国外追放で決闘する
二人の短剣から火花が飛び散った。ドミニクは押されていたので,状況を戻すため,後ろに下がった。
「リリスさんは意外とやるねぇ…。あの師匠の一番弟子なのに」
「私だって元は公爵令嬢だったけど親にされていた仕打ちは使用人より酷かったからね。ちなみに暗殺術は私の魔術のついでに学んでいただけだからね」
そう言いながら,ドミニクの銃弾を避けた。
「銃弾はずるいって。短剣だけじゃなかったっけ」
「いやいや,リリスさんが魔術を使わないって言っただけで僕は何も言っていない」
二人の白熱した殺し合いもリリスの【防音結界】のおかげで外に音が漏れることはなかった。
リリスは彼女の隣にあったイディットの部屋を見ながら言った。
「今,イディット様を暗殺してもいいんですか?」
そういうと警備員(ボディーガード)であったはずのドミニクはあっさりと答えた。
「僕はいいと思うよ。したいなら先にしていってー?集中して殺し合いをしたいから」
「……まあ嘘だけど。人を殺すのがあんまり好きじゃないからね」
「僕もだよ。一般の人を殺すのはあまり好きじゃない。自分と同等の実力を持つ人と闘うのが大好きなんだ。」
「……この戦闘狂が」
リリスがそう言うとドミニクが笑いながら弾丸を撃ち,短剣を投げつけてきた。リリスはそれを避けると素早くドミニクの前に移動して短剣で斬りかけた。
⦅少しは攻撃しておかないとっ⦆
ドミニクはそれを自分の短剣で押さえつけてかがみ込んでリリスに蹴りを入れた。
「うぐっ……」
⦅もう日が昇りかけている…早く決着をつけないと⦆
リリスはとりあえず後ろに下がり,後ろにあった短剣をとった。
「やるねぇ。僕相手にここまで善戦できるなんて」
「私も決闘では負けたことがないからね」
少しの沈黙の後,二人は同時に動き出した。リリスはドミニクに接近を試みるが,彼はそれよりも速くリリスに短剣を突き刺した。
「痛っ…うぅ」
「流石に本職が殺し屋の人間には負けるだろうよ」
ドミニクがそう嘲笑(あざわら)いながらリリスに近づいた。
「それじゃ。地獄にでも行っておいて下さいっと」
ドミニクがリリスの首に短剣を添えた時,リリスが笑みを浮かべた。
銃声音が廊下の中で響いた。
ドミニクが自分の体を見ると,腹に弾丸が捩じ込まれていた。
「私は卑怯だからね。演技して近づけることくらい簡単なんだよ」
リリスはドミニクが近づいた瞬間に隠し持っていた銃を取り出して撃ったのだ。
「卑怯だな…これさえなければ勝てたのか…」
そう言ったドミニクは倒れてしまった。そして言った。
「決闘はお前の勝ちだ。早く…僕を殺せ」
「言ったよね?私は人を殺すのが好きじゃないんだ。ドミニクだっけ?貴方もこの国から出ていった方がいいよ。ここの貴族は質が悪い」
そしてリリスは思い出したように付け足した。
「貴方の傷はカーティスに治してもらうから」
そう言うと,リリスは立ち上がり,【防音結界】を解除してカーティスのいる部屋へ向かった。
「ふぅ。うっ…やっぱり腹を刺されていたか。ポーカーフェイスで何とかしていたけどやっぱり痛い…」
リリスも無傷な訳がなく,案の定ドミニクに刺されていた。
「ここがカーティスの部屋…よしっ!」
リリスが覚悟を決めて入ると,カーティスがベッドに座っていた。
「カーティス?寝てなかったの?」
「うん。なんか寝れなくてね」
見ると,カーティスは少しやつれていた。おそらくストレスでろくに眠れなかったのだろう。
「カーティス,今すぐにこの城を出る準備をして。ジェイクさんが馬車を用意してくれているはずだから」
「うん。なんとなく来るのはわかっていたからもう準備は終わっているよ」
それを聞いたリリスは微笑んだ。
「ありがとう。あ,廊下に怪我人がいるから【回復(ヒール)】してくれないかな?」
「うん,いいよ」
二人は部屋の外に出て歩き出した。
「あっ,この人が怪我人だね…ってドミニクさんじゃん」
ドミニクを見たカーティスはすぐに気づいていた。
「えっ,知っている人なの?」
「うん。僕の護衛の人だったよ。大方,護衛より見張りの方が正しいと思うけど」
そう言ってカーティスはドミニクに近づき【回復(ヒール)】を十数回した。
「はぁ…あぁ,カーティス様ですか。城の出口はあっちですよ」
「見張りだったと思うんですけど…あれ?」
「貴方の隣にいる人に負けたんですよ。彼女,相当カーティス様のことを大切に思っていますよ」
そう言われてカーティスは隣にいるリリスを見た。
「学園に魔術を極める時間はあっても格闘技とかを極める時間はなかったと思うんだけど」
「魔術のついでにやっていたのよ。魔術が使えても運動神経が悪かったら戦闘には向かないだろうしね」
「……あのさ,触れないようにはしていたんだけどなんでリリスの髪はそんな風に斬られているの?」
「僕が不意打(ふいう)ちで斬りました」
「なんでそうなった!?」
カーティスが大声でツッコミを入れてしまった。その声で城の五階にいたイディットは起きてしまった。
「カーティス君!?どこにいるんだ!」
「うわ…まずいですね。とりあえず隠し通路から城を抜けましょう」
ドミニクはそう言って壁に見えていたドアを開けた。
「ドミニクさんはこれからどうするの?」
「僕はこの国を出て,祖国に帰るよ」
隠し通路から城を出た三人は全力で走った。
「はぁ,はぁっ…もう少しでっ,ジェイクさんの馬車に着くっ!疲れたっ」
「なんで走るのは疲れるのに長時間の戦闘は疲れないの!?絶対に走る方が使うからね!?」
「………二人はとてもお似合いだと思いますよ」
ドミニクは笑っていた。
「それでは,僕はここで別れますね!」
「お元気で!!」
急いで走ってジェイクの馬車に乗ったリリス達は慌てて国を出発した。
「わっ!巨大な壁があるんだけど!どうする?」
「そんなの…私にかかれば簡単だよ!【貫通】!!」
リリスがそう言うと,壁が砕け散ってしまった。
「ごめんなさい!けど弁償はしません!」
そのまま三人を乗せた馬車は走っていった。
* * *
馬車を走らせてから三時間が経った。
その間に三人は有害な魔物を狩って換金したりしていた。
「海と船が見えるね。あれに乗ってしまえばもう追って来なくなるんじゃないかな?」
「というかまだ追ってきてんの?しつこいね」
リリスはそう言ってある魔術を発動させた。
【死霊操作(ネクロマンシー)】
それは禁忌とされる魔術。そして高い技術を持たないとできないものだった。
「もうこれで追ってこないでしょ」
「たかが追っ手から逃げるためだけに禁忌を使うなんて…」
カーティスは呆れていたが,リリスの知ったことではない。
「そういえば切れた髪どうするの?そのまま?」
「うん,そうだね。少しイメチェンって感じで…どうかな?」
リリスは髪を触りながら言った。
「似合っているよ」
とカーティスが笑顔で言った。
リリスは死者の国(ヘルヘイム)で買ったカーティスとお揃いのキーホルダーをイアリングにした。
「片方だけでいいの?」
「うん。これもおしゃれだと思うんだよね」
「あっ!船に乗ろう!万が一追ってきていたら面倒くさいし」
三人は船に乗り,到着地である島国へ向かった。
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