国外追放と船の上

『皆様ー。本日はヴェルヌ号へ登場いただきありがとうございますー。この船での旅は二泊三日となっております。少し長い期間ですがよろしくお願いします……』


 リリスはその放送を聞いて船に乗ったことを実感した。

⦅私は前世でも船には乗ったことがなかったなぁー。あれ……?そういえば私って乗り物酔いがひどいから…船とかまずいのでは!?⦆

「そう考えると吐き気がぁぁぁ…」

「リリス大丈夫!?とりあえず部屋を決めよう?」

「うん。えっと,空いていた部屋は二つだね。それじゃあくじで決めよっか…うっ」


 リリスは虚空から木の枝を三つ取り出した。

「えっとこれを折って…赤ペンで一つの棒にだけ印をつけるっと!」

 これを二人の前に差し出した。

「これは…?」

「カーティス,多分これはくじだよ。赤ペンで印をつけた人だけが一部屋を占領するってことかな?」

「そういうことー。それじゃあいっせーので見るよ」


 リリスはそう言った。

「じゃあ,僕が言うね?いっせーのでっ!」

 カーティスがそう言った瞬間に三人が覗いた。


「えっとー?やった!リリスと一緒だ!」

「本当?私も嬉しい」

「リリスからついに『ツン』の部分がなくなった!?リリス,重要な話があるんだけど…」

「なあに?」

 リリスが尋ねると,カーティスは顔が赤くなった。

「どうしたの?言いづらいことだった?」

「…………リリスが大好きなんだ。僕と付き合って!」


 それを聞いたリリスは首を傾げた。

「なんで私が好きなの…?カーティスって王子だからもっと魅力的な人いるよ?」

 そう言ったリリスだが,その意見をカーティスが瞬時に否定した。

「僕にとってはリリスが一番なんだよっ!一番最初に見たときの笑顔と,行動がいちいち可愛いのとかツンデレなところとか,優しいし…そういうところが大好きなんだ!!」

 カーティスの告白を聞いたリリスは理解するのに少し時間がかかり,三秒するとみるみるうちにリリスの顔が赤くなっていった。そして,船酔いの事も忘れ,屈(かが)んでしまった。

「ふぇっ!?あ,えっと…そんなにカーティスは大好きなの!?」

「うん!好きなところなら百個は挙げられる!!」

「……っっっ!?」

「あれー?リリスさん照れているの?」


 リリスは照れているのをジェイクにいじられた。

「……分かった。けど,カーティスと二人だけの時に話させてね?」


 二十分くらいたつと,船長から揺れの収まったので自由に行動してもいいという放送があった。リリスは,嬉しそうにビュッフェの会場へ行った。もう夕食の時間になっていたのだ。

「ふっふふーん。ご飯,ご飯!」

「リリスは夕食が楽しみなんだね」

「ふぇっ!?たっ,楽しみだね!」

⦅完全に動揺してしまったーー!⦆

 動揺しているのに気付いたカーティスは無邪気な笑顔で言った。

「リリスー。動揺している?なんでそんな焦っているの?」


 それを聞いたリリスはさらに焦ってしまった。それから,カーティスと目を合わせることが出来なくて,いじられたのであった。

「あーっと。二人だけの世界に入っているみたいだから俺はとっとと失せるよー……」

「待って待ってジェイクさん!」

⦅このままだとカーティスと気まずい空気になっちゃう!⦆

 さらに焦ったリリスは,一気にご飯を食べてしまった。船酔いもあり,吐き気はさらに酷くなった。それを見たカーティスは心配そうな目で見つめてきた。

「大丈夫?部屋に戻る?」

「……うん。そうする」


 リリスはカーティスに付き添ってもらい,部屋に戻った。そのタイミングでリリスは吐き気を我慢しながら話し始めた。

「カーティス,あのさ…」

「どうした?」

「え……私もカーティスのこと好き!!」

 俯(うつむ)きながらそう言ったリリスは前を見てみた。そしたら,カーティスが驚いていた。顔は少し紅潮している。

「それは…つまりOKってこと?」

 リリスは頷く。すると,カーティスがいきなり抱きついてきた。

「えっ,どうしたの!?」

「嬉しいんだよ。リリスはOKしてくれないって思っていたから…」

「カーティスが魅力的だからだよ。カリヤルみたいな人だったら絶対にOKしてないから。絶対に」

「今考えると弟の元婚約者と付き合っているんだよなぁ。変な感じ」

 二人は笑っていた。幸せそうに笑っていた。

⦅カーティスの笑顔が眩しい……!⦆


「そういえばリリスの船酔いは大丈夫なの?」

「うん。酔い止め飲んだから」

⦅もう船酔いのことは考えなくていいし…もっと話したい!⦆


「カーティスは兄弟と仲良かったの?」

「うん。兄さんとは結構年齢が離れているけどそこそこだったし,カリヤルとはとても仲が良かったよ」

「へぇー」

 リリスはカーティスから家族の話や趣味の話を聞いたりした。

「僕達が結婚するって言ったら父上は賛成してくれるかな?」

「結婚!?」

 リリスは動揺してしまったが,すぐに普段の態度に戻った。

「うーん…あの国王のことだし良いって言ってくれるんじゃないかな?」

「本当?」


 カーティスは嬉しそうにそう言った。それを見たリリスは彼の尊さで悶えていた。

「カーティス…尊(とうと)すぎて死んじゃいそうだから…その眩しすぎる笑顔やめて?」

 そう言うと,カーティスは笑顔から真顔になった。

「そういえばカーティスって学園に行ってなかったんでしょ。どこで勉強を教えてもらっていたの?家庭教師?」

 カーティスは首を横に振った。

「違うよー。城の中にある本で知っているだけ。つまり独学なんだよ」

「それは第一王子も同じなの?」

「いいや。王族は政治の仕組みなど学ぶためにあの学園に通わないといけない。けど僕は行く必要がないって判断されたから。だから色んな人に『存在しない王子』とか言われていたりするのかな」


 そんなことを話していると,夜になっていた。しかし,二人はそんなことには気づかず,話し続けた。

「リリスがずっと質問していたから僕からも質問いいー?」

「いいけど」

 リリスがそう答えると,カーティスは質問をした。

「なんでリリスは国外追放のとき嬉しそうにしていたの?」

 それを聞かれたリリスは目を丸くした。

「えっ…そんなの周りの人が嫌になったからに決まっているでしょ?親もマリアと妹のサロメしか気にかけていなかったし。友達もマリアに洗脳されちゃうしさー」

「えーっと…どんまい?」

 カーティスに謎の励ましをされたリリスは窓を見た。

「っていうかもう日が昇りかけている!?そんなに話したっけ」

 それを聞いたカーティスは提案をする。

「じゃあ少しの間だけど寝る?」

「そうだね。寝不足は船酔いの原因にもなるし」


 そうして二人は少しの間寝ることにしたのだった。

 二人が目を覚ますと,完全に日が昇っていた。リリスが時計を見ると,朝の八時だった。

「起きるかー…」

 目を擦りながら,布団を畳んでいると,放送が聞こえた。内容は,船上での演劇だという。

「えーっと,なになに…?夕方の六時からだってー」


 そこで二人は相談をした。

「面白そうだし行ってみない?」

「いいよー」


 そして劇が開演する六時まで,船の中で暇つぶしをすることにした。

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