ーーこの地帯の法則性ーー

 家に帰るなり、これからどうしようという気になっていると急ぎで父さんが帰ってきていた。


「あぁ~カシアそこにいたのか、ちょうど良かった。ある書物を急に配達しなくてどこにあるか一緒に探してくれないか?」


 まさかこの本が売れるなんてトルコフが持っていたメモ紙にはこう書いてあった。


「戦闘時にアクシデントが起きたらどうするか?~~~こころの戦争~~~」


 もう、誰でもいいが少しこの本を頼んだ人が誰なのか聞いてみたかった。父にそう言うと「それは言えない話だ」と言われてしまい終わり。せめて職は何をしている人か教えてほしかった。探し続けて30分経った後に見つかり、急いで家を飛び出していった。


「よし僕も何か読もう・・・・・・・何がいいかな、いや大体この年で本を読めるのはおかしいと言われてたっけ?」


 考えてみるとそこまで焦らなくてもいい気がした。何をしていたんだ僕はと。

 次の日、母のカティに勧められて村の小さな書庫に行ってみることにした。それにしても何かと分厚い本ばかりだ。歴史の本が多いようで少し困惑したが、その反面興味もあった。

 書かれているものは見通ったものばかりだが、いろんな場所でのできごとが書かれてある。国がこの作物のせいで崩壊しかけた事やこの時代から料理がおいしくなった事・・・などどうでもいい情報から国の事情まで具体的なものから抽象的なものが書かれてあった。中でも魔獣の被害報告が一番多かった。特に王都付近では・・・・・・。

 そう言えば、生まれてから一度も怪物らしきものを見たことがない。もしかして・・・・・・考えるよりも先に結論にたどり着いた。ここには巨大モンスター並みの生物は見当たらない。つまり、僕らが住んでいる村は土の栄養分や資源自体が豊富じゃないんだと。それにしても生物の鳴き声すらほとんど聞こえないとなるとここはいわゆる安全地帯・・・人が住むためであり、それに適しているからなのだろうかまたは~~~考えたくはないけど、森を焼き払って無理やり街を造ったか。

 こんなことも昔の歴史書には書いてあった、ここよりずっと遠い場所だが・・・。


「まあ、僕だって本の読み方ぐらいは分かるわけだしさ、もっと広いことが書いてある本ってないのかな例えば・・・基本採取の仕方とか簡単な魔術の本とか、ここは歴史だらけで何にも活かせるものがないよ」


 独り言を発しながら手前にある本を取って取りあえず暇つぶしすることに。


「ク~~~~~~っと、何だこれ、意外と面白いじゃん!」


 本に書かれてあった内容はどれも知らない事象だらけだけど、旅をしていた人物の記録がされてあり、またその国独自の文化などが書かれていて、背伸びを大きくするぐらい深く読み込んでいた。


「僕が生まれた国とは全然違う場所っていくつもあるのか~~~特に湖が緑色に光る街っていう所にいってみたいな!」


 ピキッという音と共に激痛が走る。何か水色の透明な波が砂浜を行ったり来たりしている、これは・・・何か見たこともない景色が頭をよぎる。


「今のってもしかして、湖?」


 何かを思い出そうとしても何も思い出せない、そんな気持ち悪い感覚だけが残る・・・。仕方ない、だができることは何でもしよう・・・・・そして今は書物を読もう、できるだけ多く。

 何回かここにきているけど、ここの書物も家のものと同じで偏ったジャンルのモノばっかだった。


「これって・・・いや前読んだモノと同じような内容だな、1000冊はあるのに全部で3,4種類しかないなんてここの管理者は中身を全く見なかったのか?それにしても暇すぎて1週間で読み終わっちゃったよ。取りあえず家に帰るか少しだけどちょっとは意味あったしね」


 鼻からこの場所に長居する気はない。そう決めていたから僕は失望はしなかったし外で活動する時間が増えて少しうれしい。なぜなら、この村の一角では魔物の大群が攻めてこられないようにするための訓練施設がある。僕からすればでっかい塀を作ってしまえば上から串刺しにして退治できるのにと思ったけど、見てみると正直これもこれでアリだと思う。

 しかも、訓練するかしないかは自由参加らしい。まあ、自分の事は自分で守れ的なものがあるのだろうか? 


「何か始まってる見たいだけど・・・・・・あれって防衛のための訓練かな?みんな殴り合ってるのは気のせいかな、これ訓練だよね?」


 辺りを観察してみると「おい、逃げるな!」や「このラインまでオレを動かしたら勝ちだ!」などの暴言や力比べが開催されていた。

 あれ?全然防衛訓練関係ないじゃん。というかストレス発散しに来ている人もいるし、もっと言うとお金賭けている人もいるしここは自由奔放な競争賭博地帯かとツッコミたくなったが、ここで見ていることがバレてはいけないので、颯爽と家に帰っただけで何の収穫もなく実は大人の遊び場兼ストレス発散場として伏せられていた。


「さて僕はこの光景を見なかったことにして帰るとしようか」


 まあ、運動は一人でもできる、それにある程度の体力はもうちょっと先でも良いかななんて成長できる段階なんだと毎日ジョギングしては食べて地下室の本を読んで寝てを繰り返して見事に1年が経った。


「今年で4歳か~何か僕も働ける年になりたいな~」

「あら、そんなに世の中甘くないわよ。うまくいってお金儲けできる人なんて極一部なんだから」

「もう出かけるけど何か買ってきて欲しいものはないか、カティ?」

「じゃあ、もうちょっとで塩が切れそうだから、あるなら買ってきてくれない?」

「あったらね、カシアも最近何してるか知らないが危ないことだけはするなよ?」

「一様心得てるよ、じゃあまた3日後ね」


 こんな感じのゆったりとして生活を送っていた・・・・・・・・・・・・・・でも、僕は?

