ーー書物から得た好奇心ーー

 運の良いことにちゃんと平凡の家庭に生まれた。そして、前世を忘れた。・・・僕の名前はカシア・フォノム。3歳になるけど、ここの言葉は大体覚えたと思う。お母さんだけこの村人は違う出身と言っていたこともあって村の皆とは少し違うということに最近気づいた。

 ここで1つ不思議だと思ったことがあるんだけど、同年代に見える子たちを全然外で見かけないし、見掛けたと思ったら全然会話が通じない。後で聞いた話なんだが父親のトルコフに聞いてみたら、どうやら自分は普通の子どもより発達が早かったらしい。


「ねえ、今週テスタ・ロコに行く予定なんでしょ?」


 母のカティは父に身支度の準備を手伝いながら何か頼んでいた。

 そう、この村もまた冒険者の少ない小規模の場所なのだ。明日には父は出発する予定だが、それよりもここ(家)に何があるのか知りたい。まずは家の中を探検することにした。「まあ、小さい頃は好奇心が強いものだ」と近所のじいさんに言われたのも、この気持ちはそうなのかもしれないと早くいろんなものを見て知りたいと無意識にそう感じ取ってしまっていたのだと思う。

 取り敢えず、地下にある棚をあさることにした。普通の庶民の家にしては本の数が多いのも、家が書物を扱っているということもあってか2階に入りきらない本やあまり価値のない本は地下室に置いてあると、父のトルコフがそう最近言っていたのを覚えている。


「ここかな?」


 地下室の扉を開けて奥に進む。中には何もあらず父は嘘を言っていたのだと思った。しばらくその中にあるものを見て回ることにした。

 幸い本がないだけで他の物品がいろんな場所に置かれていた。衣服から木で造られたお皿の様なものまで、何ら珍しいものでもなかったので、というか直感でそう思ったので、スルーすることにした。

 地下室は意外と涼しくそこで休憩することにした。地下という事もあって他の場所よりもひんやりしていて風がどこからか入ってきていた。


「あれ?隙間風?なんでだろうあっちの方から凄い風が吹いてくる。奥に何かあるのかな~?」


 なぜ途端にそんな単語が頭に浮かび上がったのかは、謎だが風の通るところに道があるんだと頭の片隅にこびりついていた。思った通りその場所に小さい隙間が見えた。幸い自分は小さかったので、難なく入れた。何年も使われてなさそうな部屋が倉庫とでも言うべきなのだろうか?


「トルコフは何でこんなに書物を持っているのに平民のままなんだ?」


 そんな疑問が浮かび上がった。これを売れば、もう少しは裕福な暮らしができるのに……。まあ、それは、人それぞれだということも母のカティから言われたっけ?

「幸せの形なんて、考え方次第だっけ?」


 なにも幸せに限った話じゃない。それだけで決めていないのだろうとなぜか勘がそう言った。取り敢えず、何があるか見てみることに・・・・・あれ、この本というかここ一体の本全部著者がない。なぜか著者という言葉が出てきたけど、違和感に思ったのはそれだけじゃなく、ジャンル分けされていない。全部の書物の場所がバラバラだったのだ。

 2つ目の方は別にどうでも良かったが、なにか気持ち悪い。いや、ただ単にこの家の1階がきれいだからだと思う。

 取り敢えず、本を一冊取って読んでみることに。


「何だこれ?地図かな、いや普通の地図だともっとちゃんと層ごとに別れてるはず・・・何か特有の場所かな?」


 知らない場所に困惑しつつも、次のページまたその次のページへと読み進めていく。これってもしかしてと思い最後のページをめくると――ダンジョンによるモンスターの分布――と書かれた短文が下の方にあった。


「なるほどね~だから、この地図メチャクチャだったんだ」


 地図には普通決まったマークのようなものがあるが、この本にはそれがない、たぶんそこが引っ掛かったんだろう。

 あっという間に夕方になった。5冊程度しか読んでいないけど、大体が旅人の歴史書だった。


「何であんな本を地下室に置いておいたんだろう?」


 疑問はそれだけじゃなかった。まあ、歴史の後々何かの役に立つと考えてそのまま置いている可能性もある。結局ぼくには関係ないからいいけど少し気になったこともあった。この近くにいるとされている山脈を巣としているモンスターだ。

 僕にはこの村の仕組みが理解できていないけれど、今の年でここまでできるんだ。できることを増やしていこう。何かに集中できる場所があればいいけど。

 そして、ここ1週間はひたすらにここにある本を読んでは寝て、読んでは寝ての繰り返しだった。ぼくは外に行きたかったのに母のカティはダメだと自分に言い聞かせた。それだけ外の世界は危ないのだろうか?それとも何か特別変な事でも?


