国外追放の前にⅤ(学園祭後半)

 三日目が始まり,そして最後の仕事(シフト)が始まった。

 今日が終われば明日は魔術決闘がある。そこで優勝するのが転生してからの夢だった。

「いらっしゃいませ。本日は何を頼みますか?」

「リリス様えっと,あの,好きです付き合ってください!!」

 え,待って待って私そんなことしたっけ。好きなの,え本当に!?

「あのぉそこの生徒ーリリスは私,イリーナの彼女なのでぇー勝手に告白しないでいただけます?」

「リリス様は絶対に結婚させません。私が一生支えます。だから近づかないでください」


 みんな女子生徒の扱い可哀想すぎるよ。やめようよ,とリリスは思ったが,衝撃(しょうげき)の発言が教室の雰囲気を変えた。


「リリスが可哀想(かわいそう)だよ?早く解放してあげないと。なんせ僕の彼女だから」

そう言ったのは攻略されたはずのノアだった。

「ノア様!?ふざけですよね!?そうですよね!?」

「ふふふ,僕は本気で言っているんだけどね」

 

冗談じゃない。こんなに選択肢(ルート)が変わったら私が築いてきた国外追放ルートがなくなってしまうではないか…ん?けど国外追放宣言するのはカリヤルだから別にノアは関係ないっか。

「と,とりあえずちゃんと働こっか。売り上げ減ったら収入が減るから」

 なぜかいつも狂人枠のリリスが一気に四人に告白されたことから困惑していた。

「あと私一応婚約しているんですけど…」

「「「そんなの関係ない!!」」」

すみません。やっぱノアが照れてたように見えたのはこれだったのか。


「とりあえず今日のシフト頑張るよ!!」

今日も沢山客が来た。そしてその時が来てしまった。

「リリス様!なんでそんなことをするのですか!?」

 そう言ったのは,アリサではなく主人公のマリアだった。その時不意に気づいてしまった。無効術式を使えるのは王家の人間もそうなのだが聖女も使えるのだ。おそらくこれはマリアとカリヤルとセシルが共謀して嵌(は)めようとしているのだ。