 当然次の段階に進んでいた。そう図書館で魔術書と書かれた奇妙な本を見つけたんだ。それに至った経緯としてちょうど2週間前に遡る・・・。


 (2週間前)


 「よし!準備は終わり後は木の実を砕いてこのネバネバした液体を作るだけだ」


 僕は今この制作活動に精神をつぎ込んでいる。僕の知識の片隅にホットジェルというものがでてきたのでそれの代わりになるモノはないかとあれやこれやと少し森に顔を出しては数分で戻って調合を繰り返している。そこで問題が生じたんだが、粘度は出せるものの温かくはならない。この時期特に冷え込んでいく夜に向けて作っておきたかった。どうすれば、1回燃やすのはクロ焦げになるし蒸してもジェルの性質が保てなくなる。だから二日間高熱で混ぜたものをたるに流し込んで覚まさせたドロドロの液体が出来上がったもののそこから何の収穫もない。不意におばあちゃんがこんなことを言った。


「魔法なんかが使えたらねえ~~~」


 これで僕が思いついたのが体に馴染みやすい比熱が小さい液状のモノだった。もちろんこれなら肌に馴染んでしまえば、体内と同じ温度に調節される。でも、そんなモノを作る方法もわからなければそんな実はここら辺には存在しない。だから、魔法でなんとかできないだろうかと考えて魔術の書を探して魔術書庫にやって来た。これがだいたい4日前の話。


「そこのあなた!勝手に入ってはなりません事よっ!」


 僕より10歳ぐらい上のお姉さんに入るのを邪魔されたかと思うと次はこんなことを言ってきた。


「ここは魔力がある者しか入れませんのよ、あなた魔力をお持ちで?帰っていただけます⁉」


 この人は魔力が大好きみたいだろうけど僕にはそんなモノはない、というか知らない。見た目も貴族のお嬢様っぽいし絡むのはめんどくさい・・・・・取りあえずどいてもらおうか。


「あの、僕何も持ってなくて魔力もないんです・・・たぶん」


 僕は究極の困り顔を見せた。でも、そんな表情をお構いなしに「シッ!」と僕をあしらった。その瞬間僕には運がなかったんだなんて言える冗談だけでは到底引き下がれなかった。


「何でこんなこといわれなきゃいけないんだ。ここは、この図書館は誰でも使えるところじゃないのか?」

「あなた・・魔力をもっていないのならこの本を読んでも無駄ですわ!それに変な魔法を使って面倒なことを起こされても困りますもの」


 そんなこと言われたってと思ったが、僕にはどうすることもできない、確かに魔力がないならこの本を読んでも意味がないしここら辺で魔術を使っている人を見たことあるかと言われて見てば、確かにいない。でもそれだけでも引き下がるのはおかしい。それにわかっているならなんでこんな場所を撤去しないのか・・・・・・・・・・少し考え導いた答えは、人手が足りないからだ。魔術を使える者自体の。


「僕はどうすれば、入れてもらえますか?」

「どうやっても無理よ、だいたい見た目からして私より随分下よね」


 何の話をしているんだ思ったけど、すぐに分かった。まあ、僕の齢で字が読めること自体もおかしいって言われてたしね。


「どうやっても聞かないのね、往生際が悪いにもほどがあるわ!こうなったらこれでも咥えて帰りなさ・・・イタッ‼」

「あんたどこに行ったのかと思えばこんなところで何してるの!?金貨なんか見せびらかしてみっともない」


 隣には高身長ママさんが立っていた。思わず自分が小人になったのかと錯覚するぐらいだった。まあ、まだ120センチしかないんだけどね。


「母様!でもっ、それでも私はノアルエル家としてあなたのような何の特性もない人間の魔術の使用を許しませんわ」

「ラナベル、あなたはそろそろ家に戻って明日の準備をしなさい。明日は何の日か覚えているわよね?」


 明日~~~って何かあるのか、僕にはわからないけど、凄く大事な用事らしい。


「わかりましたわ、お母様。ドレスコート何にするか見てきますとも」


 そう言いながら早歩きで去って行った。あれ、何で僕絡まれたんだっけ?


「ごめんなさいね、ボクちゃん。確かにあなたの年齢でそれも一人で魔術書内に立ち入るのは危ないわ」

「僕そんなに無知じゃないよ・・・・・・・・・・良かったら、お姉さんついてきて欲しいな?」

「あらごめんなさい、私この後大事な予定が入っているの。ここには本を返しに来ただけだからあそこのロビーにいる人に聞いてみたら?何だったら頼んでみましょうか?」


 さっきの変な奴とは違って物凄くやさしいなこの人は・・・。


「やはり母さんが言っていた大人の女性のたしなみの様なものなのかな~?」


「何か言った?」と言われて自分が独り言を発していたのとに気付く。


「いやいぁ、何でもないの」


 あれ僕こんなしゃべり方だったっけ?すごい!これが母様が言ってたお姉さん効果なのか?


「あのちょっといいかしら?この子の案内を頼みたいのだけれど」

「ええ、分かりました。ではどのジャンルの本でどういった目的で来たのかだけ教えてもらえれば大丈夫です。あっ、目的自体は軽くでいいので!」


 ひとまずノアルエル家の二人とはおさらばして図書館の中をいろいろ知りたかった。まだ、周っていないところを中心にできれば先ほどいけなかった魔術書庫に。


「えっと、ここの森の事に関しての本と家具や食料についての本があれば、後は・・・・・・魔術書を」

「えっ、きみ何か魔術を使えるの?」


 横から僕と背の同じくらいの子に唐突に話しかけられた。歳は僕より2つぐらい上だけど。


「もしかして、だけど魔術を使おうとしているのなら魔術が使えるか適性検査をしなきゃだけど、エルノワ?あなたもついでで悪いけど試しておいたら?」

「えっ、ワタシ⁉もちろんやってもいいけどいい結果出るかな~」

「その、取りあえず、時間的に暗くなってきているので早めでお願いします。今日は時間がたつの早いですね、えっ⁉」


 さっきまでとても明るい天気だったのにいつの間にというか言って1時間しかたっていないような。


「この頃天気が不安定だってここのオーナーさん言ってたわね、まあ理由は分かんないけど・・・」


 取りあえず二人といっしょにとある魔術の本を取って別の部屋で、あるページの一部で金の印字が成されているそこに手をかざすように言われた。


「これがいわゆる魔力測定盤なの」


 あの手形マークのいろんな印が書かれているそれが・・・・・・・・・・何か、指紋を読み取る機械なのか?測定盤?


「これってずっと使われている、例の測定盤?」

「そうなの、測定盤はいろいろ種類はあるんだけど、これは代々使われてきているものだから、しかもとっても単純なのよ」


 単純なものほど、つくりは難しくできている。ってこの前読んだ本に書いてあったけど、これはそうでもないみたい。


「ここに魔力を測定する管があるんだけど、あなたたちは何もしなくていいわ。逆に無理に力を入れようとしないでね、測れないから」

「じゃあ、最初は私からやるね!」


 エルノワが金の型に手を置くと・・・・・何も起こらない、いや何かしらは起こっているのだけど何も測定盤に変化はない。僕の思ったいた〝変化する″とは目に見えないものも含めるがこの場合はエルノワ自身に何か起こっているのかもしれない。


「エルノワ!何か変化とかは?その円盤に触れて何か身体で感じられたか?」


 エルノワは手でハテナマークを作り、何も起こってないけどという表情で目を逸らされた。


「僕の勘違いか?」


 結果が出たのか図書館の管理人が手を振ってこっちに来てと静かな声で教えてくれた。


「あのね、言い忘れてたんだけど・・・ここの測定盤は向こうのスプリッターっていうモノと繋がっているの」


 なるほど、だから何の反応も出なかったのか~~~しかし、彼女の体に干渉したものの何の反応もなかったのはなぜだ?