「あら、おかえりなさい。何か収穫はあった?まあいつも何かあるわけじゃないけれど、偶にはさ~ほら?」


 父のトルコフが帰って来たもののイマイチな顔をしていた。自分の親というと・・・・・。


「父さんお帰り!父さんたちは何してるの?」

「家具とか部品とかを売る仕事よ、でも最近は全然売れ行きが良くないみたいなの。ってこの子に話しても無駄よね」


 母もまたこのよろしくない状態に困っていた。まあ、平民ならではのよくある問題らしい。


「何で売れないの?」


 素朴な疑問をぼくはぶつける。何もわからないことをわからないよりかは少しでも理解したかった。


「なぜ売れないか?う~ん、ちょっと難しいな・・・必ずしもこっちで売

 れた商品があっちで売れるとは限らないんだよ。ってカシアはまだよくわかんないか」


 そんなことを言われたが理解できないわけじゃない。何かあれば地下室で調べる。もう定着してきているのかもしれない。とにかく品のバリエーションが薄いことが分かった。特に父のような人物はどうでもいいようなものは集めてこない。

 つまり、要らないと決定的に思うものは商品として売らない。その部分はいいとして、毎年の商品として売っているものはほとんど同じらしい。

 確実にそれが原因だと感じた。だけど、この時はまだ黙っていた。言ってもどうにもならないことだからだ。この僕のいう事なんてどうせ聞いてくれないのだろう。

 ぼくは・・・どう過ごせばいいのだろう?


「でも、売れなくてもそこまで問題はない。お前のおじいちゃんが狩猟や採取をやっているからある程度は大丈夫なんだ」


 つまり自給自足の生活ができるのか?というかおじいちゃんって今家にいないけどどこにいるんだろう?


「まあ、今は売れなくても、いつか売れてくれば今の生活の足しになるから・・・・・それだけで十分なのよ」


 僕は今の暮らしが大変なわけじゃないと思う。でも、だからと言って自給自足で行けるのよと言われてもちょっと不安になった。

 次の日僕の最初の思い付きとして少し家の周りの草地を見に行くことにした。なぜなら、家にある文献だけでは飽きていたからだ。何もできないのに家の中に入り浸りというのは自分にとって窮屈だった。それに中の書物の大半はもう頭の中に深くこびりつくぐらい読んだ。だからこそだと思う・・・・・・・・外に出て実際に確かめたかった、僕の生まれついたこの環境を‼

 父トルコフについての職業を聞いた2日後の夜、近くの森に探検に出た。このことはもちろん母カティには黙っている。いざ、知らなかった未知の世界へ。


「ここどこだろう?周りが全然見えない。でも、とてつもなく風が気持ちいい!」


 やはり、家にいすぎで体験できなかった現象を今肌で体感している。五感を研ぎ澄ませ、自分の身は自分で守らなくてはならない。どのみち後の10年後にはそうなる。15歳で一般の市民は働くか何かしらの決断を迫られる。

 そう、母に言われ、それまでに僕はいろいろ経験しておきたい。その一歩が今のこれだ。でも、ただ外に出ただけでやるべきことが見つからない。暗くて木々の根元に何が生えているかすら分からない。僕はもう一度ここに来ることにした。


「父さんと母さんがいない間にまたこの場所に行くとして、何持って行けばいいんだろう?」


 書物の中に書いてあった魔術はまだどんなものか知らない。自分の扱えるものなのかな?取りあえず、小さい肩掛けの袋と果物ナイフを持って行くことにした。


「やっぱりお昼時は違うな~今日出れて本当に良かった」

 あれから4日後僕はお昼前にまた森にやって来た。今日は誰もいない。父は一つ向こうの街で商売に、母は村の一画にある畑を手伝って来ると言って朝方出ていった。どちらにしても、今日出れたのは良かった。天気はものすごくいいし、父さんも母さんも帰ってくるのは夕方くらいだ。

 だからこそ、今ぐらいしかない。じっくり探検できるこの瞬間を楽しみにしていたんだ。心がとてつもなく踊っているのがわかる。なぜだろうか、今なら何でもできそうなこの気持ちは・・・・・・・・・。


「誰だい君は?こんなところに子ども一人で来るようなもんじゃない、さっさと帰りな!」


 反対方向から木こりのおじさんに大声で怒鳴られた。まさか、何でもできるような気がしてきた瞬間に気分をどん底に落とされた。


「おじさんは何で木を運んでるの?」


 おじさんはキョトンとして「なぜそんなことをお前さんに教えなきゃならん?」と言いながら詰め寄ってきた。顔が真上に来るぐらいまでで止まるとこっちの顔を覗き込んできた。


「お前ひょっとしてこの村のガキどもか、前に悪さをしてゴブリンに食われて骨だけ残されてたのがあったが、また悪さをしに来たのか⁉」


 何のことかと思えば、人違いだったそれにしても僕ぐらいの年では森を見に行くことすら許されていないのか?


