国外追放と水上図書館

 色々なことがあった二日目が終わり,後半となる三日目が始まった。

 三人はこの国の名物となっている水上図書館へ行くために馬車に乗った。

「水上図書館かぁーどんなところなんだろうね?」

「予想だけど…図書館が水に浮いているとか?」


 三人は想像もできないままに水上図書館へと着いた。


「水上…?外観だと水なんてないけど…」

「中が水上なんですよ。さあ,入ってみてください」


 御者の人が言ってくれたのでとりあえず入ることにした。

「わっ!何これ!?」


 リリスが中を見て驚いた。その図書館の本棚が水に浮いていたのだ。

「えっとここの図書館を利用しますか?」

「はい」


 カーティスがそう言うと,船に乗ってやってきた女性は説明を始めた。


「まず,この図書館は一方通行です。移動にはこの船を使用してください」

 彼女がそう言うと,船が目の前にやってきた。


「あと,本を取りたい時はこの双眼鏡から本の番号を見てそれを言ってください」


 ルールを理解した三人は船に乗って図書館を巡ることにした。

「まず行くところは…歴史書ね。カーティス,ここに寄ってもいい?」

「僕はいいけど。ジェイクは大丈夫?」

「俺も大丈夫だよ。というか他国の歴史に興味あるし」

⦅二人がタメ口で話してるー。和むなぁ⦆


 リリスは仲良いカーティスとジェイクを見てほっこりしていた。


「ここじゃないのー?カーティスもう船漕がなくていいよ」


 リリスがそう言うとカーティスは船を止めた。借りた双眼鏡でみると,そこには『真実かも!?ローゼンタールの現代七大都市伝説の正体!!』なる本が並べてあった。

⦅七大都市伝説なんてあるのかよ…けどちょっと気になる⦆


 意外と気になってしまったので本の番号を言ってみた。すると,リリスの手に水で造られている本が載せられた。


「ローゼンタールの現代七大都市伝説??リリス,変なの借りるね」

「……なんか気になっちゃった」


 そして内容を見てみると1番最初に目次が書かれていた。


《目次》

一. ローゼンタールにも1級魔術師がいた!?

二. 王家に伝わる謎の魔術

三. 我が国には禁忌の魔術とされる死者を扱う死霊使い(ネクロマンサー)がいる!?

四. 謎の第2王子の謎とは

五. 我が国にある異世界と繋がっていると言われている『扉』は本物なのか!?

六. この国は洗脳されている!?検証してみた

七. 神が造ったとされる空中庭園は実在するのか



⦅う,嘘くさいけど書いてあることに真実も入っているんだよなぁ…⦆

 リリスは自分に関係のある一番,三番,五番をみた。


 リリスは一級魔術師だったため死霊の使役もできたのだ。


⦅この世界に来たのってここで言われる扉を潜り抜けたからなのかな?⦆


 よく考えてみれば異世界に飛ばされるなんてフィクションでしか見たことがない。なので,できれば異世界転生の仕組みを知っておきたかったのだ。


「……やっぱり何にも書かれていなかったか。カーティスもみる?」

「どれどれ…あはは…というかリリスもここの一番と六番にすごい関係してそうだけど」

「あと三番の死霊使い(ネクロマンサー)も」

「あれ,死者を使って魔術を展開するのって重犯罪じゃなかったけ」

「リリスさん…?」

「さ,さあ次の本を探しましょ!」


 リリスが本の番号を言うと,『真実かも!?ローゼンタールの現代七大都市伝説の正体!!』が消えて元の場所に戻っていった。


「中見ばっかり気にしていたけど水の本ってすごくない…?」

「確かに。あれほどのものなら多分魔術を使っているんだろうね。それをここの図書館の全ての本に使っているとしたら相当だよね」


「ここにあるものは昔いた1級魔術師が作ったとされているんですよ」

「へぇー。じゃあ今,蔵書が増えたらどうするんですか?」

「うちの国には一級魔術師がまだ1人いるので」

「ぜひ会って見たいですね……ところで貴方は誰ですか?」


 リリスと会話していた男は微笑みながら自分の名前を言った。


「僕はダンテ・アルティスタと言います。でこっちがイディット・ロイです」


 イディットと言われた男はカーティスを見て,驚きながらも頭を下げていた。


 ダンテは若く,リリス達と変わらないような年齢だった。逆にイディットは貫禄がある老人だった。

「アルティスタってことは…王族なんですか!?」

「そうですね。あと一応国王やってます」


 リリスは気絶しそうになっていた。国王と普通に話していたからだ。そして国王のダンテと一緒にボートに乗っていたということは,イディットも国王クラスの権力者だと予想付けしたのだった。