「この装置でどんな系統の魔力か調べるんだけど、実際に取るのは身体に流れている魔力の極一部よっ!」


 だからか・・・・・よし、これで全部のつじつまが合う・・・・・僕も魔力測定してみよっと。


「何だか面白い仕組みですね、こんなに安全な装置がこんなところにあるなんて⁉」

「〝こんなところ″は言い過ぎだけど、確かにすごい装置よ、まさか仕組みに着目するなんて!」


 え、なぜそんな目で僕を見ているの?僕なんか今変なこと言った?取りあえず、この機械を作った人を聞いてみることにした。


「い、いや僕そんなつもりは何か危ないこと言いましたぁ?それよりも、このモノ自体はいつ作られたのですか?」

「いえ、ごめんなさい。あなみたいな子初めて見たから、フフッ」


 いや、単純な理由だった、普通に質問はぐらかされたけど・・・。


「っていうかさぁ、名前聞いてないくん君一体何歳なのさ?」

 「4歳だよ」


 その瞬間二人ともが驚愕の目で僕を見てきた。


「うち、弟いるんだけど、君と同い年なの」


 それがどうしたのと言いたいところだけど、辛抱。多分僕がおかしいという事かな?


「まだ、片言だし、座って家でダラダラしてるだけなんだから、ほんとビックリ‼」


 まあ、カティにもそんなこと言われた気がするな、こんなに小さいのに外に出たら危険だよという言葉がいますごく実感できる。僕一人では何にもできない。だからこそ家でじっくりしていたんだけど、やっぱり何もできないってのにはさすがの僕でも耐えれないね。

 それに今こうやって知らなかったものをたくさん見れるし触れる。


 そんな体験は僕にとって新しい刺激をくれるそして新しい知識となって僕に夢を与えてくれる。


「そうですね、中々いないと母に言われましたし僕ら世代の子どもは・・・・・何かと多様なんですかね?」

「きみ・・・本当に4歳かしら⁉」


 疑いの目で僕を見てくる管理人さんは他にも何か考えてそうだけど、僕の何を知ろうとしているのか全く分からない。


「確かにトシ誤魔化してるんじゃないのないの、実は120歳ぐらいの博士だとか~」


 何を言ってるんだとツッコもうと思ったけど、確かにそう考えられても変じゃないのが怖いところでもある。


「何か勘違いしておられるようですが、僕はただの村の子どもですよ」


 訂正しようしたらまた妙に怪しい感じになった。もう、なにも言うまいとずっと黙り込んでいた。


「後もう少しで結果が出るわよ、あなた終わるのに時間がかかっていたから何かしらの魔力関連のものは持ってるはずよ」


 紙が出てきたエルノワの時より分厚い。これで僕の魔力の適性が知れると思いきや中に書いていたのはたった魔力〝平均より2段階下″という文字と説明が書かれているだけだった。なんとも複雑な感情になるがエルノワは・・・・・・・・・。


「確かにそれはそれで残念かもしれないけど、けっこう普通だよね、お姉さん?」

「まあ、魔力があるだけまだプラスな方よ、これからも魔術図書館に来るといいわ」


 管理人のお姉さんが慰めてくれるのはうれしいが、僕にも何か特性が欲しかった。何でもいいから何かしら一つ・・・。


「今回、回ろうとしていたところは自分で回りますのでこれで終わりという事でありがとうございます!」

「あら、もういいのですか?何かありましたらまたここを頼ってくださいね」


 軽く礼をして図書館の中を自由に見て回った。しかしこの図書館はやけに広々としている。今までいた部屋が狭すぎたのか僕の視野が狭かったのかいろんなカテゴリーの本が各フロアに分かれていてフロアごとにも何種類かに分類されいてる。こんなバカデカい空間に毎日来れるなんてまるで・・・・・・・・・・。


「知識の宝箱みたいか?お前さん名前なんて言うんだい?」


 急に後ろからいや正確には真上から話しかけられ、思わず「うわ~建物だけじゃなくここは人も大きいのか」なんて言ってしまった。


「勘違いしてるようだが、オレはここの人間じゃないぞ⁉お前さんはオレのこと見てもビビらないんだな、ハハッ」

「何か勘違いしているようですがあなた誰ですか?僕の知り合いにあなたのような人いなかったはずですけど・・・」


 男は何も脅しや勧誘のようなものはなかったものの、少なからず僕に興味があるみたいだった。


「オレの名はビルで、お前さんの名前は、っていうか若け~な!」

「僕の名は・・・・・知らない人には言えないね、父さんから教わってるから」

「大丈夫さ、何にも悪用したりしない。それにそん歳でそれだけしゃべれて考えれたら一人でも大丈夫だろ!」


 少しだけ考えてみた。この人は見た感じ悪い人じゃなさそうだし、何か欲していそうなわけでもない。だったら別に話してもいいか。


「僕の名はカシア、歳は4だ。で~~~おじさんは何しにここへ来たの?」

「おい、ちょっと待て。4歳だと!想像の2倍若け~じゃねえか」 


 それから二人でここの中にあるあらゆる本を物色して時折ビルの少年時代の話を聞いたり、4歳とは思えんと繰り返し疑われたりおかしいを連呼してだいたい1週間がつぶれた。

 その頃には僕の作ろうとしていたホットジェルを作るための粘度系の魔術と炎症系の魔術が完成していた。後、彼に言われたことだが、魔術が使えるなんて他の連中には言うなと、言ったらどう扱われるか分かったもんじゃない。それに、お前は心も体もまだ未熟だが鍛えようと思えば、全然早いに越したことはないと。


「だから、なんていうか・・・・・・今度べスクスの武器屋の裏路地に来い」


 いろいろ鍛えてやるなどと言われ、面倒くさいと返すとお前のためだとか言い返された挙句、半ば強制的に武器屋の近くにたどり着いてもう1時間が立つ。


「来ないと全員に魔法使いだって言いふらすぞって言っておきながら遅れてくるとは、あいつどんな質の悪い人間なんだ。もしかして忘れてるとかないだろうなぁ?」


 昼になる手前でやっと来たと思ったら何か大きい荷物を抱えていた。


「遅れてすまん、ちょっと森の周辺を見回ってた。何か不満そうだがこのままいくぞ」

「メチャクチャ遅いよ、それにどこに行くの?何も聞いてないんだけど・・・」


 ビルは上着のポケットから古びた紙切れを出した。


「これは後で使うとして、お前さんのサバイバル用具を買うのを忘れてたからそれからだ・・・・・・・・・・森に訓練に行くのは!」


 やっとこれからって時に用具の買い足しか?自分の分は持って当然準備してきたし、こいつ無理やり買わせる気じゃないだろうな?


