リカ、近くの病院まで行くぞ。車回してこい!」
「了解!」
「あ、いや、僕は大丈夫なんです。ただ、沖串さんが頭を打ったかもしれないんです」
「王子♡ 王子♡」
「こんな風に、王子、ってうわ言のように呟いてばっかりで……」
「診よう。一応、医学には多少の心得があるんだ」
坂島さんが沖串さんの頭を触診する。こぶはないようだ。
それから、沖串さんにいくつかの質問をした。
「今、自分がなにをしていたか分かるか?」
「王子様に、危ないところを救ってもらいました♡」
「頭痛や吐き気は?」
「胸が苦しいんです♡ でも、なぜか全然イヤじゃない……♡」
「この指は何本に見える?」
「二本です、でも、絵凜の運命の人は、一人だけ♡」
「義也くん、これは……」
坂島さんが僕を振り返って、それから笑った。
「もう手遅れだな」
「ええ!?」
「キミも、罪作りな男だ……」
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