国外追放で修羅場になる

⦅あぁ,前世でいう浮気現場を恋人に見られたみたいな雰囲気(ふんいき)してる。知らんけど⦆


 リリスは現実逃避をしながら目の前にいる2人を虚ろな目で見た。そして,早く逃げようと思い,外食の店の席をたった瞬間だった。

『「逃げるな」』

 二人が同時に言った。

⦅いや怖いって。というか私そんな悪いことしてないよね?⦆

「リリス,その男誰って言っているよね?」

「だから天使なんだって!たまたま私が魔力吸っちゃったけど…あと数日すれば戻るんだって!」

『そうだ。リリスとの間には特別な関係などない。だから早く終わらせてくれないか?彼女と街を回れないじゃないか』

「あー。秒で矛盾してる…」


「(ジェイクさんお願いします!喧嘩が続いてしまいます!)」

「(そんなこと言われたって…第一この喧嘩に混ざったら一瞬で殺されますよ)」

 リリスとジェイクは地獄と化した空間をどうにかしようと考えた。


「そうだ!教会の人に聞きましょう!彼が天使だって証明してくれるはずです!」


「僕がどうしたのかな?」


 突然しらない人の声が混じり,驚いて見てみると,神父さんがいた。

「神父さぁん…この人天使ですよね?そうですよね!?」

「はい。我々が二日後に行う祭で呼び出すはずだった天使ですよ」

「じゃあリリスは天使をたぶらかしたの…?」

⦅いや元の教会と同じ考え方してるー!⦆


 しかしそれは神父が否定してくれた。ありがとう。


「ふぅーん。で,そんなことがあったんだね」


 今日あったことを全て説明した。するとカーティスは,疑うような顔をしながらも一応納得してくれた。

「まあ,疑うだけ無駄な気がするし…けど次はないからね?」

「はい…」


『やっと終わったか。それじゃあ次はどこに行こうか?』

「だからそれがダメだっつてんだろ馬鹿か!」


 神父含め,食事の場にいた全員が驚いた。どうやら女性がそう言うことに衝撃を抱いたらしい。

「なっ何よその目…」

「いやっ,元公爵令嬢だったからそんな口調しないと思ってた…」

『意外と強(したた)かな面もあったんだな』

「まぁ,魔力を持っている人間ほど常識を気にしないとも言われますし…いやっ,僕は全然いいと思いますよ」

「……わーお」

⦅なんか失望された!?ごめんなさいねこんなに常識のない人間でっ!!⦆


 リリスはちょっと傷ついた。

「ごめんってー。そういう気持ちを出したい時だってあるよね!うん」

「………」


 リリスは傷ついたが,こんな喧嘩も幸せに感じた。そして少し微笑んだ。

「大袈裟(おおげさ)すぎだって。全然怒ってないよ」


 そう言うと,カーティスは顔を明るくした。

「ほんとっ!」


 そこからは割と平和な時間が続いていった。時々マスティマがリリスに話しかけて,カーティスに睨まれたこともあったが。

「ご馳走様でした。私達はホテルに帰らせていただきます。マスティマはどうするの?」

『僕は街をぶらぶら歩いて…』

「マスティマ様は教会で保護すると決められています。ついてきてください」


 マスティマが恨めしそうに3人の方を見てきたが,彼らが知ったことではない。

 泊まっているホテルは店から遠かったが,歩いて帰ることにした。

「そうだ!明後日に降臨の儀式と天使が降臨するから祭があるらしいよ。行ってみない?」

「そうだね」

「そうですね」


   ………


沈黙が続いた。

⦅きっ気まずい!何か話題はないかな⦆


 リリスは話題を思い出し,咄嗟に会話を始めた。

「そういえばカーティスとジェイクさんって友達なんですね!」

「「あー……」」


 なにか触れてはいけない話に触れてしまった気がした。

「えっと…諸事情であまり話せないんですけど…身分が違いすぎたんですよ」


 ジェイクは自虐的に笑いながらそう言った。

「じゃあ,敬語を使っているのもそういう理由なんですか?」

「そうです」


⦅わぁ…諸事情があるんだ。どうしよう!2人をくっつけたい!⦆

 リリスは前世のオタク精神を丸出しにして,張り切った。

「うっ…お腹が痛い…カーティスとジェイクさんはここで待っててください……」

「大丈夫なのリリス?連れ添う?」

「大丈夫ぅ…それじゃあ薬局言ってきます…」


 リリスは仮病で抜け出し,二人を見守ることにした。


⦅さてさて,二人の友情は元に戻るのかっ!⦆

 生粋のオタクであるリリスは,推し同士をくっつけるために頑張るのだった。


「……」


 そこから数分の沈黙を経て,ついに話し始めた。

「リリス,遅いですね…」

「そ,そうですね」


 そこからはカーティスが話を展開していった。

「大体リリスは僕の気持ちに気が付いていないと思うんだよ…鈍感って犯罪だよね」

「ははっ,そうだね。俺も早く付き合えばいいのにって思ってる」

 彼らは,本当に友達のようだった。タメ口で学生のように話している。

「わぁぁ!私の友達復活大作戦が大大大成功したぞ!あっ」

「リリスー?これはどういうことかなぁ?」

 カーティスがマスティマと遭遇した時以上に殺気立っていた。

「ひぃっ!?ご,ごめんなさっ…ごめんなさいぃぃぃぃ!?」

「リリスさん見てたんですか…」

「だって,貴方達が楽しそうに話しているところを見たかったんだよ!」


 そう言ったリリスの顔を二人は目を丸くしてみると,笑い合った。

「そうだねっ。旅に出たんだから身分とか関係ないよね」

「そうだねっ。あっリリスさんもタメ口いいかな?」

⦅幸せそうだ……苦しい⦆


 リリスは楽しそうにしている二人を見て,心が痛くなった。幸せになっている人を見ていると胸が苦しくてしょうがなかったのだ。

「リリスさんもこっちにきてください!カーティスの弱点がわかりました!」

「えっ…?」

「リリス!?別に虫が嫌いとかそういうわけじゃなくて,ただ二人を守ろうとしていただけで…くっ来るなぁ!!」


「あははっ!なんか二人とも楽しそうだね」

 気づけばリリスの目からは涙が溢(こぼ)れていた。

「なんで泣いているの!?」

「いや。ちょっと感動しただけ…カーティスとジェイクさん,帰ろっ!」


 そんなことをしていたら泊まっているホテルが見えてきた。


 三人は笑いながらホテルに入っていった。


 * * *       


「なんで私がこんなところに…」

 そう言った女_カーラはリリスを恨んでいた。

 そして突然,彼女の入っていた牢屋に面会が現れた。

「あなたたちは…?」

『あなたたち』と言われた人たちは目の前に立っている,笑っている女以外は全員無表情だ。

「貴女はリリスを恨んでいるのでしょう?話してみて」

 そう言われたカーラは恨みつらみを述べた。

「…という訳なんですけど,あなたは誰なんですか…?」

「んー。彼女の学園時代のお友達ってところかしらね☆私達はまだ学園にいるのだけれど」

「マリア,君はあいつにいじめられていたんだ。友達などと言わなくていい」

「学園…?その装いはローゼンタール辺りですか…なんで学生がここに?休暇期間ですか」

「まあそんなところよ。ねえ,私も彼女のことが嫌いなのだけれどもどこに行ったのか教えてくれないかしら?」


 そう言った聖女・マリアの顔は面白そうな笑みを浮かべていた。

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