国外追放とその前にⅦ

 夜になり,マリアと待ち合わせる予定の裏庭についた。裏庭に行くと,そこにはもう,マリアがベンチに座っていた。

「ごめんね!ちょっと早かったかな?早速本題に入りたいんだけど…いいかな?」

「なんだか馴れ馴れしいのではないでしょうか?一応私は公爵令嬢なのだけれども」

「うふふ,あなたまだ公爵令嬢でいられると思ってるの?」

「 … 」

「そりゃあそうだよねー。こんな下僕同然に扱っていた人間がまさか聖女で,王子様と結婚するとかさぁー。普通に想像できないよねぇ!?」

「まさか…マリア,

「わざわざ遠回しな言い方をしなくてもよくないー?同じ世界から来た訳だよ。私は貴方自身を恨んでいるわけじゃないの。貴方が攻略対象から好意を抱かれているのが嫌なの。だってそうでしょ?私が主人公で貴方は悪役令嬢なのに」

 今のマリアの発言からは完全な悪意が分かった。

「けど,安心してね!貴方の善意に関する記憶は周りの人から消しておいたから☆」

「…ぇ?」

「ほら,見てご覧。みんなみんな貴方へ警戒した目で見ている。メイドのアリサも,アリサの彼氏のイワンも,親友だったはずのイリーナも,愛し合っていたはずのノアも。みーんなみんな貴方のことは嫌いなんだよ!!あははっ!楽しいね,これこそ本当の断罪ってやつだよねぇ!?」

「あ…あ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

久しぶりに泣き,絶望した。私に味方してくれる人がいない。国外追放でも泣いて見送りをしてくれる人がいないだけで辛い。リリスはなんだかんだでアリサを1番信頼してた。国外追放になったときは最悪,アリサさえいれば良い,と。しかしそんなリリスの願いはかなうはずもなかった。

 泣き叫んでいた時,私は誰かに殴られて気絶させられた。


それから起きるまでの記憶がないが目が覚めると,地下牢にいた。

『罪人三番,謁見の時間だ。ついてこい』

罪人三番,それが私の地下牢での呼び名だそうだ。私は手錠を引っ張られるままに謁見の間へと連れていかれた。

「ノア君,ありがとう。君はもう下がってていいよ」

「さて,リリス君。君は国外追放をご所望なんだろう?」

目の前にいる人間(つまり王様なのだが)は四十代とは思えないほどの美貌(びぼう)だ。どうやら不老の薬を飲んでいるらしい。

「はい。こんな罪人が願うのは失礼だと思いますが,国外追放がいいです」

「…本当に?」

まずい。陛下は怒らせると怖いタイプなのだ。しかもマリアの洗脳によって完全にマリア側についている。一生あそこに住んでいた方がいいかもしれない。そう思ったが…

「えぇぇぇぇぇ?どーしよっかなぁ?」

「は?」

「いや,一応君重罪人じゃん?そりゃあ僕だって可哀想で可愛いそうでしょうがないんだけど…聖女様がそうやって言ってるんだし。この国の政治(システム)も厳しいよねー。だって聖女の言うことが絶対なんだもん」

「いえ…そうことではなくて,なぜ陛下は聖女の味方をしないのですか?あとその喋り方はなんですか?」

「一つ一つ答えていくけどー,まず聖女の味方をしないのは多分王家の人間は神から選ばれているらしくて政治上では聖女の方が上なのだけれど神格としては僕たち王族の方が上ってことかな。

 あ,ちなみにそれじゃあなんでカリヤルは王家の人間なはずなのになんで洗脳されているかって?僕,カリヤルのこと嫌いだから」

 なるほどカリヤルのことが嫌いなのか。だったらカリヤルルートは破滅に行くのか。

「一応,僕が聖女が見つかったっていう恩赦(おんしゃ)とかで国外追放にできるけどどうする?」

「それでお願いします。あと一緒に旅をしてくれる人間がいると嬉しいのですが…」

「もちろんいるよ。逃げられたら困るしね⭐︎」

そう国王が言い,玉座に座りながらこう言った。

「それじゃあ出てきてー。リリス君,この人が一緒について行ってくれるから!」


 その人を見て絶句した。国王を見るとすごいニヤけていた。そうなぜ絶句したのか?理由は…


「はい,この人カーティスというんだけど…結構人見知りなんだけどめっちゃリリス君を見てるじゃーん」


 この王様一回死んで己の罪を自覚した方がいいのではないだろうか?

「カーティスです。よろしくお願いします」


 対してカーティスと名乗った男はすっごい美形で誰でも虜(とりこ)になりそうな顔をしていた。

「なんで旅の付き人が男なんですか!?」

「たとえリリス君がどんなに美しかったとしても君を恋愛対象として見ないから大丈夫だと思うよー。あと国外追放追放だからね?見張り役も兼ねているんだよー」


 とりあえず納得はした。しかし仲良くやっていけるかは別というのはもはや常識である。

⦅好感度を確かめる方法その名も挨拶ッ_!⦆

「えっとカーティスさんこれからよろしくお願いします」

今までではありえないほどの笑顔でそう言った。

「あ,お願いします…えっと学園の様子を見てて伝えたいことがあったんだけど…付き合ってください!!」

「陛下!?恋愛対象として見てないってなんなんですか!?一分くらいで破綻(はたん)してるんですけど!!」

「あははーまあいいじゃないかー見張り役なんだしー」

 とても棒読みになっている。さてはこの王様(ジジイ)知ってたな。

「まあいいですけど。とにかく必要なものをまとめてきます」


翌日の朝になり王城の前には沢山の人が集まった。

「リリス・スチュアートを第三王子との婚約破棄,国民権の破棄そして国外追放に処する!異論のある者はいないか!」

 みんなが沈黙した。そのタイミングで索敵魔術を使いマリアの周りを見た。そこには味方してくれていたみんながいた。そしてその皆は私を敵意剥(む)き出しの目で見ている。

「それじゃあ…行ってきます」

誰も返事をしない。やっぱり洗脳されたままであった。この土地にはもう帰ってこないことだろう。それでも家みたいな実感で過ごしていたこの国に言っておきたかったのだ。

「それじゃあ行きましょうカーティス,もう馬車はとっているわ。あとため口で良いわ。これから2人で旅をするのですから」

「うん。分かった。ふふ,楽しみだね。旅をするんだもんね?」

「勘違いはやめてください。しょうがなくですからね。最初はどこに立ち寄りましょうか…」



 旅が始まり,出会いと別れが訪れる。しかしこの二人が歴史に残ることはないだろう…?

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