ーー似合わない復讐心ーー

 昨日という祭日がウソのように流される。村に盗賊の被害が起こったからだ。これまで安全に暮らしていたものを脅かす存在、盗賊。


「今日は・・・・・いや、今日からは、もう一度僕の鍛錬を再開するとしよう!」


 そよ風になびく服からも土を踏んだ感触からもあの頃の感覚のようなものが呼び覚まされていく。


「フ~~~、短い間だったけどありがとう、ビル。これからは僕の周りにいる大切な人のためにもっと強くなって盗賊を狩れるようになるよ」


 確実に仕留める・・・その執念だけがカシアを鍛え上げるのだった。墓のようなものを作り、そしてそこに居座ること1時間。


「そろそろ、家に帰ろうか、もうここにいても何も前には進まない」


 決心がついたカシアの顔は今までで一番本気の目をしていた。

 朝の日の出とともに森の頂上へと駆け上がる。それから往復し元の位置まで帰ってくる、ただその繰り返し。


「ッッッッッッタァ~~~~~、よし!後もうちょっとで頂上だ。今日は風が特に気持ちいい~~~!」


 もう何度、来たか分からないこの森に愛着のようなものが湧きそうになっていた。それに飽きるという考えは起きない。周りの木の実や水、短剣を使って特訓するための練習台それに・・・・・・・・・・魔術を使うとなったらこの場所でしか使えない。


「もし、だれかに魔術なんて使ってるのがバレたら面倒なことになるって本に書いてあったし・・・・・・・・もし母さんにでも見られたら・・・・・」


 身震いしながらも、上から見る村の景色はきれいだった。朝にこうやって一連の流れを繰り返すことで誰にもバレずに鍛錬ができる環境をカシアは作り上げた。昼からやることなんて一つ盗賊や魔術、地形についての情報を集めるため、日々図書館へと足を運んだ。


「あら、いらっしゃい。ここらの地形の本さがしておいたわよ、あそこの机の上にあるから、好きなように読んでちょうだい!」


 図書館の管理人に名前を覚えられるぐらい来ていたカシアはここもオアシスのような場所になって来たと常々思う。さすがに盗賊や近代魔術についての本を聞くにはリスクが高すぎるため、じり貧で探すことに。


「それにしてもなんでこんな硬い本読んでるの、キミみたいな年ごろに関心のありそうな本いっぱいあるのに・・・」


 管理人さんが近づいてくる。いつも通り、グッドサインで済ましてその場を去ろうとすると、肩を掴まれて耳元に顔がドアップで映る。


「教えて欲しいな~~私ここにいるだけで、結構暇なんだから、たまには話ぐらい聞いてよ~~~ボクちゃん」


 面倒な人に絡まれるのはイヤだが、この人に絡まれるのは悪い気はしない、だが・・・・・・・。


「セスティルさん、酒臭いですよ~~~~、話してください、昨日飲み過ぎたんですか?そんなんじゃここの管理なんて務まりませんよ~~~っていうか、早く話せ!」


 無理やりほどいて椅子に座らせて、そのままほっておくことに、しかしその手はセスティルにガッチリつかまれて中々離れない。


「なんて馬鹿力なんだこの人」

「ねえねえ、本なんで読んでないで、私とお話しましょ~~~~~」


「他の人とおしゃべりしてはどうですか、ここには幸いいろんな人がいますし」

「おじさんなんて、変な目で見てくるやつばっかだし~~~ヤダ!君はなんか純真さをまだ持って総なめしてるからいいの~~~」


 また再び抱き着かれ、息ができなくなりそうな矢先、もう1人の管理人がやってくる。


「お姉ちゃん、なんてことしてるの!この子メチャクチャ苦しそうじゃない。っていうか酒くさい、また男の人と飲み散らかしてきたの⁉」


 どうやらいろんな男といい感じになっては分かれてを繰り返してるみたいだ、僕には関係ないけど・・・・・。


「だって、昨日の彼いい人なんだって!これからやっていけるって思ってたら、多額の借金していたのよ、それを昨日飲んでるときにバラされたの、そんなの無理!」

「お姉さんは単に見る目がないだけじゃ・・・・・・・・・痛い、だから僕に八つ当たりするのはやめてください」

「ちょっと待ってて、すぐ戻ってくるから!」


 2人にしないでほしかったのに、今日はとんだ厄日だと思った矢先、セスティルの妹が何かを急いで持ってきて、僕に口や鼻を塞げというジェスチャーを送ってきた。


「なるほど、早くやってください」


 霧吹きのようなものを僕に掛けると、一瞬で後ろの拘束が解けた。


「それって睡眠薬ですか?熊とかに使う・・・」

「そう!お姉ちゃんがごめんね、また何かあったら言ってね、すぐ駆けつけるから!」


 そして、嵐のように奥の部屋へと去って行った。セスティルさんの新しい一面を知ったからもう帰ろうか、じゃない!


「そうだ本来の目的を忘れるところだった。え~~~と、本は、地形の本はどこにあるんだ?」


 よ~~~く見ると、フロントの端の方においてあるのを確認した。一昔前はこの下から見上げていたのに、もしかして・・・ここ1年で身長がフロントのデスクを見れるまでに伸びていたのを実感した瞬間だった。僕はどれくらい、どこまで成長できるんだ?考えてもその答えは出ず、再び資料を頭に叩き込んだ。


 ここら辺はもうだいたい知ってるものと思っていたが、他の通路とのつながりや休憩スポットなど、まだまだ自分の知らない要素がたくさん含まれていた。


「あいつらが根城にしていそうな場所は、この辺りか?いや、ここは周りに目立ちすぎる。近くに村があるものあってもうちょっと警戒するはずだ、そうじゃないと今回の騒動があってからもうとっくに捕まってるはず!」


 盗賊ヤンクイーターの手掛かりがないものの、こっちから様子を観察するのもリスクがデカすぎる。何かいい方法はないかと考えてはやめてを繰り返していると、向こうの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「やあ、少年!久しぶり、元気にしてた?」


 見るとそこには、マントを羽織った少女が立っていた。声と明るく元気な感じがそんなに遠くない記憶から呼び覚まされる。


「エルノワ!久しぶり・・・・・ここで何してるの」

「ここでちょっと調べものかな、最近冒険者になったばっかでさ~~~ここら辺魔物が出ないからさ~~~なにかいい穴場がないかな~~~って思ってたんだけど、そっちも調べもの?」


