国外追放と船の上Ⅱ
夕方の六時まではまだ時間があった。リリスとカーティスは船の中を探検することにした。
「よーし。船の中を探検するぞー」
「リリスはノリノリだね。子供の時もこういうことしていたの?」
「まぁ…ローゼンタールを出て,魔物を狩ったりとかね。そういえばあそこで【魔力分散】の魔術書を手に入れたんだよなぁ…」
「遊びが危険すぎる…」
カーティスが軽く引いている。王族にとっては探検などしたこともないのだろう。もちろん公爵令嬢のすることでもないのだが。リリスは幼い頃を思い出した。
⦅探検もしたし,魔物とも仲良くなったし…そういえば男の人に誘拐もされかけたなー。もちろん殺したけど⦆
えげつないことを考えておるとは知らず,カーティスはぼんやりしていたリリスに話しかけた。
「なーに,ぼーっとしているの?」
「わっ。えっと…カーティスって小さい頃は何をしていたのかなー…って」
それを聞くと,カーティスは少し笑った。
「ふふっ,なんだそんなことか。歩きながら話すよ」
そう言ってカーティスは歩き出した。リリスは置いていかれないように少し速く歩いた。
「で,カーティスは小さい頃何をしていたの?というか旅を始めるまで何をしていたんだい?」
「僕はリリスより平凡に過ごしていたよ。まあ暇すぎて近くにあった王立図書館の本を読破したんだけどね。それから……」
「いや待って。あのさ,一個目から衝撃なものを入れてこないで?ところで城の近くの王立図書館ってあそこしか考えつかないんだけど…本当に『あそこ』の本を全部読破したの?」
リリスの言っている『あそこ』とは世界でもトップクラスで蔵書数が多い図書館のことである。カーティスが子供の時代にはおよそ千万冊の本があった。現在ではさらに増えて千四百万冊になっている。
「それは学園に行かなくてもいいわね…何年で読み終わったの?」
「十年だよ。五歳の時から通ってて読破した時にはもう学園に入らなくていいって言われた。あっ,けど魔術書は情報量が多すぎて読めなかったんだよね」
「まあ千万冊の中にはとてもすごい魔術書もあるだろうから…」
魔術書は特別な力を持っている。魔術書を読んでそれを応用すれば強力な魔術を使えるのだが,それを読むと,一気に魔術書の情報が入ってくるのだ。
魔術書にも魔力が宿っていて,魔術書の魔力量よりも少ない人が読むと,発狂したり記憶喪失になるのだが,魔術書よりも魔力量の大きい人は読めるようになっているのだ。
「リリスはあの図書館だと何を読んでいたの?」
「私は魔術書を読んでいたよ。周りの大人の人にジロジロ見られたけど」
そう言うと,カーティスは苦笑いをしていた。
「そりゃあ,そうだろうね」
魔力というものは,年と共に増加していくのだ。また修行や訓練などでも魔力を増やせるようになっている。幼い頃に王立図書館にある魔術書が読めたということは相当すごいのだと後で教えられた。
二人がそんな話をしていると宿泊の部屋が集まっている船の二階から三階へ上がっていた。
「広ーい!ここの階にはどんなものがあるんだろう?」
「想像だけど……植物とかが飾られているんじゃないかな?後は…入ってみてのお楽しみってことで」
ドアを開けて入ってみると,自然豊かな景色が目に入って来た。左右には植物園,中央には豪華な噴水があった。
「豪華だねー!リリス,ついてきて」
カーティスがリリスの手を引き,奥の方にあるバラ園に行った。カーティスは植物観察が大好きだったので,とても嬉しかったのだ。
「カーティス,すごい嬉しそうだね」
「うん。うわっ見て!あれが世界最初の植物の種類なんだよ」
「へぇー」
⦅カーティス…可愛いな。もうちょっと顔を見ていたい⦆
リリスがカーティスの顔をじっと見ていると,彼はそれに気づいて首を傾げた。
「どうしたの?僕の顔をそんな見て」
「いや,植物のことを語っているカーティスの顔が珍しいし可愛かったから見ていただけ」
「えっ……?」
リリスがカーティス瞳を見ていると,明らかに視線が泳いでいた。それを見て,リリスは昨日のお返しに少しいじってみることにした。
「顔が赤くなるほど植物が好きなんだね。もっとその表情を見せてよ」
「……分かっているでしょ。リリスの意地悪」
そんなことを話しながら二人の後ろからやってくる人間がいた。