「えっと…イディット様も国王なんですか……?」


 恐る恐る聞くと,案の定隣国の国王らしい。


「なんていうか…教科書に若い年齢で国王の座に就いたって書かれていましたけど…若いですね」

「親が暗殺されたから就任が早くなったんですよ」

 王族となれば別国から命を狙われることもあるのだろう。リリスはそう結論づけようとした。


「あの時は僕の兄が犯人だとは思っていませんでしたよ」


⦅身内…⦆

 その話を聞いてリリスは苦笑いしかできなかった。だから話を変えることにした。


「ところでこの図書館を制御している人ってどこにいるんですか?ぜひお会いしてみたいのですが…」

「僕ですよ」


 ダンテが彼自身を指差した。リリスは意外な事実に驚いた。


「じゃあ,殿下も一級魔術師なんですか」

「そうですよ。僕は元々四大属性を扱うのが得意なので。管理くらいだったらできるんですよ……ところで『も』って言っていましたよね?他に誰かいらっしゃるのですか?」

「実は私もなんです!けど四大属性魔術が苦手なんですよね…よければ後で本の管理方法とか教えてください!」


⦅話が会う人を見つけてしまった…⦆


 リリスはダンテから本の管理方法や使える魔術を教えてもらえることになった。とりあえず3人はボートを漕いで別の場所に移動することを決めた。


「次は…文芸エリアみたいだね。僕,興味あるから見てみるよ」

「カーティス,ちょっと取りすぎじゃない?そんなに読めるの?」



 水上図書館は雑誌や新聞などいろいろあった。魔術書はなかったが,理由を考えると魔術書の中ではかなり危ないものもある。沢山の情報が一気に入ってくるから発狂することもある。


「これ,読んでくるからリリスとジェイクはここから出ていっていいよ」


 ジェイクはここから出ていって美術館や博物館に行くことにした。

 リリスは,本を借りていたので公園で読むことにした。


 リリスがベンチで本を読んでいると隣に座る人が現れた。ダンテだ。

「こんにちは。今は何を見ているんですか?」

「あっ,こんにちは!今はこの国の歴史書を見ているんです。学園では教科書とかでしか情報を得られなかったので…」

「その衣服はローゼンタールから来たんですか?あそこの学園の修学旅行だったらこの国にも来るはずなんですけど…」

「あっはい。けど冤罪で国外追放にされてしまって…でも後悔はしていません」

「そういえばあそこの国の第三王子の婚約者が国外追放になったって聞いたんですけど,あの第3王子は面倒くさいですよねー。上の二人は素晴らしい人だと思うんですけど」

「第一王子と第二王子に会ったことがあるんですか?」

「まあ,一回この国を訪問していたからね。第三王子は婚約者(きみ)を大切にしていなかったよ」


 そう言われるとリリスは頬を膨らませた。


「知ってますよ。愛していたら冤罪をかけないですもの。ところでこんなところにいて国民の皆様にはバレないんですか?」

「僕はいつも国を回っているからあまり驚かれなくなったんです。」

⦅国民に好かれそうな国王陛下だな⦆


 リリスが読書を再開してから数時間経った。

⦅この本何ページまであるんだ…えっ二万ページもある…!?⦆


 少し心が折れたので景色を眺めることにした。ベンチから景色をみると,アルティスタの首都を一望できた。


「リリスさんって一級魔術師なんですよね…?」

「はい。どうかしたんですか?」

「前日はうちのものが失礼をしたと報告が来ていました。大変申し訳ございませんでした」


 そう言ってダンテは深く頭を下げた。リリスは前日を思い出し,ダンテの謝罪を止めた。


「殿下がやった訳ではないですし,教会の方々も勘違いされていた訳ですから頭を下げないでください!」


 * * *


 ある程度歴史書を読み終わったリリスはダンテと話すことにした。

 主に,この国や近くの国についてだった。


「あのイディットさんは平民を軽蔑したりするからあんまり好きじゃないんですよね」

「あー…そういえばアルティスタって貴族制度がないんですよね?」

「そうですね。僕の五代前の国王が廃止にしました。芸術には身分なんて関係ないので」


「今一級魔術師ってどれくらいいるんですか?」

「現世に,だと三十人だそうです」

「へぇー…って夜になりそう!?カーティスに叱られる…それじゃあ私はここで!!」

「明日はここの近くで天使降臨の儀式があるので来てみるといいですよ」


 リリスは慌てて帰った。公園にはダンテだけが残っていた。


「伝えなくてよかったかな……彼が第二王子だってこと。まあイディットさんの態度から察してそうだし」

 彼はそう独り言を呟くと城に帰っていった。


 * * *


⦅やばっ…約束の時間過ぎちゃった!そういえばダンテさんは第二王子に会ったことがあるって言ってたよなぁ。もう間に合わないし聞きに行ってもいいのかな⦆


 リリスがそう考えていると目の前の人とぶつかった。


「すみませんっ!…あっ」

「リリス?時間を守るというのは人間として最低限の行いなんじゃないかなー?」


 食事中にとても叱られたリリスは遅刻をしないように心から誓った。


「そういえばイディットって人に旅をしていることを伝えたら次は自分の国はどうだ,って言われたんだけど…どうする?」

「まあ,いいんじゃない?誘ってくださったんだし」


 リリスはカーティスに落ち込みながら,そして不貞腐れながら返答した。

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