「はい、そうですね。エルノワさん冒険者になってたなんて聞いてませんよ、気負付けてくださいね、最近盗賊がこの村の近くに住み着いてるらしいですから」


 そう言ってから、エルノワが僕の方をじっと眺めていることに気付いた。


「背けっこう伸びたんじゃない?それに、全体的に何というかいい感じに鍛えられてるというか意外だったな~~~カシアって図書館大好きっ子ちゃんだと思ってたのに・・・」

「別にこれと言って何かを鍛えてるというわけでもありませんよ、ただの成長期です!」


「ウッソだ~~~、そんなの私は信じないよ、だって君の齢でそこまで仕上がっているのって、よっぽど何かしなきゃ無理だもん」


 エルノワとしゃべっていると楽しいというか毎日新鮮な気持ちでいられる。何というか僕はお姉さんと関りが多いようだ。その証拠に今日はいっぱい年上の女性と出会っている。でも今までの人とは違ってエルノワはすごく心が落ち着く。


「まあ、動き回ればいい感じに筋肉がついてきますよ。エルノワもけっこう魅力的な方だけどな~~」


 そういうと少し照れてからこう返してきた。


「後、10年経ったら考えてあげなくもないけど、その頃には私ここにはいないからね~~~どこかの街に行って冒険者としてお金稼ぎしなきゃ出し、カシアにそう言ってもらえるだけでうれしいよ、私」


 まだ、僕は6歳そんなことわかってはいるが、当然相手にはされない。まあ、当たり前か彼女とは半分近く違うのだから、それにしても。


「じゃあ、もう数年しかここにはいないんだね」

「そうなの弟たちと会えなくなるのは寂しいけど、仕方ないかな~~~~君はこれからどうするの?」


「僕はちょっと森に鍛錬にと・・・・・・・・・・・あっ!」


 言ってからしまったと気付いた、幸い彼女に漏らしてもあまりつながりはないから問題はないのだけれど・・・。


「やっぱり何かやってたんじゃないの、というか気負付けないとだめだよ、キミ一人で山なんてそれこそ盗賊にでもあったらおしまいだよ」

「おっしゃる通りです・・・・・・・でも、盗賊に合わないために地形の

 本を読んでたんだからきっと大丈夫だよ、じゃあまたどっかで」


 エルノワはヤレヤレという顔をしながら僕にこう言って去って行った。


「また、どっかで会えたら、その時はよろしくね!冒険者として同じ村のよしみとして・・・・・・・・・・じゃあ!」

 

 何度も鍛錬を切り返していくうちにみるみる日は経って行き、ある日のこと、村にヤンクイーターの情報が出回る。出所は分からないが、いろんな場所で噂されているから間違いない。村を出て当りを散策するが盗賊の形跡は何もない。


「やっぱり、素早く動くのが得意らしいな、盗賊ってのは・・・」


 その時一瞬だが、金属音のような、風を切る音が目の前の方角から聞こえてくる。


「ここいらは何とも言えねえな、狩り取るにやぁ、ちょっとスリルが足んねえわ~~」


「スリル・・・お前いつからそんなもん求めるようになったんだよ、スリルなら今こうして村に見学してやろうってのも、十分スリルだろうが!」


「おまえら、静かにしろ・・・・・・・・周りの住人共がいろいろと感づいてやがる・・・・・・・・・・ここには幸い冒険者ギルドってのはねえらしいが、腕利きの傭兵はたんまりいるらしいから、万一そいつらと鉢合わせだけはごめんだ、気を付けろよ!」


「でもそれって、そんなに脅威ですかね、俺たちなら行けるでしょ、傭兵って言ったってごっこ遊びのなんちゃって兵なんだから」


「万が一だ、それに数集まられちゃ、こっちも逃げるのが面倒だオレらは


 12人で移動してるってのが、他のやつにバレちゃいないが、そんなもの時間の問題で他のやつとやりあってちゃ、時期バレる」


「それこそ、バラしちゃダメでしょ、兄貴」

「取りあえずこのまま村まで足止めんな分かったか、お前ら!」


 掛け声とともに一瞬のうちに去って行った。今のが盗賊、一瞬だが村に行くかなんか知らないけど、聞こえてきた気がする。また、揉め事を起こす気か?止めに行かなきゃ、でもどうやって?

 カシアが足を動かそうにも、足が上がらない。この瞬間初めて恐怖心というものを掘り起こられた感じがしたのであった。


「危なかった~~~~~って何してるんだ、ヤンクイーターの連中は、もう村についてるかもしれないのに!」


 体は震えを覚えて一向に収まる気配がない。


「やっとの思いここまで鍛錬してきたのにこんなもんなのか僕の身体は・・・・・僕の覚悟は!」


 以前の事を思い出す。風を読んで、土の感触を味わって、相手の位置を把握し、自分の最善の攻撃や防御を繰り出す。それ以外は何にも考えなくていい。そう、それ以外は考えても仕方のないことなのだから・・・。


「・・・・・・・・・行ける、もう時間があんまりないかもしれないけど、やつらの情報を叩き込む、戦闘はそれからだ!」


 少し、前に進んだカシアだったが、村に着いても時すでに遅しとなっていてもおかしくはない。結果は・・・・・・・・・・。


「よかった、まだ何にも荒らされた形跡がない・・・というか、あいつらはどこ行ったんだ?」


 辺りを見回して様子を見るも盗賊の影は何も見えてもない。だが、かすかに村の外側から何か声が聞こえる恐る恐る家の隙間に隠れながら近づくと、マントとそれから、声・・・・・・・・・・聞き覚えのある声が、僕の抑制しようとしていた何かを壊そうとしてくる。


「エルノワ?なんでこんなところに・・・・・もしかして確か冒険者になったから、村の周辺を行き来しているのか?」


 そうじゃない、エルノワは彼らの今目の前にいるんだぞ、何とかしないと!