「わーおー。どうやら二人は俺がいない間にこんなに仲良くなっていたんだー。そのなんていうか……付き合っているの?」
そう手を振りながら言ったのは,ジェイクだった。
「リリスさんも,カーティスはクールぶってるけどかまってちゃんだから。よろしくね」
「僕はクールぶってないしかまってちゃんでもないから!」
カーティスが全力で否定すると,ジェイクは笑っていた。そうして,植物園で少し話しているとジェイクは「二人の邪魔になるからー」とどこかに行ってしまった。二人も次の階に移動することにした。
「そういえば劇場って船の何階だったっけ」
「えっと…六階と七階らしいよ。世界初の船上ミュージカルなんだってー」
「じゃあ……船上を見ながらミュージカル劇場に向かおう」
二人がしばらく階段を上がっていると,『 Floor4 』という文字が見えてきた。
「カーティス,次の階には何があるか予想してみよう!」
「いいね。そっちの方がわくわくするし」
二人以外誰もいない階段で次の階に何があるのかを予想した。少し考える時間を設けて推理した。
⦅うーん……三階が自然を意識していたけどどんな意図があったんだろう?わかんないから元の世界でいうショッピングモールみたいな感じで…レストランとかかな?⦆
二人は考え終わって,予想を一緒に出すことにした。
「「せーのっ」」
「レストラン!」
「美術館!」
「見事に分かれたねー。カーティスが美術館だと思った根拠は何?」
「うーん。植物を飾っていたから芸術の延長線じゃないかなって思った。リリスは?」
「……ごめんだけど何となくだよ」
そういったリリスはドアに手を掛けた。
「それじゃあ答えはー?」
そう言ってリリスがドアを開くと,色々な店が並んでいた。有名なお菓子屋や宝石などの店がずらりと並んでいる。リリスは元の世界のショッピングセンターなどで見慣れていたが,図書館以外でほとんどで歩いたことのないカーティスはとても驚いていた。
「わぁ。こんなに沢山のお店がある……!」
「私はこんなところ見慣れているんだけどね?」
リリスは少し見栄を張ると。カーティスが純粋な目で見てきた。
「……案内して!」
「カ,カーティス?取りあえず,事あるごとに可愛くなっちゃうのをやめよっか。私がカーティスのことどんどん好きになっちゃう」
「ふふっ,僕のこともっと好きになってよ」
⦅カーティスが,眩しい……!可愛いしかっこいいし,優しいし…⦆
「笑顔は暖かいし,私のことを励ましてくれるし,そういうギャップが大好きなんだよね」
「リリス,多分心の声が漏れてるよ」
いつの間にか心の声が漏れていたリリスはカーティスに指摘されて焦った。
「わぁっ。カーティス,聞かなかったことにしてね?」
「うん?一生忘れないし永久保存だよ。そんなに僕のことが好きだったなんて…」
「うるさい,うるさい!とりあえず忘れるの。三,ニ,一…はいカーティスは忘れましたー!」
「そういうことにしておこう。リリスが焦っているのを見るのも楽しいけど笑顔が一番だからね」
そう言ってリリスとカーティスはショッピングセンターを回った。この船での思い出として,船の写真や船から見た花火のポストカードを買った。
そして時間が過ぎてあっという間に夕方の六時になった。
「ミュージカルが映画に変更になったんだって。見る?内容は見る時までわからないらしいけど」
カーティスが尋ねると,リリスは首を縦に振った。それを見るとカーティスは微笑んだ。
「それじゃあ席をとろうか」
六時になって映画が始まった。しかし,リリスが予想していたような明るい映画ではなく,女性が暗い屋敷を歩いている映像が流れた。そしてリリスは気づいてしまった。
⦅あれ?これって恐怖(ホラー)映画だよね…多分⦆
リリスは怖いものに全然ビビることがないので何が怖いのだろうと思っていたが,カーティスはリリスの左腕に抱きついてきた。
「(僕怖いのが苦手なんだよぉ…)」
⦅確かにカーティスは怖いのが苦手なんだよな⦆
見始めてから三時間。ようやくホラー映画が終わった。
「カーティス,部屋に戻ろっか」
「……」
「カーティス,どうしたの?」
「えっと…腰が抜けて歩けなくなっちゃった」
リリスは半分呆れながらもカーティスを抱き上げて泊まっていた部屋に連れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます