国外追放と水の都
カーティスは対応に困っていた。朝早くにホテルへやってきた相手がロイ共和国の国王イディット・ロイだったからだ。適当に追い返すこともできず,彼がホテル へやってきてから十五分程経った。
「今日にこの国を出るのは駄目なのか?早く我が国に来てほしいのだが」
「今日は天使降臨の儀式があるそうなのでそれを見たいんです。なので明日ならいいですよ」
「ふん。わかった。この国は貴族がいないから吐き気がする。なぜ高貴な血の者が平民と一緒にされないといけないのだ?可哀想だろ」
「それは僕に話すことではありませんよ。話が終わりましたか?じゃあまた明日」
カーティスが強引に会話を終わらせて扉を閉めた。
「はぁぁぁ…」
⦅あのお爺さん身分にしか興味がない…⦆
カーティスは追い返すのに疲れたので再び寝ようとした。
「ん…カーティスどうしたの?」
「リリス!?起きてたの?」
「いや…今起きたけどカーティス怒鳴ってなかった?」
「ちょっとジェイクと喧嘩しちゃってね。大丈夫,もう仲直りしたから」
カーティスは自分の身分を隠すために嘘をついた。そしてリリスはその嘘に気づけなかった。
「そーなんだ。カーティスももうちょっと寝た方がいいよ。降臨の儀式や祭りは夜遅いらしいし眠くなったらせっかくのイベントが楽しめなくなっちゃう」
「そうだね。寝よっか」
⦅正体はバレていない…ならいいか。もし僕の身分を知ったら普段のように接してくれなくなるかもしれない⦆
カーティスは安心してリリスの隣で寝た。
* * *
「今日のスイーツは豪華!みてみて,カップケーキもあるしマカロンもあるし…だっ大福!?」
「大福は遥かに遠い東の国・大和国のスイーツらしいよ」
⦅大和国だって…?完全に日本じゃあないか!元々大福は大好きだしいつか行けるといいなぁ⦆
「うぅ…あんまり甘くない。大和国のスイーツってこんな感じなの…?」
「ふっふっふ…これはスイーツじゃあない。和菓子というのだよカーティス君?これの美味しさが分からないとは意外と子供舌?」
「カーティスは昔から子供舌だよ。味の薄いものと野菜が大嫌いなんだよね」
リリスが,カーティスが持ってきたビュッフェの物を見てみると,確かに野菜が一切なかった。また,白身魚などの味の薄い食べ物はなく,肉などの味の濃い食べ物が多かった。
「あれ,子供舌って図星だったりする?野菜は食べたほうがいいよ。というか野菜食べないでよくその美しさを保てるよね?」
「図星じゃないし!」
「じゃあこれ,食べられる?」
リリスがそう言ってカーティスにあげたのは,元の世界でも嫌いな野菜ランキング上位に常にいたピーマンだった。
「……これは野菜じゃない。これは野菜じゃない」
「食べられないなら私が食べさせてあげてもいいけど?」
「嬉しいけど結構屈辱的!?」
⦅弱点を見つけた!これで私もカーティスをいじめ倒せる……!⦆
カーティスの弱点を見つけてしまったリリスは,うきうきの気分で朝を始められた。
「ふっふふーん。ところで知っている限りだけどカーティスって幽霊も苦手だったよねー?感覚は意外と子供なのかなー」
「……うるっさい」
リリスが彼を見てみると,顔が赤くなっていた。ついでに耳もだ。それに気づいたカーティスは,手で顔を覆った。しかし,耳の部分までは隠せなかったようだ。
カーティスの照れた姿を見たリリスは少し戸惑ってしまった。
「えっとカーティス,なんでそんなに照れてるの?」
「……好きな人には完璧な姿を見せたいじゃん」
⦅なんか可愛いな。ちょっと好きになったかも⦆
そう思ったリリスは,カーティスに無邪気な笑顔を見せた。
「カーティス,私は完璧な人間よりもギャップが強い人間の方が好きだよ。好きだよ」
「……っっ!?」
ジェイクが尊い…と言っていた気がする。気のせいだろう。リリスはそういうことにしておいた。
「あーっと…夜まで時間があるけどリリスさん,どうする?」
「リリスと一緒ならどこでもいいよ」
代わりにカーティスが答えた。完全にデレと化している。
「そうだ。少し遠い所に水の都というところがあるんですって!今から行ってみましょう?」
近くにいた馬車に乗せてもらい,水の都を目指した。今回はジェイクも馬車の中に乗っている。
「思い出したんだけどさー…カーティスって一応リリスさんの見張り役じゃん?けどさーここの国に来てわかったんだけどさ,離れて行動することもあるよね」