「あんたたち、見かけない顔だね・・・・・・・・・・もしかして、旅人さん?ってわけでもなさそうね」


 ナイフをチラつかせながら、盗賊たちはエルノワへと段々近づいてゆく。


「最近噂になってる盗賊なんだったら、容赦しないよ!」


 ヤンクイーターたちはニヤニヤと笑いながらこう言ってきた。


「だとよ・・・・・どうするよ、兄貴?」

「こんな女一匹にかまけている余裕はねえ・・・・・・と言いたいところ

 だが、こんな小鹿みたいに足を震わせられちゃあ、狩ってくださいって頼んでるようなもんだ!ちょうど憂さ晴らしも足りてなかったんで、ちっと

 相手してくれやぁ、お嬢さんよう」


「ック、ふざけるな!やるならさっさとかかってこい!」


 両方同時に武器を構えたところで、数人の足音が増えたように感じた・・・・・・・・・・・気のせいではないようだ。


「遅れてすまない、こいつらが噂の盗賊か!」

「冒険者の君下がっていてくれた前、こいつらは俺らで何とかするからさ~~~いっちょ、殴りあいといこうか」


 喧嘩屋が5,6人駆けつけ安堵するも、その期待はすぐに打ち砕かれる。盗賊と言えど、ただの宝石泥棒ではない・・・・・これまで実戦を重ねてきた強者の集まりだということ彼らは知らない。


「おりゃぁぁぁぁ~~~、ガフッ、くっそう、意外と強え!お前ら、もっと人呼んで来い!」


 後ろを振り向くが、すでに辺りは血まみれの屍で埋まっていた。


「おい、おめえ~~~よそ見すんじゃねえぞ、もう引けねえなぁ!」


 次の瞬間、切り込まれた切り傷はとても深くくっきりとエルノワには見えたことだろう。何もしない間に辺り一面は真っ赤に染まっていった。


「何よ・・・・・・・・・・これ・・・・・・・・・こんなの私でも・・・・・・・・・ゔっっっ!」


 横から蹴り飛ばされた挙句、反撃する間もなく拘束され、ついにはヤンクイーターの一味に気絶させられた。また、カシアも何もできずにその場

 を見守ることしかできない。


「喧嘩屋というらしいが、実際のほどはただの一般兵並みだな!」

「引き上げるぞ、後が無くなれば、また以前のように住処を移動させるだけだ!」

「兄貴に続け、今日はこの女が収穫だ・・・・・・・・・精々、長持ちしてくれよ」


 そう言って、エルノワは連れていかれ、ヤンクイーターの荒らした後だけが残っていく。完全に立ち去ったのを見て、隙間から顔を出すと、見るも絶えない肉片や血が散乱していた。


「すごい匂いだ早くここを離れないと・・・・・・・・・変に勘違いされても面倒くさい。それより、エルノワが!」


 ヤンクイーターの想像以上の強さに足取りが自然と重くなる。これが勝てると踏んでいたものが勝てないと知らされた恐怖の実態なのか?だが・・・・・・・・・・・・。


「やるしかない、目の前で連れていかれたエルノワを見捨てるわけにはいかない!僕は何もまだなし飛べていないんだ、ただここで見ていただけだった・・・・・・・・・・どうやって・・・どうやっても救う方法がないのなら、それは僕の人生の汚点になる。」


 大事な人を見捨てるという選択肢はカシアにはない。数少ない知り合いを大事にすることに精一杯になってた。


「堂々と正面から突っ込んでもやられるだけ、だったらいっその事こっちにおびき出すか~~~~~あぁ、ダメだ。そんなことしても、あの喧嘩屋たちは一瞬にして遣られていったじゃないか!やっぱ、どうやってもあいつらに勝つ方法はないのか⁉」


 ひたすらに悩んだ末にある結論にたどり着く。それは、相手の想定外に奇襲を仕掛けること、要は気付かれずに相手を戦闘不能にすることだった。だけど、これには一つ欠点がある。それは、盗賊だという事だ。そもそもいつ寝静まっているか分からない。

 それに加えてやつらは自分の住処を守るために見張りは絶対に置いているはず、だから安直な作戦じゃ、まず何人かは仕留め損ねてしまい、数の有利でやられてしまう。

 だから、観察してと思ったが、そもそもエルノワが連れていかれる時点で住処を離れるなんてことをするだろうか?絶対にそんなことをしないだろうと踏んでもよさそうだ。


 あの声はあの言い方は・・・本当に自分の欲を晴らすためだけのそんな様子だった。だとすれば、見張りのようなものもエルノワに夢中になるはず、だとすれば日は早い方がいい、エルノワが確実に生きているだろうと言えるタイミングに行かなくちゃならない。


「明日の夜に決行だ、モノは・・・・・・・・・・・急ぎで集めればいい、取りあえず、あいつらの住処を見つけて様子見しなくちゃ、何もわからない!」


 実際に住処という場所にしては小さい・・・いや、小さすぎると言ってもおかしくないぐらいのスペースだった。だが、奥の方には小屋くらいのサイズの建物が立っている。

 ここも、そう村から遠くはない所だ。決して安全と言える状況じゃない、でもどうしてもエルノワやヤンクイーターたちの集団の声が聞こえない。辺りにはいないようだが・・・・・・・・・・次の瞬間暴れる音とそれを無理くり引きずるような音が聞こえる。


「お前はこっちだ、兄貴のごちそうになるんだ~~~~~オレの時まで持っといてくれよ」

「いや!はなして・・・あんなけだものとはイヤ!」


 小屋の方に引きずられていくエルノワとそれを囲むヤンクイーターたち、ふと一味の声が近くから聞こえ、息をひそめて相手がしゃべりだすのを待つ。


「あいつ、どうなるんだろうな~~~」

「明日の夜に兄貴のおもちゃにされるってよ、どうせまた、気味の悪い状態になってあの兄貴の部屋から出てくるんだろうよ」


「それはそれで、面白そうだな、今回の子は結構若かったし、意外と耐えれるんじゃねえか?」

「そんなの関係ねえよ・・・・・ってか、お前あんな光景を受け入れて楽しんじまったら、ろくな死に方しねえぞ!」


「いいんだよ、もう死んだようなもんだろ、オレらの人生・・・」


 ざっとそんな感じの会話が、耳に入ってくる。というより、明日の夜で正解だった。逆にそのチャンスを逃せば、盗賊は倒せるかもしれないが、もう今までのエルノワは戻ってこないだろう・・・・・・・・・・・・・・・・・明日の一発勝負だ!