「これからって時にこんなとこ行ってどうするんだって思っただろ、まあついて来い」


 中に入ると独特な金属のにおいがした。如何にも戦うための物品が壁一面に揃っており、ほとんどが大人用のサイズだった。


「おい、べスクス。ここにはポスピルはないのか?」

「それなら、倉庫の奥にあるだろうから探してきてやるよ、それよりそのガキは何だ、冒険者の見習いか?」


 あれ・・・聞いてた話と違う。ビルは自分を狩りのプロにしてやろうと、訓練を森でやってやると言っていたが、冒険者になるなんて一言も聞いてない。


「ああ、オレの連れのトルコフだ。こいつまだこんな年なのにいろんな場所にウロチョロしてるから、若いうちから鍛えてやるのさ!」

「ビル、あんまり人様の家の子を引っ張り出してくるんじゃねえぞ。ほんと問題にでもなったら・・・」


 ビルとこの店主は仲がいいのだろうか10分ぐらい世間話をしていた。


「大丈夫だ、心配ねえ!魔物と直接戦わせるわけじゃねえんだ、ちょっとの知識を入れ知恵させてやるだけさ」

「そうだった・・・お前に言わなきゃならないことがあった。新地帯が発見されたらしいけど、あまり行かない方がいい」


 そう言いながらも地図のようなものを引き出してからインクで赤く2週させる。


「確かにここは言ったことがない場所だが、何故だ?」

「どうやら魔物自体はそこそこ弱いらしいんだが、その地形自体が厄介でな」

「そこに言ったやつの情報か?」


 べスクスは少し頭を一回縦に振り、ビルと僕の目をじっと見つめた。


「お前が言うなら仕方ない。ポスピルと後は強化瓶を3つほどくれ、小さめのでいい」


 ビルが銀貨二枚と銅貨三枚払うと早速森まで来て片手に持っていたポスピルという小さめのバッグを渡される。


「こいつはな、探索者向けの訓練用のバックだ。中には必要最低限のモノが入ってる。取りあえず持ってみろ!」


 少し重いというものの普通のリュックと大して変わらない。


 「ビル、これ持ってどこに行くの?」


 森に着くなり、ビルのカバンに入っていたナイフのようなものを差し出された。


「これ持て!今から地形の確認をするからついて来い、森なんて慣れればそれほど恐ろしいもんでもない」

「いいけど、僕には〝これ″がある。そう言ったものはいらない」

「いいから持っとけ、そんなボロボロのやつじゃ、いざという時使い物にならねえ!」


 ビルの真剣な表情に気圧されてそのまま上着の中にしまっておくことに

 した。


「いいか、この山地はなあ~特にこれと言った危険はないごく普通の森だ」


 ビルは急ぎ足でどこかに向かっているのか段々歩くスピードが増していった。


「この辺って魔物がいたりするの?」

「いや、誰に聞いたかは知らないがそんなんいたら、とっくに騒ぎになってるだろうよ。いて精々獣ぐらいだ」


 じゃあ、一体何するんだろう?そもそもこんな真っ暗な森に入って帰り道などが分かるのだろうか?


「早くついて来い、ここには獣もいるが安全な空間もある今からそこに行く」


 ここでやっと、目的地を話してくれたけど本当にそんな場所あるのか、この前こっちに来たときはおじさんに危ないからとゴブリンに喰われ骨だけにされたという話を聞いたはずなのだが、あれはハッタリだったのかそれともその場所はビル以外知らないのか二つに一つだろう。

 歩いて1時間の場所にその静かで様々な色の木が並んでいる空間に出会った。


「ここがお前の練習する、じゃないな、訓練する場だ。お前にはいろいろと教えておきたい、特に狩りの仕方じゃなくナイフの使い方だ」


 不思議に思った、ナイフを使うためならこんな場所に来なくてもいいのにって・・・。


「こんな場所で剣さばきの練習?別に訓練所でやればいいじゃん、何でしかもこんな静かな森の一端で?」

「つべこべ言うな、取りあえずナイフ以前に体の使い方から始めるぞ!いいな⁉」


 取りあえずその日はほとんど休めず1日通して体力づくり的なことをしていた。ほとんど意味が分からなかったけど、ビルは流れって言うのが大事なんだとずっと僕に説いていた。次の日・・・・・・・・・・。


「魔術より先に体の使い方だ。お前の動きを見ていると何だか・・・危なっかしくて見ていられん!」


 そんなこと言わなくてもいいのに、なんて言っても聞きやしない。ビルは意外と自分勝手なところがあるから僕の意見なんかそっちのけだ。


「ねえ、ビル?こんだけやればもういいでしょ?剣術早く教えてよ!」

「バカ言え、まだまだ基礎が足りてねえんだよ剣なんて基礎ができてナイフが使えて、その後だ」


 ここまで追い込んでやっているのに一向に次の段階に進ましてくれない。もう帰って本でも読んでおこうかな・・・。


「おい、トルコフ・・・・・どうした?全然進んでないぞ⁉」


 トルコフって言われるのが久しぶりだからか、ちょっとびくっとした。そもそも、なにも基礎練習がつまらないわけじゃない。ビルがここ数日鍛えて鍛えてやっとナイフが扱えると思ったら山道を走らされるわで一向にナイフを使う気配すらない。