「待って…私はやっていない!!現に他の人と話していたじゃない!私にはする時間は無いわ」

「リリス様は確かに他の人と話していましたが,喋っていても殺傷系の魔術は使えますよね?なにせ貴女は一級魔術師(かいぶつ)なんですから」

リリスのクラスがざわついた。

 一級魔術師とは神に近い術式,つまり世界の平和や平均を勝手に操り世界を操作することのできる人間で宮廷魔道士のレベルの一級術者よりもすごい。

人生のほとんど全てを魔術に使い才能があってようやく三級術者くらいになれるのだ。

それこそ生まれつきの魔力と圧倒的な技量がないとなれないのだ。


「マリアに何をしたんだリリス!?もう許さない…しかし明日覚えていろ!」

もしかすると,もしかすると私は明日国外追放されるかもしれない。だとすると早めに思い出はつくっておいた方がいい。

「リリス,あれ大丈夫?先生とかに言っておいた方がいいんじゃないの」

「大丈夫。それより午前のシフト終わらせて一緒に回ろ?」

「あのさ…リリス!今日は僕と回って欲しい。駄目かな?」

「私は…私はみんなと回りたいな。明日はシフト無いから午前中に一緒に回ろう!」

 混乱したままシフトが終わり,みんなと回ることにした。クレープを食べたり,プラネタリウムをまた見たりした。

「この文化祭が終わったら次の次の日は冬休みですよ!」

あぁそういえばそろそろ冬休みか。冬休みもみんなと話せたらいいな。


 こうして文化祭三日目が終了した。


「ねぇアリサ。ノア様に告白されたけどOKって言ったほうがいいのかな」

「私はああ言いましたがリリスお嬢様を幸せにしてくれる人だったらいいと思います」

「ありがと。それじゃあおやすみ」


 文化祭最終日が始まってしまった。

この日はクラス展示を行っているクラスは少なく,ミスコンの決勝や魔術決闘大会,閉祭式が行われる。

「よっしゃぁぁぁぁ魔術決闘大会だぁぁぁ!!」

「お嬢様,もう信条(ポリシー)守る気無いですよね!?」

 魔術決闘大会とは,学園の生徒の中で誰が一番強いかを競ういわゆる最強王決定戦みたいなやつだ。


「魔術決闘大会の予選までは時間がありますから一緒に回りませんか?ノア様」

「うんいいよ。と言うか自分も回りたいと思っていた。」

 今展示している教室は,プラネタリウムとアリサ達のカジノ,私達の喫茶店だった。

「どこ行きます?」

「んーカジノとプラネタリウム回りたいかなー。」

ということで午前の内にプラネタリウムとカジノを回ることにした。


「リリス,やっぱり心配?カリヤルの事」


正直心配だ。もしかしたら何らかの理由で追放が早まってしまうかもしれない。幼いころは私はこの国が嫌いだと思っていた。マリアしか興味のない人間に,何もしていないのに私を虐(いじ)め,見下す人間。私は,そんな国に生きるのが耐えれなくて国外追放という道を選んだ。



 しかし,今になって見てみれば敵だらけだったのか?



いつも丁寧にしてくれるアリサ,私を怖がらずに気軽に接してくれるイリーナ,優しくはないが他の攻略対象よりもよく接してくれる(多分アリサのお陰だけど)イワン,私を大切にしてくれているノア。

 これだけの人間が私を見捨てないでくれているのだ。

⦅嫌だ。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!

皆と一緒に楽しく過ごしていたい…もう駄目だって分かっているけど…それでも…⦆

「うっ…うっ…」

「どうしたのリリス!?」

「まだ,皆と過ごしてたいよぉ…」

「大丈夫,その時になったら僕たちが守るよ」

 嬉しい。私はそれを言いそうになった。けれどそれでいいのだろうか。私が望んでやったことなのに?

これで覚悟がついた。ついてしまった。もういつ国外追放されてもいい。

「ありがと」


魔術決闘大会は,カリヤルの優勝だった。…まあ実際は私が圧勝していたのだが,幻覚魔術(コネ)でカリヤルが優勝ということになってしまった。別にかっこいいトロフィーが欲しかったとかそういうわけではない。決してそういうわけではない!




結局カリヤルのの正体が分からずじまいのまま,閉祭式を迎えてしまった。

⦅結局カリヤルはなんの行動も起こさなかったのか…やっぱ悪役お馴染みの三下ムーブしてただけなのかな?あっ悪役は私かー⦆


「それでは今回のミスコンの優勝者と魔術決闘大会の優勝者を発表していきたいと思います…」

しばらくいや,正確に言うと,三十分くらい時間が経った。どれくらい校長先生の話は長いのだろう。元の世界でも校長先生の話は長いというのでお馴染みで寝るほど暇だったのだが。

「それでは,生徒会長カリヤル・ローゼンタールの挨拶です。お願いします」

「生徒会長のカリヤルです。まず今回の文化祭,お疲れさまでした…」

カリヤルの話も暇で寝そうになっていたその頃。とんでもない爆弾発言がカリヤルの口から発された。

「…ところで今回の文化祭ではプラネタリウムの魔道具の破壊,また準備期間中のカジノの音響の魔道具の窃盗など卑劣な行為をしている人間がこの学園にいました。それは…僕の婚約者,リリス・スチュアートです!!」

「はぁ!?」

「それだけではない。お前は我が愛しの聖女マリアをいじめた!これら罪はとても重い。よってお前の爵位の剥奪(はくだつ),国外追放の刑に処し,俺との婚約を破棄する!!」

あー待って待って。全然理解が追い付かない。虐めたっていう話は確かに事実かもしれないよ?だってそう見えるように工作していたのだから。しかし!!魔道具の破壊はやっていないのだが?

「なにをぼーっとしている。反応しろスチュアート!!」

「あ,はい。こんな男のいる国なんてまっぴらごめんですわ。明日にでも出ていきます」

「あっそうだ!リリス様,今日の夜少し話したいことがあるのだけれど…」

「マリア,それは危険だ。こんな悪女と二人きりにさせない」

「大丈夫です!私は聖女魔術を使えますので!」

聖女魔術…?まだこの期間は聖女(メシア)だと知らないのに…?



 違和感を抱きながら,今夜主人公にして聖女マリアと会話することが決まった。

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