国外追放と船の上Ⅲ

 リリスはカーティスと話していた。カーティスの苦手なものが多すぎ問題についてだ。

「カーティス。私は苦手なものがあってもいいと思うんだ。実際,私だって嫌いなものとか苦手なものとかあるしね」

 リリスにそう言われたカーティスは,少し気まずそうに笑った。

「けどね。流石にあの程度のホラー映画で腰抜かすのはどうかと思うんだよね」

「はい……」

 リリスは説教の時間に入ろうとしていたが,カーティスが萎えているのを見て,話そうとすることを変えた。そして,リリスの周りに魔法陣が現われた。

「カーティス,貴方の嫌いなものを言ってみて」


 リリスにそう言われたカーティスは素直に嫌いなものを言っていった。

「野菜と,味の薄い食べ物と,虫と,ホラーと……あと人が多いところかな?」

 彼がそう言うと,リリスは魔法陣から味の薄い食べ物が出てきた。そしてリリスは【死霊操作(ネクロマンシー)】を発動させた。

「リリスが船に乗る前に発動させたときは大丈夫だったけど…近いと怖い!」

 カーティスは逃げようとしたが,腰が抜けていたので逃げることが出来なかった。


「【施錠(ロック)】っと後は…【防音結界】!」

 リリスはドミニクとの戦闘時に使った魔術を使用した。【施錠(ロック)】は指定した距離の鍵を閉じることのできる魔術だ。

「はいっ!死霊と仲良くなって味の薄い食べ物を食べれるまで出れない部屋ー!大丈夫だよ!私も協力してあげるから!」


 カーティスは部屋で全力で叫んだが,【防音結界】によって部屋の外の誰にも聞こえないようになっていた。


 * * * 


 リリスが『死霊と仲良くなって味の薄い食べ物を食べれるまで出れない部屋』を始めてから一時間が経過した。カーティスは味の薄い食べ物を食べれるようにはなっていたが,どうしても死霊と仲良くなることはできなかった。


「うーん…じゃあ話すだけにしてみる?」

「無理です…怖い…」

 リリスは少し不思議そうな目でカーティスを見た。

「えー。死者の国(ヘルヘイム)では死人を直視できてたし,なんなら話もできてたのに…違いは何だろう?」

「見た目が全然違うんだよ!?死者の国だったら生きている人間みたいだったけど…ほら!あの死霊は血まみれじゃん!絶対に悪霊だって!」

「うーん…」

 少し悩んだリリスは,ヘルと通信できることを思い出して詠唱を始めた。

「死の世界と生の世界を繋げよ!【通信】!!」


 リリスがそう言うと,ヘルとゲーヘナが写った映像が映し出された。

『やっほーリリス。半年ぶりー』

「ねえ。突然で申し訳ないんだけどカーティスのホラー嫌いを克服させたいの」

 リリスがそう言うと,ヘルは快く承諾してくれた。

「じゃあ,カーティス君を映像の前に連れてきてー」

 そう言われたリリスは,カーティスを連れてきた。

「カーティス君,死者の国の人と現世にいる死霊は何が違うか,分かる?」

「……成仏しているかしていないか?」

 カーティスがそう言うと,ヘルは言った。

「そうそう!成仏したら生前の傷とか消えるんだけど…地上を彷徨っていたらそういうのが無くならないんだよね」

 ヘルはそう言って再び話し始めた。

「で,怖くなくなる方法?うーんと…死霊の前で手を合わせるとかかな?生きている人間が手を合わせてくれると少しは傷が治るらしいから」


 ヘルにそう言われたカーティスは霊の前で全力で手を合わせた。そうすると霊は呻(うめ)きながら消えていった。

「まあ,安全な霊にはそれで通じると思うよ」

 そして,リリスが疑問に思ったことを言った。

「カーティスってなんでそんなに幽霊が怖いの?」

「……僕だって元々はそういうのが大丈夫だったんだけど…小さい頃に死刑囚が入れられていた塔に行ったことがあって,そこで首を絞められて塔から落とされそうになったんだよ…」