 それどころかだんだんと遠ざかっている気がしてならない。ビルが何を企んでいるのか知らないがここは一端駄々こねをすることにした。


「もう疲れた~大体ナイフなんて扱えても意味ないじゃん、僕も用事があった気がするから家に帰りたいんだけど、ビル?」

「・・・じゃあ、好きにしろ。帰りたきゃ帰ればいい」


 ビルからは意外な返答が帰ってきた。「バカ言ってんじゃねえ、次やるぞ!」って殴られると思ってたのに。そしたらビルは続けてこんなことを言い出した。


「確かにこんな年下(ガキ)にいろいろやらせるなんてちょった~無理だったかな~あぁ・・・・・・・・・・お前なら覚えがいいから、いろいろ教えてやれると思ったのにな」


 そんなこと言われても・・・・・そんなこと言われたってどうしたらいいんだ。僕はまだ、ものを覚えただけで何かしたいことを自由にできるってわけじゃないんだぞ。


「じゃあ、僕は・・・・・じゃない、ビルは僕にどこまで行ってほしいの?」


 少し考えてから少し口を開く。さっきまで適当に僕を引き込んだ表情とは別でその顔は真剣だった。


「お前を・・・ハンターに仕上げたい、できればオレの後を継いでくれるような」


 少し考えることにした。ビルは僕をそっちの道に引き込もうとしたわけだけど、あらかじめ僕の中で決めていたことがある。


「ごめん、ハンターにはなるつもりはないでも、知識や技術を教えてもらったらそれなりのことはするつもり」

「なら、約束だぞ!お前を立派なオレの見習い1号にしてやる。これから段々とキツくしていくが、ついてこれなかったらそこまでだ」


 「わかった!」と威勢よく返事をして、二人の今後の方針が決まった。


 そうとなれば、とことんビルの技術を取り込んでやろうと僕はこの時思った。


 次の日からビルは練習内容はグレードを2段階ぐらい下げた状態にしつつ体の動かし方をいろんなことしながら教えてくれた。


 「いいか重要なのは量じゃない・・・・・・・お前の筋トレを見ているとフワンフワンしていて軸がない。だから、軸をしっかりと作るためにまずあの黄色い木の上に登って、枝のところで逆立ちだ」


 えぇ?僕はまだ4歳だよと背はこんだけしかないんだよとビルに手をパタパタ仰ぎながらアピールしていると、ビルの方は少し困った顔をしていた。


「大丈夫だ、もし落ちたらオレが受け止めてやるさ」

「いや、そうじゃなくて何で大木でする必要があるの?地面でいいじゃないか!」


 すると、ビルは決まり顔でこう言った「こっちの方が安定させるのが困難だからだ」と言ったのだが、ビルは僕とは・・・何か違う、そこが今わかった。

 ビルは・・・・・・・・・・基本的に「やるなら限界ギリギリに挑戦だ!」みたいなことをやりだす、これは僕のやり方と根本的に違うわけだ。僕はどっちかと言うと慎重に着実に進めていきたいもっと段階を踏んで強くなって行きたい。


 そう、無茶なことはやりたくない主義なんだ僕は・・・。 


「おい!まだ1回もやってないぞ。せめて1回ぐらいやってから言え」

「ねえ、ビル・・・ちょっとこれ僕には無理だよ何か骨折りそう」

「鍛えるって言うのはそれぐらいでいいんだ。お前はまだ、訓練始めて10日だ。その10日間で何してた?そうまだないもやってないだろ!ということはオレに従っときゃあいいんだよ」


 やっぱり、ビルは無理やりだ。教えてくれるのはありがたいのだが、教え方と言う点に関して少し問題がある。


「ビル?前にも弟子みたいなのは居たの?」


 ビルは不思議そうにこっちを見てきたが、詮索しているわけじゃなかったためさっと顔をそらした。


「あ~いたら、何かあるのか、練習を続けることができんのか?」

「ビルってなんかちょっと教えるのが下手な気がするよ」

「おいおい、直球だな」

「ごめんなさい、まだ配慮ってものを習ってないので」


 ビルはため息をついてから「ちょっとは焦りすぎだったのかな~」と言葉を漏らし、こっちを向いた。


「わかった、お前さんがやりたいこと言ってみろ、まずは何がやりたい?」


 僕のやりたいこと・・・別に今までの練習が無駄だったとは言わないけど、少し先が見えない気がして嫌だった。そういうわけじゃないけど、自分の中で言いたいことは固まっていた。今まで通りの自分のやり方で。


「僕は原理が知りたい、何でこう言った訓練をするのか、そこから何に繋がるのか?なんて言っても今はまだ始めたてだけどそんな感じの事がやりたい」

「ったく、お前はほんとに4歳児かよ嘘ついてるんじゃないだろうな?」

 こうして、次の日から"僕"のための訓練が始まった。

「まず言っておくが、剣を持つにしても、盾を持つにしてもある程度の筋肉が必要だ。そこでお前がこの前言ってた原理ってやつだが、オレはそれほど知らん。だが、やり方は知ってる。それだけを教えてやるから"なぜ"の部分をお前が導き出せ、カシア」

「わかったよ、僕がどっちみち頑張らないといけないのね、まあぼちぼち覚えるよ」


 最初に山奥を走らされる。その次に体を重しに固定させながらの筋力づくりそして、剣をを持った時のバランスを鍛えながら徐々に自分の中で体を動かすイメージを掴んでいった。

 だいたい日が暮れるまで練習し、帰る時には森のあらゆる情報をビルから教えてもらった。ナイフを使う時の地形の情報や足跡なんかも補えば補うほど段々とビルの剣技に近づいていった。

 結局はナイフと弓の事しか教えてくれなかったけどその成果は言うまでもなく向上していた。森には入りすぎていたせいで親にバレそうになったが、何とか道で転んだなどの適当な言い訳で誤魔化した。そこから、ビルと共に過ごすして2年が経過した・・・・・・・・・・。


「お~い、ビル。この砥石使えるかな、多少僕の手で加工したんだけど・・・」


 また、変なもの見つけてきたのかという顔でその砥石を眺めた。


「わざわざ、加工なんかしなくても、オレが店で調達してやんのに・・・・・そういや、お前けっこう背伸びたな。成長したのにお前は全然変わってないな、中身が」


 たまにこうやって、話しては本を借りてモノを作るために森に調達しに行

 ってる、もちろん狩りも。


「あ~悪いんだが、明日はちょっと、これねえ。べスクスの店に寄らねえといけなくなっちまって、お前は少し休め。ここまでいろいろ大変だったろ、だいたいのことはお前に教えたつもりだ。別に教えて欲しいことがあればまた教えてやるが、ほとんどはやらなくてもその内身に付いてくるものだから心配するな!」


 何かパッとしないようで長い2年間だったけど、ビルが僕に向ける目が変わっていることに気付き、何かがひと段落着いたのを肌で感じた。


「じゃあ、修行みたいなこともこれでひと段落なんだね」


 ビルは困った表情を見せずにただ周りを警戒してこう言った。


「あぁ・・・・・・・最近、人さらいの連中が増えているらしい。気を付けろよ・・・・・ってお前に言ってもあんまり意味ないか。あまり、家にこもりすぎるなよ、少しは外で体動かせ。それとオレの後継者候補にならなくて良かった」


 ビルとはこの2年間、ずっと一緒にいたがビルの話はほとんど聞いたことがなかった。それでも、ビルは僕にトレジャーハンターだという事を明かし、人に言えないこともいっぱいやってきたんだと強く後悔していた。    その中で僕を育てた恩人であり彼がトレジャーハンター以外の道でも金を稼げることを知りこうして進路を切り替えることを選択した。これもビルと長い間一緒にいないと変わることのないことだっただろう。