 リュックに必要なものを揃えて、今夜使うものを集めに再び森へ、気付けば日が変わっていた。


「まだ、何か足りてない」


 集めたものを見ては、これでは不十分だと何か必要なものがないかじっくり考えることに・・・。最近は用意が早くなった方だが、それでも今夜の決行までには、まだ準備が足りない。


「これまでの知識をかき集めろ、カシア。お前ならできる」


 自分に言い聞かせながら、もう一度必要なモノと夜の決行でのシュミレーションを行う。頭の中ではこうやれば、相手が引いて、その隙をついて彼女を救出できるはずだと、うまく行くのだが、実際に動くとなると失敗は許されない。だからこそ、緊張しないように自分を落ち着かせている最中なのだ。


 段々と日が落ちていき、辺りはいつも通りの静けさとなる。


「よし、作戦開始だ!」


 家から森へ猛スピードで駆け上がった後、その後は静かに周りを確認しつつ、頭の中に叩き込んだルートでヤンクイーターの住処まで行くことに。


「騒がしい・・・・・って感じでも、無いようだな」


 段々、ヤンクイーターの住処と思われる場所に近づいているが、音沙汰がない。相手の居場所が、わかっているだけでこっちからすると有利だ。というか、それしか隙をついて有利を生み出す方法がない。 


「だいたいここでいいだろう、僕の位置からだと相手に見られる心配はないから・・・・・大丈夫なはずだ」


 ここでリュックの中を確認するちゃんと例のモノは入っているのか?僕が用意してきたものの中に、武器などの体術戦闘の用具はほとんど入っていない。あるのは、外せば終わりの一か八かの手作り仕掛けとあの店でもらった狩猟ナイフだ。


「まだ、何も起こってはいない感じだな~~~これ本当に合ってるのか?」


 今になってあの情報が正しいのかは分からなくなり、不安に駆られている直後にヤンクイーターと思われる足音が聞こえてくる。


「見に行きたくて出ていったのに、何で止めようとすんだよ!」

「バカ、お前あの人に見つかっても知らね~ぞ、だいたいなんでお前に振り回されなきゃならんのだ」


「それは、あの娘の状態を見に行くためだろ?あ~~~マジでいいな~~見に行きて~な~~~こんな機会滅多に降ってこないんだぜ!一緒に行こうや!」

「オレはお断りだ、行きたきゃ勝手に見てこい、バレないように精々頑張れ!」


 そして、2人の距離は段々と離れていき、大きな小屋にエルノワがいるとされるとこまで、もう気トリガ恐る恐る近づいていくと・・・・・・。


「ダレだ⁉こっそり見に来やがって、ここの掟を忘れやがったのか!」


 2人がいざこざを起こしているあいだに周りのテントの入り口に仕掛けを設置していく。急ぎでやったため、誰も気づかれずに仕掛けが置けたが、それ以外のあの兄貴と呼ばれているヤツのところにはまだ、仕掛けが置けていない。それもそのはずで、もしエルノワと一緒に出てきたら間違いなく巻き添えを食らうからだ。


「お前、中に来い!オレの楽しみを邪魔した罰だ‼」


 何か揉め事が起きているのかと周りの奴らがテントから出すと・・・・・・・・・・・。


「ゔうぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 辺り一帯に叫び声がサイレンのように響く・・・どうやら仕掛けは成功したようだ!


「なんだ、これは!お前早く水持ってこい!」

「あ、兄貴、そんなのもお手遅れだって!」


 小屋の周りは残り火が静まっていく、一瞬の出来事で唖然としている2人も状況を把握し始めた。一体何が起こったのか・・・・・?

 ・・・・・・・・・・それは1日前の出来事だった。


「どうしても、この部分がうまく行かない!どうやったら簡単に火を付けられるんだ?」


 火を付ける道具で完全に行き詰っていたところ、ふと本で読んだあるモノが脳内レーダーに引っ掛かる。


「・・・と言ってもこの森にあるのかは別だよな~~~早速探してみるか!」


 辺りを探し回って2,3時間が経つのだが、一向に見当たらない。


「もう少し遠くに行ってもまだ時間が~~~~~ある、よし、行こう!」


 訓練に使っていた近くの森を離れ、それがありそうな乾燥していて、尚且つ日当たりの強い場所に行くことに。時間と共に体力が奪われていき、諦めかけたその時、全く特徴もない木の周辺にそれに似た光った何かを見つける。


「これだ、でも何でこんなところに?」


 底に落ちていたものは・・・・・・・・・・・イグニション・シード。その種はある時期になると自然発火して、自分以外の植物を住まわせないようにし、自分だけがその場の養分を取り入れることができると言ったせこい樹木なのである。


 だがどうやってイグニション・シードをヤンクイーターの住処まで運んだのか?いつ発火するか分からない危険物普通に扱うと言ったことは無理だ。それは・・・・・・・・・水だ。その種は湿っている状態では発火しない。

 その代わり、再び乾燥しても自然発火する時にはとてつもなく弱まってしまう。

 だから、その種を温めるか強い摩擦を与えるかでしか発火しなくなる。結局は自分でどうにかしなきゃいけないと思ったが、この強い摩擦はそれほど思っていたほど、強くない。

 実際にやってみてわかったのが、成人男性が種を踏みつけるぐらいでその種は発火する。彼らが悲鳴を上げる数分前、爆薬を巻いて、その中に種をそろ~っと置く。テントから出てきたヤンクイーター共は自分で爆弾を起動して自滅した事となった。

 それがついさっきの事、そして今度は・・・。


「今だ、クリャァッ!」


 森の中からボールのような物体が飛んできてそれに反応できたのは兄貴と呼ばれているやつだけだ。もう1人がそれをナイフで真っ二つにするも、その中身が見えた瞬間にはもう手遅れになる。


「なんだこれ!ウグッ!」


 たちまち爆発した衝撃で小屋の中に吹っ飛んで行った。


「おい、見えてるぞ、小僧!お前だな今やったのは~~~はっきり、投げるのが見えてたんだよこっちは!」


 彼の目を見ると目が真っ赤になってるのが良く見える、いわゆるハイ状態だ。


「この女が、大事か・・・・・だが、もう手遅れだ!お前の作戦は失敗したんだよ!」


 相手が揺さぶりをかけてきているのは分かるが、果たしてそれが嘘か本当かは分からない。今は動かない方が吉だと自分に言い聞かせる。だが、相手もそれにしびれを切らして次の行動に出る。


「なんなら、そいつの首を持ってきてやるよ、覚悟して見るんだな、結構そそられる、ゾッッッ!」


 彼がいきなり振り返って、槍を僕の方角へと飛ばしてくる。狙いは僕のギリギリを通過して、奥の気にぶっ刺さる。それと同時に!