リリスは頭に?を浮かばせて質問した。
「どういうこと?ジェイクさん」
「つまりね。見張り役として個人行動させるのはどうかと思うんだよねー」
「ふふふ…つまり僕にはリリスと一緒にいる義務があるんだよね?」
「(ジェイクさん!そういうこと言わないで!)」
「(俺はカーティスの恋を応援しているからね。それじゃあ頑張ってねリリスさん)」
「そんなぁ…」
そんな話をしている中,リリスは思い出した。
「カーティスとジェイクさんって朝早くに喧嘩してたんだよね。なんで喧嘩してたの?」
「俺とカーティスが?喧嘩したことなんてないけど…カーティスが言ってたの?」
「あー。それなんだけど,夢だったぽいんだよ…いない人と喧嘩してたってことになるけど」
⦅これはあんまり踏み込まない方がいいかもしれない。疲れているもんなぁ…⦆
納得したリリスだった。
そうこうしているうちに水の都へついた。
「ここが水の都・アクアです」
「ありがとうございます。ところで,首都からここまで来るのにはどれくらいかかりましたか?」
「首都からここまでは…二時間くらいですね」
「えっと私達,今夜の【天使降臨の儀式】を見たくて…」
「なるほど!わかった。空がオレンジ色になるときまでに馬車へ戻ってくればいいよ」
「ありがとうございます。その時までには戻ってきまーす!!」
リリスはカーティスの手を引いていった。
「あの二人…似合っているな。アンタもそう思わないか?」
「俺もそう思いますよ。あの二人,早く付き合っちゃえばいいのに」
ジェイクはアクアまで乗せていってくれた御者と話をしていた。
「えっ!?あの二人まだ付き合っていないのか?あんなに幸せそうなのに」
「まあ,彼らはそういう人間なんですよ。俺もくっつけたいから頑張ってるんですけどねー」
「頑張ってくれ。もし付き合ったら連絡してくれ。俺の住所だ」
「いいんですか?二時間くらいしか一緒にいないんですけど」
ジェイクは彼の行動に驚いていた。そんなに簡単に住所を教えてもいいのかと思ったジェイクだが,
「俺もあの二人が付き合っているところを見たいんだよ。ってことで頑張れよー」
そういって名も無き御者は行ってしまった。
「……これは二人を早く付き合わせないとなー」
***
「ここの移動はボートなんだねー。水上図書館みたい」
「夕刻まではまだ時間があるしゆっくり楽しもっか」
ボートを漕ぎ始めて十分(じっぷん)が経った。リリスが店を探していると,美味そうなものを売っている店が見つかった。
「カーティス!あの店の食べ物,美味しそうだよ」
「買ってみよっか」
店はボートの上にあるので,食べ物を買ってボートで食べるような形式だった。そしてリリス達が買ったのは,名物のパスタだった。リリスはシーフードパスタを,カーティスはボロネーゼを頼んだ。
「うん。美味しー」
「これは美味しいね。僕のも食べる?」
⦅これはまさかの間接キス…!?意図してやっていないよね…?⦆
リリスがカーティスの方を見ると,意地悪な笑みを浮かべていた。
⦅これは完全に仕組んでいるー!えー…どうしよう⦆
「ふふっ,そんなに慌ててどうしたの?」
「あ,焦ってないし!?」
リリスが焦っていると,強引に口に入れられた。
「ふぇっ!?カーティス!?」
「ふーん。やっぱリリスは可愛いね」
リリスが照れていると一艘(いっそう)のボートがやって来た。
「こんにちはリリスさん。今日は彼も一緒なんですね」
リリスが横を見るとダンテがいた。
「わぁっ,ダンテさんも来ていたんですね」
「はい。【天使降臨の儀式】の準備で息が詰まって…」
二人が談話をしていると,殺気立っている男がいた。カーティスだ。
「二人はそんなに仲良くなっているんだー」
「あはは,リリスさんの彼氏さんは嫉妬しているみたいですね。じゃあ僕はここで」
「行っちゃったね」
「これでいいんだよっ」
しばらくして,空がオレンジ色になりかけていた。リリス達は慌てて戻ろうとしていた。
皿は魔道具で作成されているようで勝手に元の場所へ戻っていった。
「戻ったー!ジェイクさんも楽しめた?」
「うん。とても美味しいものばっかりだったよ」
「…それじゃあ,首都に戻ろっか」
リリスは,降臨の儀式を楽しみにしながら,馬車に乗っていった。
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