ーー王都への道しるべーー

 気持ちのいい朝に何もかも吸い取られていくような脱力感、この感覚が無かったらもっと気持ちが晴れやかだったのに・・・。


「イッッッタ、あ~~~うっぷ、まだ治ってないか、さすがに」


 疲れ切った体の傷が治るまで、もう少しかかるみたいだ。だがおかげで、僕の身体は見違えるまでにビルドアップされていた。

 その瞬間、ビルが頭によぎるが、すぐに頭を振ってかき消した。


「今日は王都の程度を見るいい機会なんだ、父さんともいろいろ話さなくちゃだし、こんな家族揃っての機会なんて滅多にないんだ。僕も周りの子どもらしく、ワイワイ&ワクワクを振りまき散らそうか~~~」


 ベッドから降りた瞬間、そんなこと想像しただけで、似合わなさ過ぎたので、一瞬にしてその考えをやめた。


「それじゃあ、行ってくるよ、母さん」


 カティの顔はいつもに比べると優し目で穏やかだった。


「行ってきなさい、都会の商人が来ることなんて滅多にないんだから、楽しんできなさい!」


 早速、市場を発見したカシアは目に留まったものを次々と眺めてゆく。意外と市場が近くにあったことも加味して朝からいろんなものを見て聞いて感じ取る。


「そこのきみ、さあさあ見ていってくれ、ここらじゃ滅多にない鉄で作ってある調理器具だよ、お~~~と、これはち~~~と高け~から、お前さんが買うのにはもう少し大人になってからかな」


 僕が触ろうとしたのは刃先が鋭く全体が細長い包丁だった。ここまで、先の光った刃を見るのは生まれて初めてだった。口をあんぐり開けてずっと眺めていると、父さんがやって来た。


「カシア、お前もう少しゆっくり見て回らんか・・・・・・・・・・・って、あんた、ラスヴェルじゃないか!」

「お~~~トルコフか、久しぶりだな、相変わらず今年も横の連中がにぎわい過ぎてて、商売にならんかったよ」


「ほんとにな、あそこの連中さえいなかったら、もう少しは売れてたんだがな・・・」


 どうやら2人は商売上の知り合いみたいだ。


「ところで、お前は何してるんだ、トルコフ。こっちでは店は開かんのか、別にここでも売れない訳じゃないだろ、いつかは必要になってくるものばかりなのに」


 僕の方を見てまたラスヴェルの方を見る。


「今日はこいつを連れて市場を見せようかと思ってたんだ、カシア挨拶しろ」

「僕の名前はカシア・フォノム。まだ6歳だけど、一様本が好きです、どの市場も興味のそそるもの売ってたよ、おじさんは何の店なの?」


「こりゃ驚いた、お前の息子か、こいつ?ガキっぽさが全然ね~な、これに目を付けたってことはお前料理が好きなのか?」

「料理はまだやらせてないはずだけど、確かになんでこんなものに興味あるんだ、カシア?他にもいっぱい遊び道具ならあるのになんで包丁なんかに・・・・・・・料理の本でも読んでたのか?」


「違うよ、この刃の感じ。一番ちっさいのにこれの方が良く切れそうな気がするから何でかな~~って」


 その時、2人の視線が一瞬で僕の方に向くのを感じた。


「おい、どうしてこれがどうしてよく切れるって思った?」

 何か変化ことを言ったのだと気が付いた時にはもう遅かった。質問攻めにされるかと思ったけど、そこまでズバズバ言ってこなかった。たぶん、慎重に言葉を選んでたんだろう、僕から何かを聞き出すために。