「僕この森には初めて来たんだ。」


 本当は二回目だ。でも、そうでも言わない限り疑うのをやめてはくれないだろう。


「だがな~森はそう甘いこと言ってられんのじゃ、取りあえずお前さん名前は?」

「カシア・・・カシアフォノム」

「お前もしかしてあのじいさん家のやつか!」


 一瞬ビックリしたけどどうやら僕のお祖父さんのことを知っているらしい。自分はお祖父さんとは一度も会っていない訳だが・・・。


「祖父ちゃんとは知り合いなの、僕祖父ちゃんに会いたくてこの森を出ようと思っていたんだ。」


 僕には今この言い訳しか思いつかない。一番いいのがおじいちゃんに会うためだという事で決して好奇心で動いたんじゃないとわかってもらう事が大事だった。 でもそんなことは通じずに・・・・・・・・・。


「いや、お前さんが森を抜けようとどこにいるか今はわからんよ。それにどうせ外の世界に興味があったから来たんじゃろ?その証拠として短剣がある。普通はな・・・お前さんぐらいの年のヤツはそうそう森には出たがらんのだよ」


 首を傾げるも木こりのおじさんにはこれまた怪しまれた。


「だいたい、お前の母ちゃんや父ちゃんは今はまだ森に一人で来てはいけないと言わなかったのか⁉」

「あぁ、そうだよ・・・・・・・自分一人で取りあえずこの森を探索しに来た、っでおじさんはどうするつもりなの?」

「はは!やっと素直になったかい。でここへは何しに来た?目的がなければこんなところへは来ん」


 素直にはしたがここからどうすればいいか?これ以上おじさんに絡まれるのもいやだし帰ろうか・・・・・・いや~たぶん、告げ口してくるだろう。ここはおじさんに何もなかったことにしてもらおう。できればの話だけれど・・・・・。


「あのさ、ある薬草を探してるんだけど、ちょうどここら辺に生えていてでも本の知識だけじゃよく分からなくて・・・・・・どうしてもその薬草が知りたくて後、何で森に入っちゃいけないのかも・・・」


 木こりのおじさんが真剣な表情に変わっていく。


「この年でやることじゃない、代わりにわしが採ってきてやるからおとなしく待ってろ。物音立てるなよ、後今日の事は水に流しといてやる・・・あの祖父さんに誓ってな、なぜ入っちゃいけないのかもその時話してやる」


 少しの間待った・・・・・・・・・・この借りはどこかで必ず返す、僕はそう心にとどめて安全地帯である村に移動した。

 夕方ごろ木こりのおじさんが帰ってきた。それはもうご乱心の様子で最近の森は魔物が多いだの独り言をボソボソと呟いてこっちに向かってきた。


「おい、ちゃんと大人しくしていたんだろうな?」

「まあ、何もすることのない一日になったけど、一様待ってたよ」


 腰に入れていた袋を取り出し僕の胸もとに当ててくる。


「お前さんが探していたのはこれか?基本的な薬草の塗り薬などで疲労回復に使う・・・こんなもののためにどうして森に入ろうとした?」

「僕の探求心がそうさせた!」


 こう言っとけば、少しはおもしろい小僧だと思ってくれるかと思ったが、逆効果だったらしい。


「生意気なガキだッ!どうせ、同年代の奴に森に入っていろいろできるんだと自慢したかったんだろ?」


 なんと軽蔑の目を向けられているのだろうか、そんなことをしようと思ったこといや考えたこともなかったが僕の中にある突然浮かんできた言葉を彼に伝えた。


「基本的な事でもまず知ることが大事なんだ、知ること自体早いに越したことはない・・・」


 木こりのおじさんは死んだらどうにもならないとだけ、そう静かな口調で言った。


「死ぬかもしれないけど、そんなこと考えても人生楽しくないと思うけどな~僕は」


 誰かにひどく心配されることで初めて自分というものを見つけれた。これは・・・何というか・・・・・心地よい感覚だ。


「でも、心配してくれてありがとう、今度から気を付けるよ。後・・・・・・・」


 おじさんは一瞬首を傾げたがすぐに何のことか察してくれたようで「母親には黙っといてやる」と言って森で拾ったと思われる資源をリュックの中に片付けて急ぎ足で歩き出した。


「これからは気を付けろ、次はもう言わんからな!さあ、村へ戻れ・・・・・・・・・・成長が楽しみだろ、レノ」



 最後の一言だけボソッと言ってその場を立ち去ってしまった。

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