 ビルは僕と出会って更生した。そして、ビルとは違う道を今選ぶことになった。


「ビル、今までありがとう。特にナイフの時なんて5回ぐらい死にかけたけど、でも本当に感謝してるよ。また何かあればその時はギルドに手紙でも送ってよ、その時には入ってるかもしれないから」

「お前も、前よりはガキっぽくなくなったぜ、まだ見た目がガキだが、何かあればまた連絡するさ!じゃあな、カシア‼」


 この日は久しぶりにぐっすり眠れそうだった。家に帰ってから僕は久しぶりに地下の倉庫に行って見ることにした。


「久しぶりに入ったはいいけど、何読もうかな~~~?」


 どれを見てももう記憶にある書物ばかりで、そこまでの好奇心は残っていなかった。


「う~~~ん?村の書庫に何かあったりしたっけな~~~あっちの方が量が種類が多そうだし、そっちに行こうっと!」


 まだ、結構朝方だ。周囲に出歩いている人はまだ少ない、正直人ごみの中を進んでいくのはイヤだったため、好都合だった。本を探しに来ると何かと読みたいものがざっといくつか思いつく。必要な情報からそうでもない情報も取り入れておくことで、知識の幅が広がる。


「前に来たときは魔力についてだったから、何か別のものを読みたいんだよな~~~あっ!」


 前方を見ると、以前会った面倒くさい貴族の女の子が何やら探し物をしていた。あちらに行くためこっそりと移動していると………。


「あ、あなた!この間の!まったく、あなたのせいであの後とても大変だったんですからね!」

「僕はそんなこと知りませんよ、それより僕も探し物があるので失礼します」


 急いで去ろうとすると、ラナベルに引き留められるというより、立ち塞がれる。


「ちょっと!そう言えば、この間、魔力を測ったらしいですわね?どうだったのかしら?」

「一般より少ないと言われました」


 ラナベルは少し驚いた様子でこっちを見ていたが、再びマウントを取ろうとしてくる。


「そ、そうですか……………………まあ、私より少ないのなら、妥当、その程度と言ったところでしょうか?」

「それは、よかった…………………………じゃあ、また後で」

「ちょっと!待った!あなた一体何なんですの!この私とお話しするのがきらいで、ありますの?」


 僕は分からないと言った表情でラナベルを見ていると、あきれた顔をして先を通してくれた。今日は人としゃべりに来たのではなく、本を探しに来た。

 僕が持っているモノはあまりにも少ない。何か作れたらその分自分のモノになるし、もしかしたら他の用途でも使えたりするかもしれない、だから今日来たのはモノづくりの本を見たかった、それがこの図書館にあると前に来た時チラッと見たのを覚えている。 


「油の作り方?これ前にも見たような、次は椅子の作り方……………………何かこの本、バラバラすぎるな!」


 様々なことは書いてあっても、用途別に書かれていない何でもアリの辞書みたいな本だった。


「これはいいや、次の本読もう」


 探している中で何か気になるものはないかと注意深く見ていると羽のような道具から車輪がついたものまである。


「これって、どれも移動手段について書かれている本だ!」


 早速、面白いものを見つけて数時間読み続けていると何か違和感のようなものを感じる。


「この本に載ってるのってここら辺にはないな~~~」


 周りには一切載っていないが、図書館のお姉さんに聞いても、あまり詳しい情報がない。


「なんか癪だけど、ラナベルに聞いてみるか?」


 ラナベルはまだ残っていたみたいだ。なにやら、分厚い本を片手にじっと見つめながら、字を書いているみたいだ。


「ちょっと、いいですか?ここの本に載っているのってご存じですか?」

「え~~~と、それはね~~~って、あんたじゃない⁉」


 驚いているところに時差を感じるが、僕だからどうしたというのか?


「教えて欲しいのですか?そんなのもわからないなんて……………………調べて来ればすぐにわかりますのに!」


 さっきから何なんだ?引き留めたり突き放したりこの人は何がしたいんだ。


「教えてくれないならいいです………………他を当ります」

「待ちなさい………………それだったら、教えてあげますわよ、というかだいたいこんなもの調べて何になるというのですか?」


 何になると言われても調べたいものを調べているだけだし、ただの興味をもったものを調べているだけだ、ここはそう場所じゃないのか?


「そのこんなものは、ラナベルさんは知ってるんですか?」

「知っていますとも、それは王都にあるものが大半ですけれど、こんな場所にはそれほど必要ありませんわ。これでいいかしら?」

「それで十分です、ありがとうございます、ラナベルさん!」


 よく見てみると、何か作法について書かれたものを読んでいたみたいだ。何も言わず、すぐ去ると今日はもう日が落ちていたので、帰ることに。


「そっか~~~この村にはないのか~~~」


 これを見るためには王都に行く必要がある。そもそも、王都がどこにあるか知らなかったため、まだまだ先の事になりそうだ。

 

 数日たったある日、何も考えずに村の中を散歩していたら、突然べスク

 スにばったり会った。


「よかった、お前さんを探していたんだ!」


 なにやら、深刻そうな表情から、嫌な予感がする。べスクスとはほとんどしゃべっていなかったため、余計に身構えてしまう。


「ここじゃ、危ないから・・・・・・・・ちょっと来い、オレの店に」

 手を引っ張られながら、連れて行かれることに疑問を持つ暇もなく、べスクスの店に着いた。


「お前はたぶんだ、たぶん関係ないと思うが、ビルが盗賊にやられた。それもつい昨日のことだ、お前さんは昨日会ってないんだろうな?あいつと・・・・・」


「やられたってなに、それについ昨日のことってどういうこと⁉」


 慌てて何から質問すればいいか、それに盗賊にやられたというのが少し引っ掛かった。


「そう言えば、盗賊ってここら辺には住んでいなかったんじゃないの?」


 あまり聞いたことがない。盗賊以前に獣といった動物さえ、ここらには見当たらなかったのだから。


「向こうの街にいる奴らが拠点を変えて、こっちにやって来たんだ・・・・・お前さんもまえに聞いたことがあるだろうが、トレジャーハンターとして活動していた頃・・・」


 その頃に彼の目を付けた宝の1つに王族から盗んだものがあって、その復讐がてら探していたが見つからず、つい最近たまたまここら辺を通った際にばったり遭遇したらしい。


「なんでそいつらは盗んだのがビルだってわかったの?」

「ここいらでそう盗めるのがうまい奴なんて盗賊かトレジャーハンターしかいない。あっちにいるときにビルがトレジャーハンターとしていろいろ集めていることを誰かから聞いたんだろう。あいつは腕は確かだったからな・・・」


 そう考えたらまずいことになる。もし、誰かが僕とビルの関係を知っていて、それを盗賊に話でもしたら今度は僕が狙われるかもしれない!