 ホラー映画で腰を抜かすほど幽霊が怖い理由としては納得のものだった。

「あー…なるほどね?それは怖くなるよねー」

 リリスはそう言って少し申し訳なくなった。

⦅まさか本気(ガチ)の幽霊に襲われていたなんてね…⦆


「まあ,現世に留まっている霊も死者の国を見つけられていないだけだからねー。悪い霊もいるけどいい霊もいるってことは覚えておいてねー」


 ヘルがそう言うと,通信が切れていた。ヘルと会話をしたカーティスは少し幽霊に対して前向きになっていた。

「話せるくらいにはなっただろうし…【解錠(アンロック)】っとー」

 リリスが解錠の詠唱をしたことでドアが開けられるようになった。しかし,カーティスは一向に外に出ようとしない。

「カーティス?もう出てもいいんだよ?」

 リリスがそう言ってもカーティスは首を振るだけだった。


「どうして出ようとしないの?」

「まだ夜だし…さっきの霊のせいで…また歩けなくなっちゃった。あと眠れないんだよね」

 リリスは呆れながらも,カーティスに付き添うことにした。


「リーリースー!朝だよ?朝食が食べられなくなるよ」

 リリスが目を覚ますと,隣にはカーティスがいた。起こしてくれたのだ。


「リリスが寝坊しかけるって珍しいね。なんかあったの?」

「なんでだろう…けど眠れなかったんだよね」

 そう言うと,カーティスはくすくす,と笑っていた。

「なんで笑っているのよ」

「いや,もしかしたら幽霊が怖かったんじゃないかなーって」

 カーティスがそう言うと,リリスは彼を半眼で見つめた。

「……貴方じゃないんだからそれはないよ。あっ私あっちで着替えてくるからー。入ってこないでね」

「了解ー」


 リリスは着替えながらなぜ眠れなかったのかを考えていた。

⦅なーんで昨日の夜は眠れなかったんだろう⦆

 そして昨日の夜にあった出来事を洗いざらい出してみた。

⦅えーっと…ヘルと話して,カーティスが寝るのを確認してから寝た…あっこれか⦆

 リリスはカーティスが寝たのを確認してから寝るはずだったのだが,カーティスの寝顔が愛らしくて寝ようにも寝れなかったのだ。そんなことを考えているうちに,リリスの着替えも終わった。

「カーティス,出てもいいー?」

「いいよー」

 リリスとカーティスは,部屋から出て朝食会場へ向かった。

「おいしそー!」

「「いただきます」」


 朝食を食べていると,放送が流れてきた。

『えー。皆様,ただいまは食事を楽しんでおられるかと思いますが報告させていただきます。あと二時間後には目的地である霧の国・マジェスティアに到着します』

「次の国は霧の国なんだねー」

 カーティスがそう言うと,リリスは少し困った顔をしながら考えていた。

「どうしたの?」

「いや,学校の教科書で習った通りだとものすごい困ってしまうことがあるんだけど…」

「何が?」

「じゃあさ,カーティス。マジェスティアについて知っていることを言ってみてよ」


 リリスにそう言われ,カーティスは知っている情報を言っていった。

「うーんと…まずは女王が統治している国で,ロイ共和国とまではいかないけど貴族社会の国で,創世教が国教で…魔力が多い人間は魔女と見做され処刑される…あっ」

 カーティスは気づいた。

「そう。マジェスティアは女王より魔力が大きいと魔女と見做されるのよね。あと貴族以外は国内で魔術を使っちゃだめだし」


 食事が終わり,部屋へ戻る途中にリリスはカーティスに聞きたいことを思い出した。

「カーティス。そういえばさ,創世教の人が追ってこないんだけど…結局どうなったの?」

「あぁ。なんかあの後に天使が指名手配するなとか言ってくれたり…父上が創世教に圧力をかけてくれたんだって」

⦅国王陛下が…まあカーティスが追われる身になったら国際問題に発展しかねないものね⦆


 部屋に戻り,くつろいでいると船長からの放送が流れた。

『あとおよそ十分でマジェスティアに到着いたします。部屋の中に忘れ物をしないよう,ご注意ください』

「…いよいよだね」

「そうだね。どんな国なんだろう」

⦅心配すぎるー!入国して早々に処刑とかされないといいけど…⦆


 船が港に泊まり,下船の準備をしていた時,ジェイクに再開した。

「はろー!突然だけどリリスさんは大丈夫そうなの?図書館で見たよ。女王よりも魔力が高い人間は処刑されるんだって」

「そんなの知ってるよ!……何とか隠し通すしかないね」


 リリスは覚悟を決めて,船を降りた。

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悪役令嬢は国外追放で旅をする 駱駝視砂漠 @TaroSab

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