国外追放で蔑視される

 カーティスの正体が第二王子だということに気づいてしまったリリスはジェイクに質問していった。


「なんで国外追放の見張りなんてやってるの?カーティスは」

「リリスさんが好きだったらしいよ。あいつは結構一途だからさ」

「…なんで私のこと知っていたの!?ずっと思っていたけど会ったことないよ?」

「俺も王様から聞いただけでよく分かんないんだけど…元々第三王子のカリヤル様から愚痴を聞いてて,いい感情を抱いていなかったんだって」

⦅カリヤル……!やっぱりお前許せないわ!⦆

 カリヤルへの憎悪を再確認したリリスは続きを聞いた。

「けど,学園祭に行ったときにバンドでリリスさんの笑顔を見てカリヤル様聞いたような人じゃないって思ったんだって。で,次にリリスさんの男装で惚れたらしい。」

⦅そういえばいたなぁ…変装はしていたけど確かにカーティスだ⦆


 一応納得したリリスだが,もう一つ納得のできないことがあった。

「ジェイクさん……なんでここって共和国なんですか?絶対に主権が国王だけですよね」

「俺も思ったけど…けど共和国から帝国に変わるらしいよ。あと昔は共和制だったんだって」

「もうここの人たちと上手くやっていける気がしない…」

⦅通りで神を信じていない訳だ。というか自分の権力しか信じてなさそう⦆


 散々な言い様だった。二人はカフェで夕食を食べ終わり,人と会わないように出来るだけ早く帰ろうとした。

「そこにいるのはローゼンタール第三王子に婚約破棄されたんだってー。ダサくない?」

「ちょっとぉー本人にも聞こえてるしぃー。かわいそぉーだよぉ」

⦅聞こえてるし,上から目線がうざい!⦆

 本人であるリリスは激怒していた。  

 実際,リリスは本人の意思で婚約破棄にされようとしたから婚約破棄に格好悪いなどという感情は持っていなかったのだ。

「……あの子達は私がやるよ。ジェイクさんは先に行ってて」

「ここの国で喧嘩とかしたら面倒なことになるからやめて!」


 ジェイクに強引にホテルへ帰らされた。そして明日に向けての作戦会議を始めた。


「えーどうする?なんか外出た瞬間に罵倒される予感しかしないんだけど」

 ジェイクは貴族とのトラブルを避けるために外出をしないということを提案した。

「いや,貴族様だって私達を罵倒する時間なんてないと思うわ。あといい人がいるかもでしょ?」

 リリスはとりあえず一日だけでも外に出ることを提案した。

「ところでなんだけど,なんでこの国には追っ手が来ないの?距離的には一番近いと思うんだけど」

「あぁ,簡単だよ。神を支持する人がここに入ってきた瞬間に不法侵入として即刻死刑だ。入国の許可には大量の金と日数が必要だから後回しにしてるんだと思う。俺たちはカーティスがいたから金も日数も必要なかったんだけどね」


