国外追放で侵入する

 リリス達は二日目をホテルで過ごして三日目に入った。

「あと一日ここを耐え凌げば…」

「教会のリリスさん側の人が何とかしてくれるって言ってたよね」

「うん。けどカーティスはそうはいかないかもしれない」

「どうして?カーティスは追われる身ではないと思うんだけど」


 ジェイクはなぜ何とかならないのかをリリスに尋ねてみた。

「カーティスは王族なんだよ?こんな平民と一緒に旅をするのを許すと思う?」


 ロイ共和国の国王であるイディット・ロイは貴族と平民の明確な差別化を行っている。これは自他ともに認めていることだ。

「じゃあ,カーティスはもう旅について行けないの?」

 ジェイクは本気で泣きそうな表情をしていた。友達がこんな国にとどまることが不安だったらしい。リリスは少し考えて,アイディアを出してみた。

「…いや,そうではないかも。少し危険を冒す必要はあるけどね」

「どういうこと?」


 ジェイクがそう言うとリリスは無邪気な笑顔を見せた。


「ふふっ,王城に忍び込めばいいんだよっ」

 少し__といっても三秒ほどだが__の沈黙があり,最初に声を発したのはジェイクだった。

「リリスさん…いや,これは俺の聞き間違えだ。俺の聞き間違えだ……」

「聞き間違えじゃないよ?王城に忍び込むのって意外と簡単そうじゃない?」

「ダメだよっ!?そんなことしたら本気で犯罪者だよ!?」

「いや,結界を張っていないから侵入することは簡単…」

「その問題じゃないってーー!!」


 ジェイクの悲鳴に近いツッコミがホテルの中に響き渡った。

「あー。もういいよー。俺たちの技術にしてみれば侵入くらい簡単だもんなー」

⦅ジェイクさんが開き直ってる!?ジェイクさんも共犯になってもらうけど許してね!⦆

⦅リリスさんは人使いが荒いなぁー。けどカーティスを連れ戻すためなら犯罪くらい起こしてなんぼだよね⦆


 共犯を心の中で宣言したリリスとジェイクは街を巡る準備,そしてカーティスを連れ戻してすぐに旅立つために荷物をまとめた。

「ジェイクさんって荷物はどうやってまとめているの?」

「俺は荷物が少ないからバッグに入るんだよ。後は魔術で少し亜空間を作ってる。リリスさんとカーティスはどうやって荷物を詰めているの?」

「あぁ。私は亜空間に全部詰め込んでいるんだけど…カーティスは黒い箱の亜空間に詰め込んでいるんだよねー」

「えぇ……。何この異次元二人組」


 支度を終えると,リリスとジェイクはホテルを出た。

「一日だけでしたけど……ありがとうございましたー!」

「……もう行っちゃうんですか?」

 そう言ったのは,ホテルの従業員の女性だった。そして,ジェイクはその言葉に返答をした。

「はい。今晩に王城に侵入する予定なので…あっ,貴族の方には言わないようにお願いしますね?」

「分かりまし…王城に侵入!?」


 女性はあと少しのところで理解できたのだろうが,残念ながら気絶しかけていた。

「えっと…大丈夫ですか?」

「はっ!?申し訳ございません。お客様の前で失礼な態度をとるなんて…」

 彼女は,それを思い出すと思い出し笑いをしかけていた。

「王城に侵入… なんでそうなったんですか?」

「あ,えーっと。私の友人が王子で。けどこんな国から早く出たかったから侵入して早く出るんです」

 それを聞くと,女性は再び笑った。


「はははっ。私たちが全力で応援します!ほら,王城の見取り図はここにあります」

 そう言って彼女は見取り図を取り出した。

「なんで持っているんですか!?」

「夜に王城って警備も雑だから侵入しやすいんですよ」


 そしてホテルの従業員はクロエと名乗り説明を続けた。

「で,他国の王子だったら…ここの部屋にいる可能性が高いです。けど,イディット様の部屋に近いから気をつけてください」


 リリスとジェイクはクロエの情報の多さに驚いてつい尋ねてしまった。


「なんでそんなに知っているんですか?」

 リリスがそう言うと,クロエはくすっと笑いながら話してくれた。

「実はこのホテルの従業員は全員ダンテ国王陛下直属の諜報員(スパイ)なんですよ」

「「はぁっ!?」」

 クロエだけが諜報員ならまだ理解できたかもしれない。しかし,このホテル従業員が全員諜報員だと言うのだから笑えない。

「ダンテさんがそんなこと…なんでこの国の諜報員なんてしているんですか?」

「ダンテ国王陛下はこの国の貴族制度を変えたいと言っていました。多分内乱を起こさせる為に私たちを雇ったんだと思います」

⦅あの人意外と腹黒いな⦆


 リリスはそう思ったが,とりあえずクロエに感謝告げた。