「べスクスさん、僕が殺されるという事は可能性として・・・・・・・・・ある?」

「いや、それはない。それにあいつらはまだ、お前の事を知らないはずだ、ここら辺ではビルも偽っていただろうし、なにより盗賊は下手に殺しを行ったりはしない。」

「彼らはどこの盗賊なの?」

「ヤンクイーターだよ、少数で盗賊の中じゃそこまででかい縄張りじゃないが、行動力が他のやつらとは違うわけさ!」


 なぜ、こんなに詳しいのかわからないが、危険な奴らというのには変わりはない。


「盗賊と関わったことあるの?」

「いや、ここいらじゃそう言った連中はいないから、旅人経由でいろいろと話は耳に入ってくるもんさ」


 というか、なぜべスクスが僕に話を持ち掛けたのだろう?


「お前は師匠が死んだのに、平気そうな顔してるんだな・・・・・もうちょっと、何か思わないのか⁉」


 僕とベルの関りを気にしてくれているのかもしれないけど、彼は僕からすると師匠というよりも友達に近い形だ。だが、何も感じないわけじゃない。まだまだ話したいこともあった中でこう言ったハプニングは起こるものだと僕も彼から聞かされていた。

 何もおかしくはない………………………………だが、現実に僕の大事な友達が1人いなくなった、けれどそのことに何も意見することは出来ない。


「これはビルとヤンクイーターの問題だよ、僕が何か言っても変な話だよ!」

「そんなこと言ってたら、大事な奴ができた時になにも護れなくなるぞ!それでいいのか、カシア‼」


 こんなに内側が暑くなったのは生れて始めてだ。いや、前にも何かあったのかもしれないだけれど、僕はこの今感じたものをどうすればいいか分からなかった。


「カシア、もしお前に何かあったら困るからこれだけは持っておけ、ビルとはだいぶ前から親しいこともあってお前にはビルの大切な弟子として、自分のことは大事にしてもらいたい、できればヤンクイーターを討伐するのをギルドや冒険者に依頼したいが、ここらはそんな街じゃねえ、だから自分の身は自分で守らなきゃだぞ、カシア!」


 確かにギルドというのをここらでは見たことがない。だからと言ってそのまま盗賊たちを住まわせたら次に何が起こるか分かったことじゃない。べスクスに自衛のための品々を貰い、家に帰ることにした。


「だめだな~~~僕。何もできないなんて、それになんで涙が出てこないんだろう?ビルが死んだって言うのに何やってるんだ!」


 自分に失望したように言葉をぶつける。復讐するなんてできるはずがない、して何になるというんだ。心の中ではいずれそう言う時が来るかもしれないとビルの目を見て予測のようなものは立っていたはずなのに何もできなかった。だが彼らを野放しにしていたらそれこそ、自分の身も危ない僕は何をすればいいんだ?


「だいたい相手の人数もわかっていない、無理に突っ込んで殺されでもしたら、それこそビルに笑われる。そんなこと、ビルが許さないよ」


 僕はまだ6歳だ、大人に勝てるような体ではない。いや、勝てるかもしれないが、盗賊相手は別だ。彼らはそれだけ危ない道を乗り越えてきている。それに対して僕はまだ、これと言って経験がない。


「今はまだ動くな、すぐに行っても何もならない、とにかく飯でも食べようかな・・・」


 そう言えば、家族とはそこまで会話を交わしたという記憶がここ最近ない。久しぶりにみんな揃うんだし、たくさん話でもしようか。


 「あ、いい匂いがする」


 食卓には誰もいないと思っていたが、母が何か騒がしい様子。


「そんなに持って帰ってきてどうしたの!随分と疲れてるみたいだし、さっと片付けてきてちょうだい、夕食にするから」


 父のトルコフが帰ってきて僕を誘って片づけを手伝わされる。


「ごめんな、最近はあんまり買ってくれないだよ、街の人間も景気がいい方じゃないんだ、それに商売も一か所に傾いてる気がするし・・・・・・・・ところで、カシア・・・・・お前はここ最近何してたんだ、あまり帰れてないのもあるがお前のことを村で見かけると近隣の人たちから言われるんだが、あまり外に出かけるんじゃないぞ、まだそこまで判断して何かできる年じゃないんだから」


 トルコフのいう事もわかるが、もうずいぶんと経ったと実感している。僕が何から何を学んだか、思ったよりも外は危険じゃない。村程度なら僕が歩いたってどおってことない。

 それに僕は1人で何でもできるようにはなったつもりだ。でもそのことは親には知られてない、できるだけ隠してやっているがそれも時がたつにつれて段々と難しくなる。


「あのでっかい図書館で本を読んでいたんですよ、ここにあるもの以外にも面白いものがいっぱいありましたよ。どれも1日じゃ足りません!」

「それはまあ、図書館ぐらいなら大丈夫だろう、それよりこっちの荷物を向こうへ片付けるのを手伝ってくれ!」


 何かと家具モノが多いがそれらを片付けると夕食が待っていた。


「家族みんな揃ったことだし、早速話を聞かせてくれ!」


 家族揃って食事をすることがこんなにしんみりした空間だったことに改めて気づく。


「そんなことより、私が頼んだもの買ってきてくれたんですか?」

「果実の種だったっけ?蔵にしまってあるから、明日みたらいいさ」


 果物を育てるのにもお金がいるのか、参った状態なのは商売だけじゃなさそうだ。


「父さん、何がそんなに大変なのですか?困っていることが何かあるんですか?」

「子供にはあまり関係のないことだ、母さんと2人で解決するさ」


 立ち上がって言う。僕はものそんなことを言われてもあまり意味がないと。


「僕はもうある程度の事は理解しているつもりです、何があったのか教えてくれませんか、父さん?」


 トルコフは深くため息をつくと、こう言った。


「ちょっと、今の時期はあまり商売をするには適してないんだ、その証拠に街に行っても全く売れない。正直、後どれだけ持つか分からないから今のうちに食料を確保しておきたい、カシアは何かそれについて意見はあるか?」