「フッ、お前と俺の勝負だ!この村に手を出しといてただじゃ置かない!」

「貴様も覚悟しておけ!仲間を手にかけたんだ、楽しんで後がなくなるまで刻んでやるよ!」


 痛みなど、気にしている暇がないぐらいに相手の鋭い攻撃が飛んでくる。


「避けんなよ、もっとオレに痛みを教えてみろよ!刺し合おうぜ!」


 最初の位置べきを食らってからうまく相手の内側に入れず、ただ一方的にやられる。


「お前も何人も人を殺してきたんだろ~~~もういいじゃないか、そんなこと終わらせたって!」

「まだ、足りね~~~んだよ、オレにとっては切ることが生きがいよ、それ以外どうでもいい!」


 カシアが仕掛けて足元を狙おうとしたが、すかさず交わされて腹に蹴りを入れられる。


「クッ!あと・・・・・・どれぐらい・・・・・もつか?ダメだ~~~力が入ら、ない!」


 向こう側もそれを読んで一気に詰めてくる。下からダガ―ナイフを振り上げると同時に交わして足先に視線をやる。


「さっきと同じことはもうわかってんだよ、また吹っ飛べ!ン⁉」


 足先を見たが狙いは・・・・・・・もっと上へ!けった足を利用してすかさず、踏み台にする。そして後ろに回った瞬間にノールックで首元へ!!!


「どうだ・・・・・・・・⁉」

「ガキよくやった、オヴェッ・・・・・・ったく、今のはいい一撃だったな~~~~~」


 倒れこんだ姿を確認して警戒するが、起き上がる気配はない。そして、ヤンクイーターの全滅を目にしてようやく、安堵することに・・・・・はならない。彼らをこのままにはできない、他の連中が見たら変な疑問が生まれる。取りあえず、どこかに隠さなくては・・・?そのとき、向こう側から唸り声のようなものが聞こえる。


「まさか、人が焦げた臭いにつられて獣が寄って来たのか?マズい、エルノワを助けてここから早く、離れなきゃ!」


 重たい痛い足を上げて、小屋の中へ。


「いた!エルノワ、大丈夫か?」


 状態はそれほど、悪くはなく。顔に切り傷が2,3か所あるぐらいだった。


「意識はない・・・・・・・ちょっと、荒っぽいけどこれでいいか!」


 エルノワを椅子に座らせ、自分の身体と椅子とエルノワをロープで固定する。かなり動きにくくはあるが仕方ない。


「やばい、音が近づいてきている早くここを離れなくちゃ!」


 無理やりにでも、足を動かして森の中へダイブする。岩陰からヤンクイーターの住処を見ると、やはり銀色のオオカミが辺りを見回っている。


「もう少し、珍しいから見ていたいけど食べてる姿見るのはちょっとだし、自分も喰われるかもしれないから、あと数キロは離れようかな?」


 恐る恐るその場を去って、暗闇の中をまっすぐ進んでいく。人を遣ったことなど、焦りで忘れていたが、村の近くまで行くと木の陰でばったり動けなくなってしまった。

 とっさに逃げたが、あれはこの地の主のようなものだったのか?

 そして、やったことよりも別の感情が強く自分の心に中にあった。


「ダメだ、本当に力が入らない・・・・・・・・・・ビル、どうだった、僕の戦い方?何とかあいつらを倒せたよ!」


 体に傷を残したまま、カシアはぐったりと倒れてしまった。

 朝になって、目が覚めると横にいたはずのエルノワが居なくなっていた。


「あれ、エルノワ?どこ行ったんだろう?」


 結局、大丈夫なような怪我だったが、もしかすると心理的にひどい状況

 で家に帰って行ったんじゃないのか?


「カシア、起きてる?」


 木の裏からひょこっと顔を出して、僕の様子をうかがってきた。目の下は腫れぼっていて、泣いていたのが分かる。


「ごめんね・・・・・・・・・・・・・それからありがとう、私を助けてくれて!」


 取りあえず、彼女は元気そうで自分の中でも一安心だった。


「年下に助けられて、全く冒険者失格ねってどうしたのその傷⁉」


 目を見開いて僕の方から肘の辺りを眺める。昨日初発に大きく貰った刺し傷だ。


「すぐに洗わないと、このままじゃ死んじゃう!」


 そんな、大げさだと言おうとしたが、すでにエルノワは向こうに行って水を汲んできて戻ってきた。


「すう~~~~~、イタタタ!」


 腕に貰った一撃は後になってずっしり響いてくる。


「ごめんね、でも我慢して、もうすぐで終わるから」

 その瞬間、そよ風のような優しい感覚が体の中に流れ込んでくる。

「それって、魔術?もう何か覚えたの?」


 見るからに魔術っぽいそれは怪我した場所をどんどんと元に戻していく。


「私の治癒魔術そんなに万能じゃないから、傷口を治すことぐらいしかできないの」


 だが、魔術が使えている時点で大したものだと、カシアは感心していた。


「そう言えば、私が起きた時、なんか寝言言っていたわよ、確か・・・・・・・・・ビルって、ビルって誰、大事な人?」


 思えば、あれから僕はみんなを守ろうとしていたんじゃなく、ビルの敵討ちをしていたんじゃないかと、振り返って確信する。ビルは師匠というよりいい話し相手だった、あの時僕からすれば、とっても大事な人を殺されて本当は寂しさの中に怒りのようなものが混じっていたのかもしてない。

 それが今解放された気持ちでビルも喜ばしいだろうか、それとも僕が盗賊相手に一人で攻め込んで怒っているだろうか?答えは聞けないからわからないが・・・・・・・・ひとまず、これだけは言える。"ぼくはまだ生きていると。"