 ジェイクの話を聞き,急にカーティスが王子だったという実感が湧いてきた。

「カーティスって王子だったんだね」

「そうだね。今はあいつ何してんのかな」

 ジェイクがそう言ったものの,二人はなんとなくしていることがわかった。

「「イディットさんの自慢話聞いてるんじゃない?」」


 なんと同じことを考えていた。

「あははっ,よし。なんかいける気がしてきた!明日は街を歩いてみよう!何かあるかもしれない」


 明日の方針を決めた二人はランタンの火を消して寝た。


 * * *


「ジェイクさーん起きてー!」

⦅ジェイクさんってロングスリーパーなのかな?⦆

 リリスは前世でも今の世界でも基本的には睡眠時間三時間である。それでも眠くならないのだった。

「ジェイクさん起きろー!!」

「うわっ!?リリスさん,もっと早く起こしてよー」

「一時間くらい起こし続けてたよ」


 朝食はホテルの中で食べた。流石に貴族御用達のホテルの朝食だ。公爵令嬢時代に食べていたものよりもずっと美味しかった。


 楽しく朝食を食べていた時だった。ガシャン,という音が鳴り,リリスが隣を見ると女の人がこちらをニヤニヤしながら見ていた。

 リリスはそれに気付き,自分の衣服を見た。

「えっ……」

「あら,そこの方汚ぁーい」

 そう言われたリリスの服には,食べ物が落とされていた。汚いと言った女の人がやった。

「そこのお前!リリスさんが平民だからってしていいことと悪いことくらいわかるだろ!」

「いいんだよ。この人は自分の権力しか誇れることがないんだし」

⦅ちょっと苛ついたから煽ってやろっ!⦆

 リリスはとりあえず目の前にいる女を全力で煽ることにした。

「ジェイクさん,しょうがないよ。というかお忙しい貴族様が平民に構ってくれたんだよ?」

「で,でも…」

「この服なら大丈夫。後で洗えるから」

 ジェイクにそう言うと,リリスは貴族の女に話しかけた。

「それにしても平民(わたしたち)と話しているような時間なんてあったんですね!それとも貴女より私の方が綺麗だから?」

⦅自分で綺麗って言うのは嫌だけど…⦆

 リリスはそう考えながらさらに畳み掛けていった。

「確かに!自分に自信がないから食べ物を粗末にしてまでも蹴落としたくなるんですよね?アドバイスでもしますか?」

 そしてリリスは貴族の女にしか聞こえない声で言った。

「(私だって伊達に公爵令嬢やってきた訳じゃないんだよ)」

「ひぃっ…!」

 女は完全に怯えてしまった。

⦅あー。悪役令嬢の練習した甲斐があったわー⦆

 リリスがそう考えていると,威厳のある声が聞こえてきた。

「王族の前で大声を出すな!不敬だぞ」

⦅イディット様?⦆


 声の方を向くと,ロイ共和国の国王であるイディット・ロイがいた。そして後ろにはカーティスもいる。心なしか,カーティスは青ざめている気がする。


「そこにいるのは…アベラール侯爵令嬢ではないか。そんなに泣いてどうしたんだ」

「えっと…そこのリリスとか言う人に不細工だと言われて…」

「いやいや,私は不細工など言っていません!私の方が綺麗と言っただけです!」

「どっちも一緒じゃないですか!!」

 そう言われたリリスが目を逸らした先にはカーティスがいた。彼は,くすくすと笑っていた。

⦅よかった。笑ってくれて⦆


 リリスがそう安心していると,誰かに平手打ちされた。本当に不意打ちだった為に防御結界も展開できなかった。

「痛っ…イ,イディット陛下?」

「貴族に逆らうとはなんと愚かな人間なんだ!アベラール令嬢,貴女も殴っていいですよ」

「いやいや私許可してな…痛っ!?」


 リリスはアベラール侯爵令嬢に蹴られた。そして,倒れ込んでいるとアベラールに殴られた。

「痛い…」

「調子に乗って私(わたくし)に歯向かうから悪いんですのよ。王族に優しくされたからって調子に乗らないでくださいます?」


 そう言ってリリスとジェイクは貴族によってホテルから追い出された。次に泊まるホテルは,高級ではなく,平民でも泊まっているようなところにした。

 リリスがホテルの手続きをしていると,

「その…街で話題になっていたんですけど,貴族に歯向かったって本当ですか?」

「歯向かうって言うか…売られた喧嘩を買っただけですよ」

 そう言うと,手続きをしてくれたホテルの人は,羨ましそうな目で見つめてきた。

「どうしたんですか?」

「……いいなって思ったんです。私達平民は貴族に逆らうことなんてなかったから。平民は働いていい地域や住んでもいい地域を決められます」

 それを聞いてリリスは驚いた。そこまで身分差別が激しいとは考えていなかったからだ。

「……滞在して下さりありがとうございます」

 ホテルの人達はそれだけ言って見送ってくれた。


 * * * 


「…もう絶対に外に出ない」

「食べるものとかどうするの?」

「三日くらいだったら食べなくても生きていける」

 リリスは,貴族との一件で完全に外に出る気を無くした。

「うーん…あれは貴族だったからだし…貴族の方以外と話してみたらどうかな?それ以外人だったら優しそう」


 考えた結果,貴族のいる街には近づかないことにした。


「今日は動けそうにないやー」

「ところで,お腹は大丈夫?ヒールで蹴られていたけど」

「「………」」

「私,回復魔術使えないんだよねー」

「【回復(ヒール)】!!」


 ジェイクが回復してくれたことによって,早く治ってしまった。


「とりあえず,明日から行動しよう?」


 二人はそう決めて,二日目が終わるまでのおよそ十六時間をホテルで話しながら過ごした。

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