国外追放と天使降臨
リリス達は満足して馬車に乗った。
「今から行っても間に合いますか?」
「はい。多分前の儀式の時は準備に手こずってなんだかんだで儀式が行われるのが夜の始まりくらいになっていたんですよ」
そこから二時間と聞いたリリスは,疲れもあったので寝ることにした。そして,誰かに肩を叩かれて起きた。
「誰……?」
「僕だよ。もう着いたからね」
カーティスに起こされて馬車を出たリリスは驚いた。
「始まっちゃってる!」
「今ちょうど始まったんだろうね。早く行こう」
急いで教会の中に入ると,天使が発している光のようなもので新月で暗かった教会を照らした。
『我は神の使い也(なり)』
光に慣れ始めたリリスが見た天使は知っているものだった。
⦅うわぁ知っているよ…この天使⦆
リリスが見た天使とはマスティマのことだった。
「それでは今後の人間…そして創世教の繁栄を願い,祈りましょう」
創世教とは,神の子を教祖とする世界的にも有名な宗教だ。しかし,リリスは旅をするにあたって創世教を抜けている。もし,宗教関係で出会った人とトラブルになるのは面倒だったからだ。
「(カーティス,私一回ここ出るね)」
リリスはそう言って教会から出てきた。街を見てみると,夜遅いというのと儀式に参加している人間がほとんどだったので誰もいなかった。
「静かだなぁ…祭が始まるまで暇つぶしするか」
儀式が始まって三十分くらい経った頃,カーティスがホテルに戻ってきた。
「あれ?カーティス,戻ってきたんだ。天使降臨の儀式っていうから二時間くらいかかるのかと思ったよ」
リリスは落ち着いた様子でそう言ったが,カーティスは息を荒くしている。
「リリス,今すぐこの国を出よう」
「えっ?なんで…」
カーティスはそう言うとすぐに転移の術式を使って馬車に移動した。
「なんでそんな急いでいるの?」
「それは後で話す。とにかく今は創世教を信仰していない国に行かないと…そうだ。ロイ共和国に行こう。あそこは無神教の国だったはず…コネはあるし」
そう言い終わると,ジェイクの馬車は東へと移動していった。そして,それから一日が経った。
「もう追ってこないか…」
「カーティス,創世教の人に追われているの?」
リリスがそう聞くと,彼は頷(うなず)いた。
「リリスはあんまり聞きたくない話かもしれないけど…アルティスタに聖女・マリアが訪れた」
「え……?」
「聞いたら学園の夏期休暇でここへ来たらしい」
「それで…あの人は他に言っていなかった?」
「言っていたよ… 彼女の婚約者となったカリヤル・ローゼンタールがね。創世教における天使と神の子以外の神との繋ぎ目である聖女を傷つけた悪女だと広めて追われているんだ」
⦅そんな…そこまでして私を社会的に殺したいの…?⦆
不安がるリリスを見てカーティスは安心させようと努力した。
「でも大丈夫。天使のマスティマ,国王のダンテさんと一部の神父さんは彼女の言っていることを信じていなかったよ」
「マスティマとダンテさんは納得できるけど…なんで神父さんは疑っているの?」
「三人くらいからしか聞いていないけど…魔力は生まれつきの部分もあるっていう話はもちろん知っているよね」
「うん。小さい頃に魔術書で読んだわ。それがどうかしたの」
「神父やシスターさんの中には他人の魔力を視る力がある人がいるんだって。その人達がリリスの魔力を視たら無限に等しい力を持っているらしい」
「それはマスティマの魔力を吸収したからじゃないかな」
リリスはそう言ったが,カーティスは首を横に振った。そして当たり前のことを言った。
「そもそも人間じゃ全く理解できないほどの力を持つ『天使』の魔力をほとんど吸収するなんておかしいよ」
「確かに…普通だったら死んで遺体も残らないはず」
リリスが読んだことのある書物には天使の魔力に人間の魔力が触れてしまい,血を噴き出しながら死んだ人があったという。また,死体を処理しようと思った人間が棺の中を見てみると,そこには灰以外何もなかったらしい。
そして死んだ人間とは当時いた魔物をほとんど狩り尽くした聖女だった。
「それからさ,神父さん達は天使・マスティマの魔力も見たらしい。そしたらリリスの魔力も少し混じっていたんだって。ってことはリリスは今マスティマの魔力を所有している訳ではないんだよ」
それを聞いて,リリスはある結論に至った。
「カーティス達は私が
「僕たちはそう思っているよ。
「仮にそうだとして証明する方法はあるの?そんな方法たくさんの魔術書を見てきた私でも知らないよ?」
「……一つだけある。それを証明するにあたってリリスに正直に答えてほしい」
カーティスがそう真剣に言うと,リリスはうなずいた。