「あれ何で泣いてるんだ・・・・・・・・僕はどうしてこんなに悲しいんだ?」

「大丈夫だよ、私が一緒にいるから、カシアが大丈夫になるまで一緒にいるから」


 優しい声と共に感情があふれ出ていき、数分後やっとすべてを吐き出すことができた。


「そう言えば、や、ヤンクイーターの奴らどうなったの⁉」


 彼女からしたら思い出したくもないことだが、気になるなら話すしかない。


「全員、やられたよ。森の獣に目を付けられて一人残らず食われたんだ・・・」


 敢えて自分が倒したんだとは言わず、ここは獣の手柄にしておく、じゃ

 ないと自分が恐れられるかもしれないからだ。


「じゃあ、もういないんだね?心配する必要はないんだね、カシア?」


 嵐は去った。その後の被害は最小限で済んだものの、死者が数人出て、村の方でしっかりと墓地に埋められた。

 次の日の朝はエルノワはどこか別の街に行くと言っていたので、村から少し外れたところで、お別れをしてそのまま見送ることにした。


「じゃあ、またどこかで合う事があったらその時は!」

「うん、その時は私にお礼させて、少しの間だったけど、会えてよかったよ、カシア!じゃあ、またね!」


 そのまま山の向こう側に行くまでその光景をしっかり目に焼き付けた。もう一生会えなくなるわけじゃない、また会えたらその時は・・・。

 家に帰る途中でふと思い出す、べスクスの店に寄ろうとしていたことを。


「久しぶり、べスクスさん」


 なんて言えばわからないが、本当のことをそのまま話すとした。全て話し終わった後、彼の顔は僕に見せたことのない表情に変わる。


「お前が・・・・・・・ヤンクイーターを・・・・・・・・・やったって・・・・・はぁ~~~何してるんだ、カシア!」


 怒りのあまり発した声が窓ガラスを反響させる。


「あれほど危険と言ったのに、なんでいう事を聞かなかった⁉お前が死んでいたかもしれないんだぞ!」

「わかってるよ、でも誰かがやらなきゃいけなかったんだ、誰かが・・・・」


「その誰かはお前じゃなくてもいいだろ、喧嘩屋に頼めばいい、冒険者に依頼すればいい・・・・・・・・・お前まさか、ビルの敵討ちだとか思って、やったんじゃないだろうな?」

「違う・・・・・・・いや、違わないよ。でも、他に当てがなかったんだ、ランクの高い冒険者はここらにはそういないし、目の前で喧嘩屋たちがバッサリ切り捨てられていったんだ!もう、これ以上犠牲を出したくなかったんだ!」


「だからってまだ6つのお前が行ってもだろうが、倒せたのはたまたまだとしてその後どうしたんだ、死体は?」

「獣がちょうど通りかかってそいつらを食っていったんだ、だから死体は残っていないと思う。そもそもマル焦げだったし・・・」


 べスクスの顔は怒っているというよりも悲しんでいるような本当に心配している人間の顔に変わっていた。


「ならよかった・・・・・・・・じゃない、もしお前が死んでいたら、ビルの奴の二の舞になっちまう・・・・それだけは避けたかったんだ、本当に生きててよかったよ、ズズズウウッッッ、ああ、ホントにもうこんなことはしないでもらいたい、ここにある間はな!」

「それってどういう?」


 ベルクスが、涙を拭いてから真剣な表情で僕の方をじっと見てくる。


「お前は、活発すぎるがゆえに危険に突っ込むことも今回の事でよくわかった、だったらオレの店で働け!モノづくりも教えてやるだから、その活力をオレの店で使え、これは命令だ、わかったな⁉って何うれしそうにしてんだ!」

「だって、べスクスさんところで働けるんでしょ、だったら僕、一生懸命頑張るよ!」


「だったら、明日の朝からだ!みっちり教え込んでやるから覚悟し解け、、行っとくが労働報酬は出ないからな!」

「ああ、もちろんだよ、ありがとう、僕に目的を与えてくれて!」


 それから、カシアはべスクスの店でみっちり、教え込まれた。朝から見たことないものばかりで心が躍ってしまっていたが、すぐにモードを切り替える。


「まず、この装備や小物道具の使い方を教えるから覚えろ!それが出来たら次に店での客とモノの相性の見分け方を教えてやるいいな?」

「はい、べスクスさん」


「違う!これからは店主だ!わかったか?」

「了解!店主‼」


 早速、店の奥にある品物を分けて見ていく。どれも初めて見るようなものばかりで最初は覚えるのに苦労したが、どれも分類分けしていくとすぐに用具と名前の一致ができ、スムーズに進んでいく。実際には使えないが、どういった用途で使うのかべスクスが毎回教えてくれる。店にはそれほど客はいないもののそこまで暇というわけではない。客がいないときはモノづくりができるように僕専用の作業台が置かれてあった。


「今日からそれが、カシアの作業スペースだ。好きに使えと言いたいところだが、時々モノが入ってこなくなるからそん時は手伝え!やり方はこっちが作る時に見て覚えろ!」

「そんな無茶な~~~」


「お前の齢で爆薬造れんなら他のも作って見せろ、じゃないと先には進めないぞ!」


 探求心が僕を動かす。ぱっといい案を思いついた時はべスクスの店に行って作業台を借り、1日中作り続けるときもあった・・・。


「いらっしゃい、お探しの防具などありましたら、いつでも言ってください!もしなければ、僕が1から作りますので!」


 ちょうどカレコレ2ヶ月が経った。べスクスの店にあるもの小道具類はだいたい作れるようになっていた。


「カシア、ちょっといいか・・・・・・これ、やっといてもらいたいんだが、行けるか?」

「はい、大丈夫です!終わったらすぐ戻りますね!」


「すまない、カシア・・・・・・・・・・・お前、だいぶ手先が器用になったんじゃないか?もう、ある程度のもん作れるだろ、この間だって、見たことないもん作っててビックリしたぞ!」


 カシアはべスクスが思ったよりも優秀な人材だったことに度々驚かされている。作れば、次の用具に新しいものが付与されている。べスクスの無茶ぶりに耐えながら過ごしていくうちに体が慣れ、信じられないぐらいの生産スピードで作っていたぐらいだから、もうべスクスのやることは店の管理ぐらいになっていた。