 初めて自分に意見を求められた。だが、何かを答えることは出来ない、食糧の育てる方法をここではあまり見たことがない。


「特に食べ物は何を育てているのですか?そこについてあまり知らないので僕は力になれません」

「理解しているが実際の経験をしていないからできないと・・・やはりまだ子供だったな。お前にはもう少したってからいろいろと手伝ってもらう、いいなカシア?」


 残念だが自分にできることが少なすぎる。だが、何をすればいいか決まった今度はその道を究められるようにまた図書館に行こうか。


「悔しいですが、そうします」

「それより聞いてくれないかしら?最近この村の近くに盗賊が来てるって噂なの」


 頭にビルと一緒にいた光景が蘇ってくる。盗賊も住処を求めて旅をすると本に書いてあった。本当かウソかは分からないがこうしてこの村に移ってきたことで少なくともその物語は嘘なんかじゃなかった。


「この村にか⁉いったい何のために・・・・・いや今考えても仕方がない、取りあえず今日はゆっくりしよう、久しぶりの休暇だ」


 幸いこの村には冒険者は居ないが、喧嘩屋のようなものは居る。何かあったらそいつらが対処してくれるだろうとトルコフは言う。

 何か嫌な予感が脳内をよぎる。その内に彼のような犠牲者が出てきていてもおかしくない。ベルは恨む理由があったからやられたが、本来はその街を理由なしに襲い住処を転々とするのが盗賊だと家の近いある本に書いてあった。


「たぶん大丈夫だよ、あの変なことしている人たちに任せれば、盗賊も手を引いてくれると思うよ」

「変なことしているってどこでそんなことやっているのかしら?」

「あ~訓練所のところだな、カシア。お前もしかしてそこ行ったのか?お前の年代のやつが行くようなところじゃないぞ!」


 父さんは知っていたらしく、行っていたんじゃないかと疑いの目をかけてきた。


「そんなことしてないよ、ただ図書館の帰りにたまたま見ただけだよ~」

「それがいわゆる、喧嘩屋だ」


 あれが喧嘩屋だとしたら、あんなに大勢の人間に村を守らせるとか僕が読んだ歴史の書からすれば少し変わってるけど、そこそこ頼りになるんじゃないかと思う。


「まあ、なんだ。明日はちょうど街の市場がこっちにいくつ来るかは知らんが寄る日なんだ。一緒に見て回らないか?どんなものがあるかお前も気になっていただろう?」


 僕は一度も街に行ったことがない、それもそのはずでこんな年で行けるところではないし、まだどんなところなのか想像もできない。父のトルコフは年に何度か行っているみたいだけど、僕は行く理由がない、少なくとも今は………………。


「興味はないって言ったらウソになるけど、こっちに来るってことは対して来ないってことでしょ、おもしろい店は」

「そんなこと言うな、それにあまり大層じゃなくとも、一度は見ておいた方がいいぞ、それを知っているのと知らないのとでは、人生の楽しみも変わるってもんだぞ、カシア」


 僕は知っているものには興味がない、ただ"人生の楽しみ"と言われて気にせずにはいられない。父さんは何を知っているというんだ?僕が知らないものは、ここらではもうほとんどなくなった。だから、楽しいかは別として、王都に興味を引くようなものがあるのならそれは・・・・・。


「父さんは、王都に行って周りの店の事をまねたりしてるの?」

「そんなことできたらほとんどの商売潰れモンだな~~~家には道具がないし、そのための材料もない。王都は何でも揃ってるから、試したい放題なんだよ、お前ももう少し大きくなったら、王都に連れて行ってやる」


 王都には何が待ってるんだろう?それより、明日はその王都からの商人がやってくる確かに楽しいかはともかく、いい機会なのは間違いないか、存分に吸収してやるぞ~~~~!


「おやすみ、もう今日は疲れたし寝に行くよ、明日楽しみにしとくね!」

 嘘のような感情で自分の日常を隠しておやすみの言葉を2人に告げ、ベッドに倒れこんだ。疲れと共に意識が宙に飛んでいくようだった。

「いつかはあの子を連れていくの?」


 カティがトルコフの顔をじっと見つめる。それまで、何も彼についての教育方針を決めていなかったものの、少し最近の様子も考えて久々にトルコフの意見を聞きたいのだろうか、真剣な表情だった。


「育て方を間違ったなんて言わないが、あの子はそれなりにいろんなものを見たり調べたりしているんだろ?」

「ええ、でもそのほとんど、私の知らないところでいつも過ごしているもんですから、心配になって・・・」

「なに?いつも面倒見ている訳ではないのか?あ」

「あの子がどう言った子かもうだいたいわかってきたつもりだけど、少なくとも傍においておけるような可愛らしい部分なんてないわ」


 カティは別に王都へ息子を連れていくのに反対している訳じゃない。むしろ、他にもいろんなものがあることを教えてあげたがっている。


「あの子をもっと学べる環境に連れていくべきだわ、いつもいつも何かを探してはクタクタになりながら帰ってくるもの」


 トルコフも大変厄介な性格の人間だから、どうにも村に残したいと考えるが、どうやらカティの目を見て何か思いついたのか、深く考え込んでからこう言った。


「わかった、明日この件も踏まえてあの子と話してみることにするが、いきなりの王都域はダメだ。お金だったら多少区分してやれるが、いきなり王都に行っても当てがない。あっちの政治体制もちっと変わってきているんだ、ここ数年で」


 カティの知らない王都では何が起こっているのか、そんなことも知るはずがないが何となくで察したのだろうか、「まだ早い」とトルコフが言うと、少しガッカリしてから、直ぐに笑顔に戻る。


「そうね、なるべくあの子に負担掛けたくないし、ここに少しでも残ってくれるなら、それはそれでうれしいわ!」

「今はまだ無理だが、父さんに相談してみるか、手紙出したら良くて1年でこっち戻ってくるだろう、王都に行けなくてもある程度何とかなるさ」


「あなたのお父さん確か・・・・・・・・冒険者じゃなくて何してる人でしたっけ?」

「森の管理人だよ、なんていうか、結構変わってる職だっていろんな人から言われてるみたいだけど、私はそんなこと思わないよ、何ていうかすごく特殊な人ではあるけど、決して悪い人じゃないんだ」


 トルコフの顔を見て少し安心したカティは早速彼を休ませようと誘導した。


「そうですか、あなたもけっこうな長旅で疲れたでしょうし、もうおやすみになっては?」

「そうするよ、あぁ~~~と、そう言えば、ある商人から"これ"貰ったんだ」


 彼が袋から取り出して、片手に持っていたものは何かガラスのような入れ物だった。


「それなにかしら?おもしろい形をした入れ物ですね」

「これはワインさ、ぶつぶつ交換ってので、ちょっとね・・・・・・・後で飲もうと思って、どうかな?」


 カティは頬を赤らめて、コクリと頷いた。実際にカティの好物・・・・・・・・・というか、2人の好物だ。


「明日もいろいろありますし、早くあっちへ行きましょ、トルコフ」


 寝室に入って行った2人は、久々の温かみに心を許したのであった。

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