「いいよ。なんでも答える。私が普通の人間だということが証明できるならば」
そう言うと,カーティスは少し躊躇(ためら)ったように話した。
「リリスはさ,
カーティスがそう言った瞬間。馬車の中の空気が変わった。外にいたジェイクもその話を聞いていた。
「カーティス!?それってつまり…異世界と繋がっているっていうことだよね。それは神に等しい力を持つことになるよ」
ジェイクの言った通り,この世界では異世界の存在は確認されている。しかし,生命の輪廻もその世界の中で完結するというのが一般的な考え方だし,そのために死者の国のような死者専用の場所がある。
しかし,その輪廻が別世界にも繋がっているとしたら?それは神にしかできない所業だ。
「リリスが『神の子』だったらそういうことになる」
「ねえ,カーティスはなんでそんなに神の子の条件を知っているの?」
「…死者の国の図書館で読んだんだ」
少し沈黙の時間が続いた。しかし,リリスは決心して話すことにした。
「……うん。私は別の世界から転生してきたんだと思う。少なくとも別の人の記憶を持ちながら生きているよ」
「じゃあリリスが持っている記憶の人は死んだ?」
「うん。事故でね。それがどうかしたの?」
それを聞くと,ジェイクは声を大きくして二人に言った。
「そうか!生まれる前,つまり前世の記憶を持っているのは神の子か悪魔の子だけなんだよね」
「どっちかだとしたらリリスの魔力がすごいのにも納得がいく」
リリスは驚きながらカーティスに聞いた。
「じゃあなんで私が神の子になるのよ。死んで別世界に生まれ変わったら神の子になるの?」
「簡単に言うとそうだよ。悪魔の子は別世界からの魂の転移なんだって。で,神の子は死んでからこの世界の人間に魂が宿るらしい」
「つまり事故で死んでいる私は神の子…?」
そこまで考えると,豪華な城が見えてきた。
「あそこの城がロイ共和国の国王が住むところだ。ロイ共和国は無神教の国だからね。匿ってくれるらしい」
そこまで言うと,カーティスは苦笑いしてリリスにこう言った。
「リリスが好きそうな国ではないけど三日あれば味方の神父さんやシスターさんがなんとかしてくれるって言っていたから…それまで耐えよう」
⦅これを聞く限りだとカーティスもこの国が苦手なんだよね?どんな国なんだろう⦆
リリスは教科書を思い出すと,ロイ共和国についてこんなことが書いていた。
【絶対王政の国】
【貴族の国】
と。そのように書かれていた。
ローゼンタールも君主の持つ力は強いが,平民の大臣だって力を持っているし聖女が現れたら政治は聖女に任せることもある。
しばらくすると,ロイ共和国に到着した。
「ようこそロイ共和国へ」
そう言って国王のイディットが笑顔を見せていた。
リリス達にではなくカーティスだけにだ。
「(あれ…?態度悪い…?)」
リリスはジェイクの言ったことに共感した。
⦅なんでだろう…元々招く予定がなかったから準備で忙しいのかな⦆
そう思おうとしたリリスだが,イディットがカーティスにだけ優遇しているのが少し気になった。例としては,
「カーティス君,ここに滞在する間は王城に泊まりなさい。あ,そこの人達はどっかに泊まっておけ」
「カーティス君,俺が案内しよう。下民共はさっさと立ち去れ」
そう言われて苛ついたリリスとジェイクだが,匿ってくれるだけありがたい。とりあえずホテルを探すことにした。
すぐにホテルは見つかり,カフェで夕食を食べていた。
「ねえ,ジェイクさん。カーティスが優遇されている理由ってなに?」
「あー……ちょっと分かんないかなー」
⦅ジェイクさん何か知っているな⦆
そう思い,彼を問い詰めようとしたリリスは近くで話していた人の声が聞こえた。
「今日ここにローゼンタールの第二王子が来たそうですわよ!早く見てみたいですわぁー」
リリスとジェイクの動きが止まった。
⦅第二王子…?そんな話聞いてない…⦆
そこで思い出した。国外追放の前の時,第三王子のカリヤルでさえもマリアの洗脳にかかっていた。そして洗脳から逃れられるのは彼女よりも魔力が強い人,そして神の恩恵を受けた王族だけだった。
そしてイディットの態度。ロイ共和国は貴族の国だ。それを含めて考えた
⦅と,ということは…⦆
リリスは恐る恐る仮説をジェイクに伝えた。
「カーティスって第二王子?」
「……そうだよ。まあここに来たらバレるのも時間の問題だって言ってたし」
⦅なんで王子が旅しとるんじゃぁぁぁぁ!?⦆
つい,心の中でツッコミを入れてしまった。
叫びそうになるのを抑えてそれでもめちゃくちゃ泣きそうになったリリスだった。
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