「今日はもう休んでいいぞ、後は俺がやっておくから・・・・・・お前は自分をいたわれ、わかったな!」

「じゃあ、遠慮なく、また明日ね、店主!」


「べスクスでいいよ、お前はよくやってくれてるよ、本当に助かった」


 家に帰ると家族全員揃っていた。父さんは何かと最近忙しそうにしていたが、今日はそんな様子はなく、どちらかと言えばゆったりくつろいでいた。


「あ~~~、戻ったのか、カシア!」

「父さん、今日もいい1日でしたよ」


「まだ、昼だぞ。それよりもこっちに座ったらどうだ」


 何か僕に大事な相談事あるいは報告があるのだろうが、だいたい見当はついている。


「ここ数日でいろいろ考えたんだが、お前が金稼ぎを行えるように、あっちに手続きに行ってたんだが、ついに・・・・・お前のお世話になる所が決まった、すまないが私のところですべてをやるというのは到底無理な話だ、そこだけは分かっていてくれ!」


 相当な準備や人をたどって行ったのが表情から分かる。


「ここで何もかもなんて思ってないよ、それよりも僕が、行くところって王都なの?」

「いや、違う。私が前に商売ロードとして多くの商人もよく使っていたテスタ・ロコだよ」


 もっと昔に聞いたことのある地名だ。何だったか忘れたが、母さんが何か頼んでいたような・・・・・・・?


「そこで、弟子入りのような形だがお前を迎えてくれるらしい最初は歳の事もあって、戸惑ったそうだがいろいろ話し合ったうえで承諾してくれた」

「いつそこに行くことになるの?」


「そのことになるんだが・・・・・・・・少し寂しくなるな・・・」

 ちょっと、変な間を開けられて少し気持ち悪いようなそんな感覚に襲われたが、その感覚は外れていなかった。

「・・・・・・・・・・・・明後日だ、正式には4日後にそこに行けばいいのだが、テスタ・ロコに行くまで馬車で2日はかかる。だからここを出るのは明後日になるから、何かやり忘れたことがあるなら今のうちにやっておけ、お前に友達は居るのか知らないが、もう当分会えなくなるぞ!」


 それは想定外だった・・・・・・・・・・・・・どうしよう、まだ何ていおうか決まっていない、図書館もべスクスの店も後、誰がいたかは忘れたけど、ここにとどまっていても仕方ない!早く行かなきゃ!


「どこに行くんだ、話はまだ終わってないぞ!」

「ずっと、お世話になってた人がいるんだ~~~だから、あいさつぐらいしておかなきゃ!」


「わかったが、夕食ぐらいには戻ってこい!後で母さんと3人で話し合わんと行かんからな~~~」


 走ってまずは図書館のセスティルさんのところまで、行くことに・・・・・・・・。


「あの、僕ちょっと言わなきゃいけないことがあって!」

「私のこと、好きってわかってるわよそんなの、もうハグしてあげる~~~~!」


 無理やりはがそうとしても、やはりはがそうとすればどんどん力が強くなっていく。さらにアルコールのにおいの前回と比べて増していた。


「そうじゃなくて!僕もうあと、2日でここ出るんでお別れの挨拶をと・・・・・」


 急にセスティルさんの力が弱まる。僕の言ったことに酔いがさめたみたいだ。


「うそ、もうカシアくんと会えなくなるの⁉寂しいな~~~~~っていうか、もっと早く行ってくれないと困るよ~~~~」


 セスティルさんの涙目を拭いてから少しなだめる。


「もう、一生会えなくなるわけじゃないんですから、いつかそっちに戻りますよ~~~~だからその時までに誰かいい人見つけておいてくださいね!僕もう急いでるんで!」


 慌てて去ろうとすると、真剣な表情で呼び止められる。


「ちょっと待って‼出ていくのなら何か1冊持って行っていいわよ!」


 本をくれるのはうれしいが、ここのモノを勝手に持って行っていいのだろうか?


「さすがに他の人も使うので軽いものでいいのですが・・・・・・これいいんですか?」


 渡されたのは一冊の分厚い魔術書だった。


「前から興味持ってたから渡しておこうかなと思って、これぐらいいいのよ、奥にまだ何冊かしまってあるんだから!さあ、もってって!」

「本当にありがとうございます、セスティルさん!今度また会う時は何か考えておいてくださいね!」


「頑張ってね~~~!これからも書物にご縁があらんことを!」


 セスティルさんはそう言って僕を見送ると、そのまま最後まで手を振ってくれていた。次に向かう所はべスクスのところだが・・・。


「べスクス、まだいる?」

 扉を開けて見ると、まだいつも通り何かの作業をしていた。

「なんだ・・・・・カシアか、何か忘れものでもしたのか?」


「いや大事な話があるんだけど」


 そう言って、これからの予定を話すとべスクスは真剣に聞いてくれた。何か怒りのようなものが飛んでくると思ったが、そんなこともなく、ただ沈黙が流れた。


「明後日か~~~~~それは確かに急だな、まあそっちの方針だもんな、まあいろいろこっちの事手伝わせてすまんかったな~~~」

「いやそんなことないけど、っていうより僕の方こそいろいろ教えてくれてありがとう、べスクスのお陰でいろいろ身に付いたし、何より僕を気遣ってくれたこと・・・・・・・・今思えば、道を振り外さなくて良かったと思ってる。あのままむやみに狩りなんか行ってたらどこかで死んでたかもしれないし・・・・・・だからありがとう!」


「まあしょうがないか~~~~どうせ引き留めてもいずれは出て行っちまうんだし、ガキンチョには都会もいい機会かもな、ちょうど俺も新しい奴を雇おうと思ってたところだったんだ、思ったより品が倉庫に余ってるもんだから、それほど人手不足ってわけでもねえし・・・・・・・・・・・・おまえ、その手に持ってるのって、魔術書か?」


 見られてしまったのはまあべスクスだし、普通に答えておくか。


「そうだよ、ただ趣味で読んでるだけだから」

「そんなわけあるか、そんなもん持ってる奴は魔力がある程度あるやつしか意味ねえんだよ、いわゆる魔力がない奴はそんなん読んでても宝の持ち腐れってやつなんだよ、お前がもし魔術に興味案ならこれ持ってけ!」