「いや何でもない、ただの直感だよ」

「そんなわけあるか、普段から刃物を研いだりしていないと分からんこ

 とだぞ、ってかお前の息子案外こういうことに才能があんのかもな~~~もうちょい、試させてくれよ」


 そう言って奥にしまっていた何か変なものを見せてきたが、トルコフが待ったの合図をかけ、次の商店に移ろうとした。


「悪いな息子で試すことはやめてくれ、まだこの年だし、さっきのはただのまぐれだろう」

「・・・・っくうううう~~~、商売人としていいもん見つけたと思ったのに残念だ。じゃあまたな、トルコフ」

「あぁ・・・・・・・・そういや、ここらで盗賊のうわさがあるみたいでな、気を付けて商売するのをおススメするよ」

「わかった、ありりがてえ話だ、商人からしたら盗賊なんぞハイエナの群れでしかねえ、むさぼられて終わりだ!」

「また、そっち寄った時、王都の情報教えてくれ!」

「じゃあなトルコフ、今日は王都の物品でも眺めて楽しんでってくれや」


 そうして別れた後、なんだかんだで珍しいものは底をつかず、トルコフから商人についてたんまりと教えられた。


「やっぱり、あそこの店は売れてるな~~~ガラスの入れ物なんかを売ってるところだよ、ああいう貴族受けがいいものは年がら年中売れるのさ、ただ技術がいってそこら辺のド素人には無理なわけだ」

「そんなものがなくともいい生活はできるって父さん言ってませんでしたっけ?」


「それ・・・内緒だ誰にも言うんじゃないぞ!特にあそこにいる商人たちにはな」

「なぜですか、商売がしにくくなったりでもするんですか?」


「わかっているのなら聞くんじゃない、お前ってやつは」

「イテッ、殴らなくてもいいじゃないですか?というよりいうか僕にも商売のやり方を教えてください!」


 トルコフは頭をかいて、少しの間だんまりを決めていた。何もない時間が淡々と過ぎていく。


「カシア、お前は何がしたい?」


 急に飛んできた言葉の意味を探る。だが、父さんが前もって考えていたような、僕がどうしたいのかどうなりたいのかを見定めていたような鋭い目つきと一緒に飛んできた質問だった。


「僕はできれば・・・・・・・・・・・王都に行きたい、知らないことを知らないものを見ていろいろと吸収したいのです、僕の言っていることは変ですか?」

「いや、お前のような考えはそう珍しくない若者が夢見るもんだ。でも、わかっている通り自分の家には恥ずかしながら、王都で暮らしていくだけの金がねえ」


 僕が分かっていると頷くとトルコフは続けて話を進める。


「だが、母さんと話してお前の王都行きをもう少し考えてみるつもりだ・・・・・・・・・・1年、1年間だけ待ってくれ、お前が7歳になったら、お前が王都へ行けるように工面してやる」

「ええ、それは本当ですか?」


 思ってもみなかった方向に話が進み、調子が狂う。


「ああ、私がお金を稼ぐ方法を見つけて、王都でやって行けるようにツテも探してからだ。だから1年経ってそこがうまく行ったら商売のやり方を教えてやるからそこまで待っていろ、だが資金が溜まらない場合はこの話

 はなしだ。その条件をのんでくれるな、カシア?」


 僕は別に問題はないそもそも王都に行けるかもわからない状況でここま

 で早く王都行きを考えてくれているとは思わなかった、ここは彼の提案に乗るしかない。


「ええ、お願いします!その代わり、資金が溜まったら約束ですよ、僕の王都行きを絶対に許してくださいね」

「何のことだ⁉別にお前の好きにやればいい、その手伝いをするのが親の役目ってもんだろう、違うか?」


 わかっている。トルコフが一番、この王都行きに反対していたことをそんなこと目を見ればわかるに決まっている。


「僕が王都に行きたいと言った時、少し寂しそうな顔をしていたの、僕には見えてますよ」

「フ~~~~~っと、なんて敏感な奴なんだお前は、やっぱり普通の子どもじゃないよ、カシアは・・・・・・・・」


 そろそろ、夕日が沈む時間帯と共に商人たちも王都に引き上げていった。その光景を見守りながら、トルコフはこう言った。


「私たちは恵まれている方だ。こうして将来についてじっくり考えられるのだから」

「ええ、そうかもしれないですね・・・・・・・・・・大丈夫ですよ、もし王都に行っても、年に何回かは帰ってきてあげますよ。それか、父さんが母さんにもう1人子供が欲しいと頼めば寂しくなくなるかもですね!」

「いらん知識ばっか覚えやがって、お前はもう少し同い年の子どものように振舞ってろ~~~!」


 最後の一言が余計だったのか母て繰り回されそうになりながら、走って家まで帰ってきた2人だった。

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