「情報を頂き,ありがとうございます」

「いいんですよ。王城に侵入されたということが分れば貴族も平民もイディット様を余り信用しなくなると思いますから」


 あはは…とリリスは苦笑しながら,ホテルを出ていった。


 * * * 


「花街みたいなところに来た訳なんだけど…節約するのは難しいだろうなぁー」

 リリスが悟った目しながら見た先にあったのは沢山の美味しそうな料理がある屋台の数々だった。そしてジェイクは我慢できないと,リリスの手を引いて巡ることにした。

「やっば…めっちゃ美味しいんだけど!」

「あー待って待ってジェイクさん!そんなに強く手を引かないでー」

⦅めちゃくちゃ美味しそうなものばっかりだ⦆

 リリスも屋台の誘惑に負けてしまい,串を一本食べた。

「やっぱり上品な料理より心のこもった料理の方が美味しいんだよねー」

 その意見にジェイクも賛同した。

「だよねー。じゃあ全力で買い食いしますかー」


 ⦅ロイ共和国にも結構いい所があるんだなぁ⦆

 意外に充実していたリリスだった。

 二人が屋台を楽しんでいると,いつの間にか,辺りは暗くなっていた。

「さてっ,リリスさん。楽しみ尽くしたところで…そろそろ城に向かう?」

「待って,カーティスの分の串焼きも買うから」


 リリスが串を三本買い,王の住む城へ行くことにした。そして,城の門の前まで来た二人はリリスの【透明化】によって姿を隠しながら侵入することに成功した。しかし,声はいつも通り聞こえてしまうので,静かに話すこと約束した。

「(この見取り図通りだと,カーティスのいると思われる部屋は…五階?)」

「(そうだね。頑張って登ろうか)」

 しかし,見たところだと城は十階以上あり,クロエ達の助言(アドバイス)に改めて感謝したリリスとジェイクだった。

「(ここが四階で…次の階が目的の五階…)」

 リリスがジェイクに話しかけた。しかし,ジェイクからは反応がなかった。

⦅ジェイクさんも集中しているのかな?⦆

 そしてジェイクの生存確認をしようと後ろを向いた時だった。

「なっ…!?」

⦅ジェイクさんがいない…?⦆

 後ろを覗くと,四階の最初の方にいたジェイクが神隠しにあったように跡形もなく消えてしまっていたのだ。


 ジェイクを探しに行こうとしたリリスだったが,ジェイクとどちらかがいなくなってもカーティス優先ということを決めていたので,先に五階へ行くことを決めた。


「ふぅ…五階に到着。一番奥の部屋にいるっていう予測だったわよね」

 リリスがそう言って一歩進んだ瞬間。後ろから殺気を感じたリリスは,後ろを向き,バックステップをして反撃の準備をした。しかし,少し間合いを間違えてしまい,長かったリリスの髪はばっさりと切り取られてしまった。


「この城に侵入した貴女達の処分を行います,ドミニクです。そしてこれは警告です。今すぐにここを出れば殺しはしません」

 リリスの髪を切り取ったのはドミニクという男性だった。

「ここにカーティスがいるのは確定か…いやもちろん出ていかないんですけどね。それと,そんなに情報を言ってもいいんですか?」

「貴女を殺せばこの情報は漏れないので」


 そう言ってドミニクは短剣を出してリリスの方を目掛けて襲おうとした。

 しかし,リリスはそれを避けて虚空から杖を出してこう言った。

「【変幻変化の杖】」

 そうすると,持っていた杖が短剣に変わった。

「魔術ですか…」

「はい。けどこれで魔術を使うのは終わりにします。【防音結界】!これで外界に音が漏れなくなります。短剣同士で戦いましょう?」

 そう言ったリリスの顔は笑っていた。そしてそれを聞いたドミニクも笑い出した。

「決闘ということだな…さては,お前は戦闘狂か?」

「ふふふっ,どうでしょうね?それじゃあ…始めましょう」

 そう言った瞬間に二人の短剣は激しい音と火花を出し始めた。


 二人の戦闘狂の決闘が始まった。


 * * * 


「はぁ…はぁ…ここは確か四階だったな」

 二人が決闘をしている頃,ジェイクは起きた。

「よいしょ…痛っ。ここで俺だけ倒れていたってことはリリスさんは五階に行けたのかな?…いや,俺を襲撃した奴と戦っているかな」


 何かできることがあるか考えたジェイクだったが,なかったので城を出ることにしていた。

「じゃあ俺は馬に餌(えさ)でもあげるか。頑張ってね,リリスさん?」


 そう言ったジェイクの目は城の五階を捉えていた。

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