 そう言って、僕の胸もとめがけてその光る何かをなげてきた。


「これって魔石なんじゃ?」

「お前は何でも知ってんな~~~そうだ、そりゃ魔石だ。使い物にならなくなった魔石をオレが魔力の移動をできるように改良したもんだ、大事に使えよ」


「こんなの使えないよ!第一絶対高い代物だよね、これ?」

「まだ売りに出してねえから価格は決めてねえ、だしお前の今までの労働報酬だと思え!」


「報酬はなかったんじゃ?」


 べスクスはにやりと笑って僕の髪をグシャグシャににしてきた。


「それぐらいもらっとけ、ここにはしばらく戻らんかもしれないんだから、お前にやるよ、それともあれからの報酬はいらないって言うのか?」

「ありがたく貰っておくよ、べスクス・・・・・・・・・・じゃあまたね」


「ああ!精々働き過ぎで死ぬんじゃねえぞ~~~~!」 


 僕はそれから家に帰っては、いるモノを揃えて夕食を取るために下の階へ。


「やっと家族揃ったから言うが、カシア・・・・・お前はテスタ・ロコで王都に住めるようにお金を貯めるでここからが、行ってなかったことだが、そっちで暮らすのは"お前1人"だ」


 カティは寂しいと言っているが、同時に期待のまなざしもまた同じぐらい向けてくる。


「いろんなことを学んで、王都で自分なやりたいように、夢をかなえてきなさい、私たちずっと応援しているから!」

「そうだぞ、まあ寂しくなるが、またそっちに寄る時があるかもしれん、そん時は成長した姿を見せてくれ!」


「ありがとう2人とも、王都はどんなところかはよくわからないけど、そっちに行けば僕の力が存分に発揮できるかあるいはできないかもしれないけど、取りあえずがむしゃら見頑張ってみるよ」


 夕食を食べ終え、何もする気がなかったので外の景色を眺めるため少しドア横に座る。ここから見る空もそう変わらない色をしている。


「こんなところで何してるんだ?」


 父さんも出てきて、僕の真横に座る。僕よりずっと長くこの地見てきた人間はどう思っているのだろうか?


「ずっと変わらなければ、何もかもその通りに物事が運ぶのに・・・・・・・・」

「何も変わらないなんて、そんなものないさいつかはこうして違う土地の景色を見て、比べて自分に合ったものを探す・・・母さんと一緒でここがいいから最終的にこの地に住み着いたんだ。何にも不満なことはない、でも、お前は違う。まだ小さな世界しか知らない、周りを知って自分のしたいように自分の思い描く人生を送れ、そのために今があるんだから・・・・・・・・・父さんも頑張ってみるよ、今まで以上に広い視野を持ってな!」


 暖かく心地の良い朝とももう1日しか一緒に入れない。もう少し山を探索しても良かったが、それは僕がもっとおっきくなってからでも、いくらでもできる。


「母さん、何かやりたいことある?」


 突然そんなことを聞かれカティは少し考えてから、「ついてきて」と僕にそう言ってきた。


「ここって、いつも野菜育ててるところだよね?」


 毎年、そこまで広いわけじゃない畑の中に色んなものを育てては収穫して冬の時期に備える。寒さが厳しい冬も収穫したものがあれば、何も問題なく過ごせる。


「カシアがいつもいつも、どこかへ出かけては帰ってくる。いつも楽しそうだと思って安心したけど、今年のいつだったか忘れたんだけど・・・・・・・・・カシアが怪我をして帰ってきた時は心臓が止まるかと思ったのよ、あの時本当は何をしていたの?」


 唐突に話したくなかった過去が蘇ってくる。でも、その過去はもう話してもさほど傷にはしみなかった。


「本当は盗賊を・・・・・・・・・・・・・・・・あいつらは、僕の周りの人間を殺そうとしたんだ、誰かが退けるべきだったのにそうすべきじゃないのに僕が行っちゃったんだ!」

「それは何で行ったの?そんなに危ないと知っていて、あなたがそう突き動かされたのはなぜ?」


 純粋な疑問をカティは優しい口調で聞いてきた?


「それは、ある女の子を助けるためだよ」


 盗賊に目を付けた理由は違う。だか、突発的に動くきっかけを与えたのはあの子だ、知り合いが絶望して、その状況をほったらかしにすることは出来ない。


「よかった、ずっと本ばっかりに夢中になってたからちょっと、心配で・・・・・・・・・・・その女の子は今も元気にしているの?」

「たぶん、元気にしていると思うよ、なんで?」


「いいえ何でも・・・・・・・・・・・・・・母さんそれが聞けて本当に良かったわ!もし、好きな子が出来たら、その子がどうしても気になるような子なら、迷わず気持ちを伝えなさい、相手がどう答えるかは知らないけど、きっと後悔せずに済むわよ、これだけは覚えておいてね、わかった?」

「うん、その言葉、大事にしまっておくね・・・・・・・・・・・野菜、次もうまく育つといいね」


「ええ!さあ、手伝ってちょうだい!」


 昼はいつもより豪華な料理が並んでいた。ここに居れる時間も残りわずかになった。後は、下の倉庫へ。


「ここが僕の原点だ・・・・・・・・・・・後、どんだけ周りのモノを取り込めるか楽しみだよ、じゃあ思い出の場所!」


 この日の夜はやけに長く感じた・・・・・・・・・・・・・・・・次の日になっていろいろと用意を済ませると、迎えの馬車が来る。


「向こうの人には、よろしく言っといてくれ!これが、そこの商店だ」


 紙きれのようなものを貰うとそこには目的地と思われる場所が書かれてあった。


「ここに行けばいいのだね?」

「ああ、テスタ・ロコの正門からはあるいてだからくれぐれも気を付けろよ!」


「もう、長い間会えなくなるのね!さあ~~~~~こっち来て!」


 家族全員でハグをしてから馬車に乗ると、合図と共に馬車が動く、見えなくなるまで手を振り続けていると、村の名前がちらっと見えた。


「フィルピリアス・・・・・・・・・・・僕の故郷だ、覚えとこ!」


 今まで何回か通ったはずなのに見逃していたそんなもの、改めてみるとフィルピリアス村はちっさいくて、変な形の森に囲まれた村だった。

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